ダンジョン最下層を目指せ!
062
このダンジョン25層には1国が買えるほどのお宝が眠っている。
いや、いや、いや。
メインはフェヘールに危害をくわえようとしたヘリアルの駆除なんだけど。
ただ、そのついでに宝探しをしてもいいよね?
ダンジョンと財宝は胸がときめく最高の組み合わせだ。
僕たちは20名の追跡班を編制してダンジョン25層を目指した。
20層までは味方についた冒険者たちが地図を持っていたので、最短最速で降りていく。
入り口から7層のアダマント鉱山まではルートもしっかり整備され、魔獣もできるだけ狩って安全が確保されていた。
隠れ里から人を連れてきて働かせたり、掘ったアダマントを運ばせるため、できるだけの安全を確保していたのだ。
しかし、その下の8層からはそんなこともなく、歩きにくいところもあれば、魔獣との接敵率も高まる。
「よし、出たぞ! いけ、いけ、逃がすな!」
「俺たちで仕留めるんだ、押せ、押せ!」
冒険者たちが魔獣を発見すると、すかさずクシュウさんが突撃指示を出す。
ほぼ同時にマトルさんを先頭に隠れ里の精鋭たちも斬りかかる。
なにしろ後ろにフェヘールがいるのだ。
聖女様にいいところを見せたい冒険者と、ファルカシュ子爵の継承権およびチヴァスィ王家の血を継ぐ少女にいいところを見せたい隠れ里の住人が競うように――いや、間違いなくどっちが先に魔獣を倒すか、どっちの与ダメージが高いか、まさしく競争になる。
しかも、負傷をしようものなら直接治癒魔法をかけてもらえるのだから、これ以上なく強気で攻撃するのだ。
もう魔獣のほうがかわいそうなくらい。
そうやって20層まで無事にやってきたんだけど。
僕なんか、いちおうフェヘールの護衛をしていたのに、実際にはなにもすることがなくて。
ただ、21層に降りると争うように進んでいた冒険者と隠れ里の人たちもペースを緩めた。
地図がないし、ここからは魔獣の強さが違うとブレイブスピリットの幹部クラスしか立ち入りを許されてなかったのだ。
この世界でも有数の冒険者クランの幹部といえばランクでいえば最低でも金札だろうし、天才とか、精鋭とか、ベテランとか、そんな評価がついていて、場合によっては2つ名がつけられていたりするからね。
だけど、ヘリアルたちが逃げた直後だったせいか、いまのところ魔獣の姿も見えなければ、気配すら感じられない。
魔獣の気配は、だが。
「でも、なにか感じるよ」
僕が目を前に向けたまま隣に話しかけると、フェヘールがうなずくのがわかった。
「誰かいるみたい……1人だけ?」
「見張りとか、そんなのだろうね。気配を絶って忍び寄ることはできるかな? できれば騒がれる前になんとかしたいんだけどな」
「絶対無理とは言わないけど、相手は一流冒険者だろうから、まあ、上手くはいかないと思うけど」
「うん。上手くいかないね」
見張りが異常事態を知らせないように無力化したいという希望は一瞬で潰れた。
なぜなら、僕たち以外の味方が喊声を上げながら突撃していったからだ。
「いたぞ!」
「あそこだ!」
「やってしまえ!」
「殺せ! 殺せ!」
「楽には殺すな!」
わーっ! と叫びながら一斉に襲いかかる。
どうやら見張りをしていた冒険者は僕たちの接近に気づいて警戒していたみたいだけど、いきなり敵意を剥き出しにして問答無用で襲いかかってくるとは予想してなかったのだろう。
いちおう剣を抜いてはいたが、対応が遅れて守勢にまわるしかなかったが、さすがに腕利きの冒険者らしく、まとまりのない集団攻撃を捌いて攻勢に転じはじめた。
「ストリーム・ストライク!」
味方の隙間を発見した瞬間、使い勝手のいい速攻技を出す。
5メートルの間合いを1秒もかからず潰して胸を突いた。
「ぐっ……」
集団の後ろから一気に斬りかかったから奇襲になったはずなのに、ちゃんと対応して僕の剣を受けた。
だけど、それは隙だ。
狙ったかのように――実際、狙っていたのだろう、クシュウさんの剣が上から地面に斬りつけるかのように走り、見張りの膝を切断した。
そこに味方が殺到し、まさしく膾のように切り刻む。
10秒もしないうちに死体というより、肉片にされた見張りのブレイブスピリット幹部。
いくら腕利きの冒険者でも数の暴力には勝てないのだ。
僕たちの味方をしてくれている人たちも殺意がMAXで高いし。
フェヘールのこともそうだけど、自分たちだってヘリアルたちに復讐されるかもしれないのだ。
しかし、死体は噛みついたりしないからね。
こっちには聖女様がいるから中途半端な負傷だと、すぐになおしてしまうし。
「次がくるぞ、盾を前へ!」
クシュウさんが冒険者たちに指示を出すと、さっと大盾を持った冒険者が動き出す。
隠れ里の人たちもほとんどが大盾を背負っていて、それを下ろして構える。
ドタドタと足音が近づいてきた。
ブレイブスピリットの幹部らしい冒険者が7人、こっちに急速接近中。
怒声が飛び交い、ガンガンとやりあう音で耳が痛い。
1人1人の戦闘能力では劣るものの、数が多い僕たちは全面に大盾を押し出して、その隙間から槍や弓で攻撃するという戦術――あらかじめ考えていた作戦なのに、いままで結局一度もやらなかったのが、ここにきてやっと機能した。
普通に戦ったら勝てない相手だけど、防御をかためつつ攻撃すれば有利になる。
2人が倒れた時点でブレイブスピリットの幹部たちは後退した。
間合いを充分にとると魔法士が炎弾を撃ちはじめる。
何発かは弾くが、そのうち木製の盾が燃えだした。
しかし、その間もこっちは弓で射ていたから、敵の人数はさらに3人減っている。
それで自分たちの不利を感じたのだろう、残る2人のブレイブスピリットの幹部は逃げ出した。
「追え!」
「逃がすな!」
おーっ! と叫びながら冒険者と隠れ里の住人が走り出し、一部は倒れている敵にきっちりとどめを刺す。
だが、そのとき爆発するような轟音がダンジョンに響いた。
びっくりしてフェヘールに尋ねる。
「ダンジョンに火山でもあるの?」
「わたくしは聞いたことない、知らないだけかもしれないけど」
「それなら魔法か?」
「味方の人たちは平気で走ってるけど。攻撃魔法だったら全滅しててもおかしくない、ものすごい音なのに」
ドンドンという轟音はまだ続いている。
強力な魔法ならこんなに連発できるわけがない。
ひょっとして、さっき逃げていったブレイブスピリットの幹部やヘリアルが魔獣に襲われているのか?
交戦中というのなら戦うだけ戦わせて、弱ったところを漁夫狙いもあり。
「こっちを攻撃する魔法じゃないかも……いや、なんかみんな戻ってきてないか?」
「戻るというか……逃げてるみたいだけど」
「なにが起きているんだ? 僕が前へ出る!」
「わかった。だげど、危なそうならちゃんと逃げなさいよ」
フェヘールの言葉に、了解とだけ言い残して全力で走り出す。
いったい、なにが起きているのだ?
僕が向かってきているのに気づいた味方が両手で×を作る。
「ダメだ! ダメだ!」
「王子、逃げろ!」
ものすごい形相でこっちに逃げてくる味方が僕にも逃げるようにと叫ぶ。
あまりにも必死な様子に、僕はいっそう足を速めた。
なにか起きているんだ?
その瞬間、ピリッと脳裏に痺れるような感覚が。
反射的に近くの岩陰に身を投げ出し、できるだけ小さくなって伏せる。
視界が真っ赤に染まった。
痛い……熱い。
炎の塊が僕の目前まで伸びてきたのだ。
ギリギリ射程外だったようだけど、余熱でさえ凶暴な威力だった。
そして、顔を上げると味方が全員倒れている。
振り返るとフェヘールがこっちに向かっていた――危険地帯になりつつあるのに、負傷者がいるのなら動いてしまうのだろう。
「どうしょうもないね」
フェヘールが必ずそういう選択をするのは知っているのだから、僕は僕のやれることをするしかない。
あんな炎の攻撃を防ぐ自信はないし、間違いなくフェヘールを連れてダンジョン21階層から脱出し、地上に戻るのが一番安全だ。
そんなことわかっているけど、フェヘールが負傷者を見捨てないという選択を選んだ以上、それを守るのが僕の役割。
いくぞ、いくぞ、いくぞ、と自分に気合いを入れて立ち上がる。
そのとき、ドンシドシンと轟音を響かせながらやってくる魔獣の姿が見えた。
轟音は火山の噴火でも、攻撃魔法でもなかった。
ただの足音。
巨大なドラゴンが僕を睨んでいた。
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ゴールデンウィークも後半戦ですが、どうやら今年はどこにもいかずに終わりそう。まあ、原稿がそこそこできたので充実した長期休暇と思っておきます。
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