結局2人で生きるか2人で死ぬか
059
脱獄準備中の僕たちにエイン・ヘリアルが出してやろうと声をかけてきた。
いやいやいや、閉じ込めた本人がそんなことを言い出したって、うさんくさいだけだよ?
壁を0.1ミリずつ削る作業やめて鉄格子の前に立つ。
「ただ出してやるだけでなくて、剣もやろう。どうやらアダマントの剣が欲しいみたいだな? そんなもの、いくらでもある。持てるだけ持たせてやろう」
「勝手に招待してみたり、豪華なお土産をつけてくれると言い出したり、なにが目的なんだ?」
「フェヘールは途中で死んだことにしてもらえると我は大変助かる」
「嘘をつけというのか?」
「実際に死ぬのだから、事実の報告だ」
「事実の報告というのならブレイブスピリットのクランマスター、エイン・ヘリアルに殺されたと言えばいいんだな?」
「魔獣のエサになったと報告するがよい。それが、これから起こる事実なのだから」
「起こすんだろ、龍人族は言葉もまともに使えないのか?」
「……我と敵対関係になっても得することはない」
「すでに敵対関係だ」
「断るのなら大好きなアダマントを死ぬまで掘らせてやろうと思ったが、一緒に死ぬのも一興か……我も急いでいるわけではないから、しばらく時間をやろう。賢い選択がどっちかよく考えてみるとよい」
最初は僕を鉱山奴隷にするつもりだったのか?
アダマントの剣を持って生き残るか、ここで死ぬかの2択を残してヘリアルは去っていった。
その姿が見えなくなってから僕は質問した――アダマントの剣を欲しがっていることを知っていたのだから、こっちの会話を盗み聞きする手段があるのかもしれないけど。
「冒険者ギルドの前で聞いたときは快く思ってない程度の話だったはずなのに、なんかどうでも殺したいくらいの勢いじゃない?」
「まあ、大勢の冒険者がいる前でわたくしの殺害願望を丸出しにしたら、さすがにダメだし」
「じゃあ、あれで控え目だったわけだ。いったいなにをしたら殺し合いになるの?」
「わたくしは殺そうと思ってないけど……思ってないよ?」
そう言いつつ、目をスッとそらす。
これは殺したいと思っているな。
結局、自白する聖女様。
「あのね、以前にも事故が仕組まれたっぽいときがあって、あいつが消えたら面倒ごとも消えるかな? と思ったことはあるよ。正当防衛! 正当防衛!」
「そもそもの原因はなに? 治癒魔法だけでは殺し合いにはならないと思うんだけど、普通」
「わたくしの代ではそれだけよ、本当に」
「わたくしの代?」
「1つ前の世代だと――お父さまは剣で有名じゃない? その修行になるからと、若いころから相手が貴族だろうと、冒険者だろうと、挑まれたら試合を受けててね」
ボコボコにしたわけね。
いま冷静に振り返ればヘリアルの呪術は急に体の中が痛くなっただけで、別に致命傷とかではない。
そこまでの威力はなかった。
集中力を切らしてしまった僕のミスが敗因だ。
敵が剣でも槍でも弓でも魔法でも、バトルの時は外傷を覚悟してやっているから、皮膚や筋肉のダメージなら問題なかったけどね。
でも、メレデクヘーギ侯爵なら胸でも腹でもチクリと痛みが走ったところで無視して、そのまま斬りかかっただろう。
「お母さまは優秀な魔法士として名前が売れていたけど、貧乏子爵家の出身だから結構いろいろ仕事を請けていたらしいの。領内の強い魔獣を倒してもらいたいとか、冒険者と重なる部分もあって、そのころヘリアルと揉めることがあったみたい。腕に覚えの人たちが揉めたらゲンコツの強さで決着するよね?」
水溺姫だったな――こっちもこっちでボコボコにしたわけだ。
あのエイン・ヘリアルって龍人族はかなりプライドが高そうだったし。
もっとも、両親にやられたからといって、その娘を狙うのはヘタレ感あるけどね。
だけど、フェヘールの話には続きがあった。
「その前の代、つまりお祖父さまやお祖母さまだけど――」
「えっ? そこでもトラブルが?」
「そこでもというか、歴代のメレデクヘーギ侯爵やその関係者と揉めごとを起こしてるけど?」
当然でしょ、みたいに言われても。
龍人族はかなりの長寿というか、実質的に寿命がないらしいとフェヘールは説明してくれた。
死亡原因の1位は戦死。
自然死というのはほとんど聞いたことなくて、殺されない限り基本的には死なない種族らしい。
「ヘリアルも見た目は30前後くらいかな? だけど、実際にはその10倍は生きているみたい、本当の年齢は知らないけど。そして、メレデクヘーギ侯爵領ができたときには、すでにここで冒険者をやっていて、ずっと我が家と揉めている、ある種の有名人なの」
「そんな揉めるのならメレデクヘーギ侯爵領から出ていけばいいのに」
「うち以外のアルフォルド王国の土地では獣人族は差別を受けることも多いから――大陸全体でそんなところがあるかな? 差別意識が薄い土地でも、尊敬まではされないよね。人族でさえ出自とか体つきとか、しょうもないことで差別する人がいるし」
「この領内なら魔獣と戦う強さがあれば種族関係なく尊敬される立場でいられる、か?」
「そういうこと。まあ、大陸でも有数のクランマスターだから表だってはバカにされないかもしれないけど、心から尊敬されたり、まわりから持ち上げられるのはメレデクヘーギ侯爵領だけだから」
「ほんの何人かしかいない領主の家族とは仲が良くなくても、大勢いる冒険者から敬意を持って接してもらえるのなら、この土地が一番住みやすいだろうね」
「勘違いしてもらいたくないんだけど、うちの家はなんとも思ってないのよ。お父さまにしたところで、いい修行になったとしか思ってないだろうし。向こうが一方的に恨んでいるだけ」
「逆恨みというヤツかな? 確かに面倒だ」
「でしょ? あいつが消えたら、その面倒も同時に消えて、やれやれなんだけど……こうなってはどうしょうもないわね。クリートだけでも逃げて」
「それはできない」
「気に病む必要はないわよ。だって、これはメレデクヘーギ侯爵家の問題なんだから」
「これはバレンシア帝国で襲撃されたときにも話だけど、2人で生きて帰るか、2人で死ぬかだよ。僕だけが戻ったら婚約者の女性を見捨てて逃げてきたと社会的に死ぬから」
僕は頑丈なブーツで壁を蹴る作業に戻った。
こんなことで壁が壊せるのか疑問だけど。
「クリートは王子だからそうそう殺せないし、さっきは一緒に殺すようなことを言っていたけど、実際には鉱山奴隷にでもするつもりだと思う。あいつも死ぬまでアダマントを掘らせるとか、なんとか言ってたし。わたくしが殺された後、1人だけでずっと鉱山で強制労働は嫌でしょう?」
フェヘールが僕の背中に話しかけてきたけど、僕は小窓の外から目を離せなくなっていた。
ダンジョンの中の、ちょっと開けた場所にオーガが2頭もいる。
頭に袋を被して視界を塞ぎ、両手を後ろに縛られ、足にも拘束具がついて自由を奪い、首に巻かれた鎖を冒険者らしい男にひっぱられて連れてこられていた。
そして、鎖を地面に打ち付けられた杭に固定する。
「いや、どうやら僕も魔獣のエサみたいだよ」
ほら、と小窓の外を指すと、フェヘールも近寄ってきてオーガを見た。
「2頭いるってことはフェヘールだけでなく、僕もエサにするつもりなんだろうね」
「でも、ここでクリートを殺したら、表向きには王子が行方不明だから大捜索がはじまる。そうなったら、このダンジョンも見つかってしまうのに」
「捜索といっても、すぐには無理だろう? 場所が場所だけに入念な準備が必要だし」
「それはそうね」
「そこに有名な冒険者クランがフェヘールと僕の死体を持っていけば捜索も中止になるだろ?」
「でも、王子が死んだわけだし……」
「剣や魔法での戦闘傷が残る死体なら犯人捜しがはじまるかもしれないけど、魔獣に食われて殺されたのなら誰も文句は言えないだろう? だから、わざわざオーガを捕まえてきたんじゃないのかな。実際に襲われて、適当に食わせたら、本当に魔獣にやられた痕跡しかない死体ができあがる」
そういう僕たちの視線に気づいたのか、龍人族は聴力が高くて会話が聞こえたのか、連れられてきたオーガの検分をしていたヘリアルがこっちを向いた。
「明日だ。明日の朝まで待ってやろう。よく考えろ、王子。フェヘール・ファルカシュ・メレデクヘーギ、貴様は生きたままオーガのエサにしてくれる!」
怒鳴りつけられる。
しかし、まあ……そんな怖い顔をされても、だからといって僕の返答が変わるわけないんだけどね。
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