ダンジョン+財宝は最高の組み合わせ
061
メレデクヘーギ山脈に消えたという伝説のみが残るチヴァスィ王国の生き残りが隠れ里を開拓して、いまだに存在していた。
領地を全ロスしたはずの王国が山奥の隠れ里とはいえ続いていたのだからびっくり。
そこにフェヘール教の狂信者である冒険者が裏切って、あやうくオーガのエサにされるところだった僕とフェヘールは命拾いした。
取り逃したというもののヘリアルが逃げていった先は水も食料もないダンジョンの奥で、いま僕たちがいる場所を通らない限り、地上への道はないらしい。
しかも裏切らなかったブレイブスピリットのメンバーでも負傷して置き去りにされた者についてはフェヘールがさっさと治癒魔法でなおしたから信者に鞍替えした。
命の軽い世界だし、その中でもとりわけ軽いのが冒険者の命だ。
死にかけた冒険者を治療して復帰させるくらいなら、使い捨てにして新しい冒険者志望の若者を連れてきたほうが安くすむのだから。
しかし、本人にとっては命って1つしかない大切なもの。
それを救ったのだ。
「わたくしを誘拐監禁したのだから首が落ちるのは覚悟してるよね? だから、いますぐメレデクヘーギ侯爵領から逃げるように。そして、そのままアルフォルド王国からも出なさい。わたくしはもとかく、こっちのクリートは王子なので王国全体に指名手配がかかるかも。ただし、わたくしたちが戻ってからだから、まだ時間がある。いまからすぐに旅立てば充分に逃げられるはず」
これで二重に命を救われたのだから、全員が逃げるという選択肢を捨てて、聖女様の役に立ちたいと言い出したわけだ。
逃げられるのに、あえて残ってフェヘールのために役立とうというのだから、僕としても王子として出来るだけ罪が軽くなるよう口添えすると約束するしかない。
マトルさんとクシュウさんに案内されてブレイブスピリットのギルドハウスにやってきた――正確には2人ともフェヘールに仕えているようなもので、僕は案内されているその後ろをついていったようなものだけど。
木造のこぢんまりしたものだけど、このダンジョン内で一番いい建物らしい。
まあ、ダンジョン中にまともな家を建てるだけでも大変なんだけど。
その中でも最高の部屋で休んでいいと言われたが、きっとヘリアルの部屋だろうから、普通の部屋を借りることにした。
どうやらクランメンバーの仮眠用らしく、ベッドが6台並んでいるだけの殺風景な部屋だけど、少なくとも牢より室内もベッドも快適で清潔だからこれで充分だ。
バケツではなく、ちゃんと個室のトイレも設置されているし。
しばらくうたた寝していたら、ノックの音で起こされた。
マトルさんが食事を持ってきてくれる。
またしてもシチューだったが、謎の肉と野菜の切れっ端ではなく、ちゃんとした肉と野菜が入っていた。
「ありがとう」
フェヘールがお礼を言うとマトルさんの目尻が下がる。
まるで孫に甘いおじいちゃんだ。
「ありがとう」
僕もお礼を言ったけどなんの反応もなかった。
おじいちゃんだから耳が遠いのかもね――無視されたんじゃないよ、たぶん。
食事の後は現状どうなっているか情報のすりあわせをした。
まず、隠れ里のほうからメレデクヘーギ侯爵が率いる探検隊と、麓の侯爵家にそれぞれ伝令を出してフェヘールとその連れがダンジョン内に捕らえられていると知らせてくれているらしい。
結果的には反乱は成功して、ヘリアルを倒すところまではいかなかったが、追い払うことはできた。
しかし、絶対に成功するという保証もないので、失敗した場合も考慮して連絡したのだろう。
伝令が間に合うかという問題はあるとしても、最大限の配慮をしてくれたことになる。
聖女とか、ファルカシュという名字は、きっと僕が感じている以上に彼らにとっては重たいのだ。
「まず、このダンジョンの規模を教えてください。そこにヘリアルの逃げた先の心当たりはありますか? このダンジョンの下層にはここみたいに建物や、なにかの施設があるとか」
フェヘールが質問した。
まずはマトルさんが答えたが、現在我々がいるのが地下7層で、隠れ里の者たちはさらに3層下の10層までしかいったことないそうだ。
「わたしどもは冒険者ではありませんし、生活にゆとりができれば助かりますが、それだったらこの7層のアダマント鉱山で充分ですから、なにも危険をおかして下層にいく必要はありません」
「俺たちは冒険者なのでできる限り下までいって、このダンジョンが地下25層まであることは確認しました。ただし、20階層より下は幹部クラスの腕利きだけで、俺はそこまでいったことないです、話で聞いてるだけで」
クシュウさんはそんなことを説明してくれた。
前世のゲームでは100層のダンジョンとかあったけど。
逆に地下ではなく100階の塔を登っていって頂点まで制覇するとか。
それからすればしょぼく感じられるが、この世界ではダンジョン自体そうそうないし、25層なら規模的にもかなり大きいほうらしい。
さらにクシュウさんはちょっと……いや、ものすごく気になることを口にした。
「おそらくクランマスターたちは最下層に逃げてるんじゃないかと思います。前に耳にしたことですが、お宝があるとか。領主様のご家族に危害をくわえようとしたのですから、メレデクヘーギ侯爵領にはいられないですよね? さらに王子に手をかけようとしたのですから、この王国にすらいられない。最近のアルフォルド王国はバレンシア帝国などとも友好関係を築いていますから、ほとんど大陸にも居場所がないような状況になりますよね?」
それで逃亡生活を送ったり、遠方でやり直すことを考えたら、お宝は絶対に持っていくはずだと断言する。
それにしてもダンジョンと財宝……か。
この上なく説得力ある組み合わせだ。
どの世界においても最高のもので、これを超えるコンビはそうそうない
僕は身を乗り出して質問した。
「で、そのお宝ってなに? 下層では金や宝石でも出るの?」
「掘るのなら人を連れていくでしょう。だけど、そんな様子はないから鉱山みたいなものではないと思います」
「だったら?」
「それが……教えてくれないんですよねぇ」
「なんで?」
「さあ? ただ――」
「ただ?」
「国が買えるほどだ、と」
クシュウさんの言葉に僕の目が丸くなる。
国が買えるって、アルフォルド王国にしても、他の国も値札がついてるわけじゃないんだけど。
国家予算の何年分――ことによっては何十年分という意味か?
金塊だったら重すぎて運べないかな?
僕の頭くらいあるダイヤモンドとかルビーだったらどんな価値があるのだろう。
しかし、ものすごく高価なものがあったとして、さっさと地上に運び出して安全なところに保管すればよかったのに。
いや、逆か?
ダンジョンの最下層なんて、普通は絶対に入ってこれない。
しかも、入り口はメレデクヘーギ山脈の地図にない場所で、クランのメンバーが常時監視している違法な採掘現場を通過するだけでも大変なのに、ダンジョン下層といえば強い魔獣がゴロゴロいるはず。
だから、あえて地上に運び出さなかったと考えてみれば、なるほどと納得する。
「ねぇ、クリート。なんだか悪い顔をしてるわ」
フェヘールが変なことを言う。
いや、僕はダンジョンの下層までいって、その財宝を横取りしようなんて、まったく考えてませんからね。
本当だよ?
「いや、ヘリアルを取り逃がさないように、確実に仕留めたいと思っているだけだよ。なんかさ、逆恨みしそうなタイプじゃない? あの男。命だけでなく財力まで残ったままなら、しつこくしつこく狙ってきそうだ」
「あっ……それは感じた」
こんなフェヘールの一言で最強の追跡班が編制されることとなった。
ファルカシュで、聖女様でもあるフェヘールをしつこく狙う奴は早急に処すべきというのが彼らの常識だからね。
彼らにしても、ここで取り逃がしたらどんな目に遭うかわかったものではないし。
いま鉱山には200人近くいるが、ダンジョン内の鉱山労働をさせられていた者だけでなく、外にある隠れ里に住む者まで動員して、最大戦力でヘリアルに反抗したのだが、それをそのまま追跡班として、さらにダンジョンの下層まで連れていくわけにはいかないだろう。
選抜して、精鋭部隊を作ることとなった。
ブレイブスピリットのクランメンバーでありながらフェヘール教の信者として隠れ里の勢力についた冒険者たち8人は全員を連れていく。
こっちは冒険者なのだから、危険なダンジョン下層であっても連れていくのにためらいは感じない。
結局、隠れ里の選抜メンバー10名と、冒険者8名、それに僕たちの合計20名でダンジョン25層を目指すこととなった。
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