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このダンジョンの主

058


 未知のダンジョンを踏破する! とテンション爆上げで突入したのに、水源に樽やら柄杓など、誰かがいたような痕跡があった。


 しかし、メレデクヘーギ侯爵家には新ダンジョン発見という報告はないとフェヘールは言う。


 たちの悪い冒険者が稼げるだけ稼ぐまで存在を隠しているのか、鉱山技師というより山師と呼んだほうがいいような連中が稀少金属でも探していたのか。


 すでに立ち去った後なら問題ないが、まだなら別の危険があるということだ。


「帰ったほうがいいかもしれないな」


「そうね、場所だけ記録しておいて、後はお父さまに丸投げしようか?」


 未踏破のダンジョンだったら冒険したいところだけど、すでに探索済ということになれば一気に頭も冷える。


 おまけにダンジョンを発見したら報告するという簡単なルールすら守る気のない連中と顔を合わせるかもしれないのだから、ここはさっさと退却するのが賢明だ――と思ったんだけど、どうやら遅かったようだ。


「誰かくる」


「わたくしも捉えた」


「水の補充かな? 奥に移動すればやりすごせるか?」


「ここにいるよりはましでしょ」


 フェヘールはすぐに動き出す。


 僕も後を追ってダンジョンの奥へ移動する。


 同時に戦闘も覚悟しておく。


 殺人を躊躇って、自分やフェヘールが怪我したり死んだら嫌だからね。


 だから、必要ならば人でも斬ろう。


 話し声のようなものがだんだん近づいてくる。


「いちいちこんなたくさんの水筒に詰めるのは面倒だぜ。いっそ樽かなにかで運んだほうが早くないか?」


「早いかもしれないが、その樽を運ばされるのは俺たちだぜ? おまえ、水が一杯に入った樽を背負って山登りしたり、ダンジョンに潜ったりしたいのか?」


「そいつは……まあ……なんだな、水筒を各自が持つほうがいいよな。自分の飲みたいタイミングで水分補給ができるのはいいことだ」


「な? 水筒の水汲みくらいで文句を言うもんじゃないぞ」


「わかったよ」


「……おい、なんか感じないか?」


「ん?」


 おっさん冒険者2人組が10個以上もの水筒を抱えてやってきて、なにやら騒がしく水汲みをしていたのだが、いきなりこっちに視線を向けてきた。


 どこかのパーティーの下っ端みたいな印象だが、そもそもメレデクヘーギ山脈のダンジョンにいる以上、それなりのベテランなのだろう。


 こっちの気配を読まれた?


 僕は剣の柄を握りしめる。


 だが、フェヘールの手が柄頭を抑えた。


 びっくりして彼女の顔を見る。


「やっぱり誰かいる」


 完全に気づかれた。


 2人組の冒険者は水筒を放り出してこっちにやってくる。


 もちろん、2人とも剣を抜いていた。


 だが、それをフェヘールが一喝する。


「なぜ、わたくしに剣を向ける!」


 勢いよく突っ込んできた2人の足が止まった。


 よく見ると、そのうちの1人は冒険者ギルドの前でフェヘールに怪我を治してもらっていた冒険者だ。


 なるほど。


 相手が信者なら問題ない。


「聖女様!」


「聖女様!」


 2人の声がハモる。


 そして、慌てて剣を鞘に戻した。


 どうやら怪我を治してもらっていた冒険者だけでなく、その相棒もフェヘール教の信者らしい。


 なおのこと安心できる材料だ。


「どうしてこんなところに?」


「この向こうまで地図があるの知っているでしょう? 偵察に出て、うっかり崖から落ちてしまったの。どこか戻る道を教えてもらいたいんだけど」


「ここから出て東方向にいってください。白樺の林があるので、そこの手前をよく探してもらうと道があります……いまヘリアルさんがきてるんです。気づかずに3層に降りていってくれればいいんですけど、あまり大きな声を出すと……」


「まあ、顔を合わせて嬉しい相手ではないわね。特にこういう場所ではね」


 せっかくの忠告だから、もっと奥までいこうとしたのだけど、そのときにはすでに手遅れだった。


「おやおや、珍客だ。招いてもいないので勝手に押しかけてきた客にはそれなりのもてなしが必要だな」


 前にも聞いた龍人族の声。


 その瞬間、斬ってしまえとダッシュした。


「愚かな!」


 剣先が届く間合いに入る寸前、腹部に激痛が走った。


 あっ、と体勢が崩れて思わず視線を自分の腹に移動させた。


 これがヘリアルの呪術なのか?


 いや、そんな考察は後で。


 戦闘中に敵から視線を切るとは、なにをやってるんだ!


 慌てて顔を上げたときに見たものは、デカくて硬そうな拳だった。


 顎を打ち抜かれて、そのまま目の前が暗転した。




 目を開けたら僕は牢屋の住人になっていた。


「ここは?」


 どうやら僕はフェヘールの膝枕で寝ていたようだ。


「ダンジョンの中。さらに深いところだけど」


「あのヘリアルという奴にやられたということか……しかし、なんでダンジョンの下の階層まで連れてこられたんだ?」


「まあ、捕虜みたいなものなんじゃない? クリートは王子だから行方不明のままだと王国をあげて大捜索するかもしれないし、そうなったらこのダンジョンも見つかってしまうだろうし。未届のダンジョンがあって、そこに王子の死体が転がっていて、その下には違法な鉱山まであったら大問題よ。いくら王国最大クラスの冒険者クラン『ブレイブスピリット』だってメンバー全員の首が落ちるわ」


「違法な鉱山?」


「そう。ダンジョンでは稀少金属が採れるものもあって、どうやらここがそうらしいの」


「ヘリアルがこっそり金属を掘ってるのか? 小遣い稼ぎみたいなものか?」


「ここに閉じ込められる前になにか石を採掘しているのと、精錬施設のようなものが見えたから金属だと思うけど、それがなにかまではわからない」


「ゴールドとかシルバーとか……小遣い稼ぎどころではないかな?」


「ダンジョン産の稀少金属は貴金属とは限らないし、そっちのほうがずっと価値がある。確かクリートもアダマントの剣が欲しいと言ってたじゃない」


「アダマント? ミスリルとか、そんなのも出るの?」


「稀少金属については学園でも習ったでしょうに……ミスリルもダンジョン産がほとんど」


「むむむ……これからの目標その1、脱獄。その2、鉱石をかっぱらう。その3、ダンジョンからの脱出。ちなみにフェヘールは腕のいい鍛治屋なんて知らないだろうね?」


「あのねぇ、メレデクヘーギ侯爵領をナメないでちょうだい。一流の冒険者が集まる土地なんだから、もちろん一流の刀鍛冶も甲冑師もいるに決まっている!」


「おっ、おお……じゃあ、それを紹介してもらうとして、まずは脱獄から」


「で、どうやって?」


「うーん……どこか壊せそうなところはないかな?」


 僕たちの閉じ込められている牢はサイズ的には6畳くらいかな?


 2段ベッドとバケツしかないから2人用としては広いけど、上下左右そして後ろがレンガで、前が鉄格子。


 後ろの壁には小さな窓があって外の様子が見えるんだけど、ダンジョンとは信じられないほど広い場所だった――天井がゴツゴツした岩で覆われていていなければ岩山にでもいると思っただろう。


 あちらこちらに明かりが置いてあり、そこを重そうな袋を背負った人たちがぞろぞろと歩いていた。


 粗末な服を着て、疲れ切った表情だ。


 反対の鉄格子から建物内の様子を探るが、家具もなにもない殺風景な小さな部屋だけ。


 牢番みたいな人はいないようだ。


 あんまり長くいたい場所ではない。


 特にバケツ。


 たぶんトイレなんだよなぁ、アレ。


 使いたくないし、使わせたくもないな。


 もちろん、大剣は取り上げられていて、懐に入れていた短刀もなくなっているし、ブーツに挟んでいた短剣も消えていた。


 だけど、ブーツはそのままだから、壁を蹴ってみる。


 山登り&戦闘用に頑丈なブーツを履いてきてよかった。


 小さな窓のある後ろの壁をガンガンガンと何度も蹴る。


「そんなことをせずとも出たければ、出してやってもよいぞ」


 壁を必死に蹴っていた僕の背中に声をかけてきたのはエイン・ヘリアルだった。




 評価、ブクマありがとうございました!

 なによりの励みです。

 ゴールデンウィークだというのに遊ぶ相手もいない作者の妄想駄文ですけど、楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

 あと感想いただいたようでありがとうございました。豆腐メンタル&ネガティブ作者なので「すごいつまらなかった」とか書かれてないか怖くて、まだ読めてません。

 あとで、ありったけの勇気をかき集めて頑張りますので、返信はもう少しお待ちください、ごめんなさい……



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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読みました。主人公たちがとても可愛いですね。とても楽しかった。 こんなに素敵な文章が書けるのに、評価をそんなに気にするなんてちょっと不思議?
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