ダンジョン発見!
057
崖から落ちたあと、天候が崩れたので、たまたま見つけた洞窟らしきもので雨宿りしようと思ったら、どうやら人が使っているらしい形跡が。
ひょっとしたら、この洞窟は崖の向こう側まで続いてない? と奥に進んでみたら、いきなり待ち伏せ攻撃を受けた。
まあ、あらかじめ気配で察していたし、魔獣では最弱のゴブリンだから一刀で斬ったけど。
「あの足跡、どうやらゴブリンのものらしいな。ここは洞窟ではなく、トンネルでもなく、ゴブリンの巣かもしれないね」
「それにしては規模が大きい気がする。わたくし、いくつもゴブリンの巣を見てるけど、ここはむしろダンジョンだと思う」
「ダンジョン?」
いきなりテンションの上がる素敵単語が飛び出してきた。
ダンジョン!
いいねぇ!
そういうものが存在していることは知っているけど、実際に攻略したことはない――まあ、いちおう王子という立場だし、まだ学生だからしかたないけど。
せっかくだから攻略したいけど、フェヘールに怒られるかな?
危ないことするなと止められるよね?
チラッと彼女の様子をうかがうと、ばっちり目が合ってニコッと笑顔を返してくれた。
「せっかくだから見ていく?」
「いいの?」
「ゴブリンが棲んでるレベルのダンジョンなら、わたくしのバックアップがあったら死にはしないんじゃない? 少しでも情報を持って帰ればお父さまも喜ぶと思う」
「やっぱりダンジョンはなかなかないんだ?」
「あるにはあるんだけど、有用なものが少ないという感じかなぁ」
フェヘールによると資源が掘れるダンジョンが一番価値があるらしい――ほとんど存在しないけど、あれば本当に付加価値のある稀少金属などがあるという。
高価で売れる魔獣が湧くダンジョンも価値が高い。
ほどほどに強い魔獣が適当に湧くダンジョンなら騎士団や冒険者の訓練に使える。
「だけど、たいていはそこまで都合がいいダンジョンはないよね。別にダンジョンは人間を儲けさせるためにあるわけじゃないし。ただ、このダンジョンに関してはいいかも」
「価値があるかないのか、もうわかるの?」
「売れ筋の魔獣がいたり、それを倒したら溜め込んだお宝があったり。たとえば龍の脱皮した皮を拾えて、鱗の状態がよかったら、それだけで一財産になるから」
つまりダンジョンを発見してはじめて探索する者については結構な確率で大きな儲けが出るとのこと。
「そういうことならいけるところまでいってみよう」
「まあ、ダンジョンだと思ったのはわたくしの勘だし、本当にただのゴブリンの巣かもしれない。錆びた剣とか、半分壊れた防具を拾うのがやっとで、ゴブリンもいくらにもならないから」
「ゴブリンって売れるの?」
「毒のない肉なら食べられるし、毛はカツラが作れるし、骨とか残った部分は肥料になる」
銅貨が数枚かな? とフェヘールが相場を教えてくれた。
「ここから担いで帰る価値はないな」
「もう少しいいものが狩れるか試してみよう」
「じゃあ、僕が先行するからバックアップはよろしく」
ダンジョンなら魔獣にいつ襲われるかわからないから、剣は抜いたままにしておく。
フェヘールは紙とペンをポケットから出すと、地図を書きはじめる――まあ、いまのところ入り口から直線で50メートルくらい進んだだけだけど。
カンテラといい、ちゃんと準備しているだけでなく、必要なときにはすぐに用意する手慣れた様子だ。
さすがメレデクヘーギ侯爵令嬢。
それから1時間くらいかけて詳しく調べたが、とりあえずゴブリンしかいないことと、おそらく100メートル四方にメインの通路と7本の枝道があることがわかった。
メインの通路は一番奥までいくと行き止まりで、7本の枝道も最後は行き止まり。
問題は枝道の1本の途中に穴のようなものがあることだ。
穴といっても、やっぱりスケールが大きくて直径10メートルはあるんだけど。
「ここから下にいけるみたいだね」
「1層部分はたいしたことなかったけど、第2層はどうかな?」
フェヘールがカンテラを穴に寄せていく。
だけど、光が弱すぎてよく見えない。
そうしたら彼女は四角いカンテラの3面に覆いをつけて、残る1面を穴のほうに向ける。
覆いの内側が鏡になっていて、ランタンは周囲を照らすのではなく指向性のあるものに変わった。
「ロープかハシゴが欲しいところだね」
「ロープなら、わたくしのリュックにあるけど」
「さすがだ! それを伝って降りよう」
「ただ嫌な感じがするところがねぇ……どうしようか?」
「さっき信号に使った光弾を撃つから、それと同時に突入して斬り伏せたら? 光弾を撃つのはわたくしが担当するから、斬り伏せるのは任せた」
「そうなるか……」
「光る弾を撃つというだけの低級魔法だから、なんならクリートが試しにやってみる?」
「学園の授業で成功したことないのに実戦で上手くやれるわけないよ。魔法が苦手な、脳筋剣士は突入担当を志願します!」
「それならやろう、。5秒前。3、2、1」
「いくぞ、いくぞ、いくぞ」
フェヘールが光弾を撃った瞬間、僕はロープを下に放り投げ、すかさず垂直降下して、魔獣の気配に向かって剣を振る。
暗いところにいたオークは視界を潰され、逆に僕は明るくて敵の様子がよくわかる状態で大剣でバッサリ斬っていく。
抵抗らしい抵抗もなく、バトルというより屠殺みたいなものだ。
「フェヘール。終わったよ、降りてきても大丈夫」
「よいしょ……あらあらオークは肉質がいいから金貨に化けたかもしれないけど」
「持って帰れないよ」
まあ、要するに巨体で2足歩行の豚みたいな魔獣だから肉質がよさそうなのはわかるけど、僕の2倍から3倍はあるから、とても運べないよ。
ここがメレデクヘーギ山脈はではなく、もっと街に近い場所だったとしても、地下2層から地上に運ぶのだって難しそうだ。
「モモ肉の1本ももらっていこうか?」
フェヘールはためらいもなく腰からさげた鉈のような短剣をオークの太股に叩きつけた。
魔獣の解体とかも、彼女のほうが経験豊富なんだよね。
僕のほうは前世のVR空間で解体はやったことあるけど、この世界では何度か試した程度。
ちょっと経験値を稼いでおこうと、フェヘールと交代して切り落した太股の膝から下を関節から外し、皮を剥いで、骨を取り除いて食肉にした。
リュックサックに携帯食料があるので必要になるのかどうかわからないし、この程度の魔獣なら今後もいくらでも狩れそうな気がするけど、万一に備えるのは大切なことなので。
光弾にさらした瞳をまた暗いところに慣らしながら、集中して気配を探り、音を聞く。
ピチャピチャと水音がしているようだ。
「どこかに湧き水でもあるのかな? あと遠くに魔獣の気配がいくつかあるけど、どうやらオークだけか……いや、1頭、なんだか強そうな奴がいるぞ」
「その遠いオークの位置からすると、ここは1層より広いみたいね。地下にいくほど規模が大きくなるタイプのダンジョンかもね」
「10層とかあったら、すごく広いダンジョンということにならない?」
「なるわね。もし30層とか、50層まであったらアルフォルド王国でも有数のダンジョンだよ」
フェヘールは単純な気配探知と違い、ごく微量の魔力を周囲に展開するレーダーのような探知魔法なので、密閉空間に近いような場所では僕より精度が高いし、遠くまで探ることができた。
「すごいな……全部制覇するのは無理かもしれないね。携帯食料は3日分だから今日と明日くらいならいいけど、帰り道を考えるとそれ以上はどうだろう?」
「もし2日かけて全貌が見えないほどなら、お父さまと交渉してダンジョンの位置と、この地図をできるだけ高く買ってもらわないと」
なんとも夢が広がる話だ。
フェヘールも珍しく興奮しているようで、地図を握る手がちょっと震えている。
「どこを目指す? 下に降りられる場所を優先して探したほうがいいのかな? フェヘールはどう思う?」
「まず水場を確保したい。明日まで探索するという予定がずれてしまったときのために食料と水を確実に手に入るようにしておきたいかな?」
少しばかり興奮していてもフェヘールはフェヘールだ。
安全第一で確実性の高い探索計画を練っていく。
もちろん、僕にも異存はないので再び耳を澄ませて水音に集中した。
その隣でフェヘールも目をつぶる。
「あっち!」
「あっち!」
2人の声と指した方向が一致した。
しかも、そこまでのルートに魔獣の気配はない。
念のため警戒しながら進むものの、まったく危なげなく水場までいくことができた。
「ちょっと待って、あれを見て」
岩の隙間みたいなところから清水が流れ出しているのはいいのだが、その下に樽のようなものが設置されていた。
未踏破ダンジョンに樽?
しかも樽の上には柄杓まで乗っている。
その樽からあふれた水が小川ほどの細い流れを作っていた。
「なんでこんなところに樽があるんだ? ゴブリンやオークの仕業か?」
「違う……違うと思う。冒険者から奪った防具や武器を使うことはあるし、巣に布を集めて暖かくしたりはあるけど、樽は知らない。もし樽を置いたとしても柄杓は使わない。樽の中に顔を突っ込んで直接飲むとはず」
「つまり、人がいる?」
「こんな設備を運び込むんだから長期滞在したか、何度も通ったか」
「つまり攻略済?」
「やけに魔獣が少ないと感じてたんだけど。でも、そんな話は聞かないんだよなぁ……」
ダンジョンを発見したら冒険者ギルドと領主に届け出ることになっている。
未開拓部分だけど領地として管理責任と権利を持っているメレデクヘーギ侯爵家がまったく知らないはずがないとフェヘールは言う。
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