報告
047
バーズドは死んでいた。
その死体を馬車に積んで王城に戻る。
誰もが信用できない状況では、まずは親に相談するのがいいだろうと考えたのだ。
国王陛下の執務室に秘書官をつかまえて謁見できるか尋ねると、そのまま奥に入ってもらってかまわないと言われた。
下の兄さんことカプラスが国王陛下になにか書類を見せているところだった。
そういえば2人の兄も国務の手伝いをしていると聞いたけど、これがそうなのだろうと納得。
失敗しても簡単に取り戻せるようなことをやらせているということだったので、つまり僕が押しかけて邪魔しても差し支えないと秘書官は判断したのだろう。
「クリート、少し待て。カブラス、説明は要点だけでいい」
下の兄さんが僕に気づいて嫌な顔をするが、知ったことではない。
兄弟喧嘩していられる余裕なんかあるはずないんだし。
しばらくしてカプラスが用事を済ませて部屋から出ていった。
「バーズドを見つけました。正しくは、その死体ですが」
「おまえが見つけたのか?」
「フェヘールと、メレデクヘーギ侯爵家の使用人が一緒です。聖女様の信者なら神聖国ブランの手先にはならないでしょう?」
「狂信者には狂信者だな」
ひどいこと言うな、と思ったけど、よく考えてみると、僕も同じことを考えて協力を頼んだんだった――前世持ちだと両親との関係について複雑な感じがしてしまうけど、たまにこうやって遺伝子のつながりを感じられることがあって少し嬉しい。
「他には、いまのところ誰にも話してません。誰に、どこまで情報を伝えていいか判断できなかったので」
「近衛騎士団にもか?」
「団長にはバーズドの自宅を捜索する許可をもらいましたが、死体を発見したとは連絡してません。発見現場から直接ここに」
「それでいい」
国王陛下は部屋から出ていき、秘書官になにか指示した。
それから僕のところに戻ってきてバーズドの死体がどこにあるのか訊いてきたので、回収してメレデクヘーギ侯爵家の馬車で運び、そのまま王城の馬車たまりに待たせてあると答える。
「布にくるんで馬車の後ろに括りつけてありますから、誰かに見られても荷物にしか見えないでしょう」
「魔法士は?」
「こっちについては手がかりはありません。ただし、バーズドはあの爆発のときに死んだか、まだ生きていたとしても虫の息で、死体の状態で現場まで運ばれたようです。メレデクヘーギ侯爵家の使用人にそういうことに詳しい人がいて」
「死体を移動させた者がいるわけだな」
「ただ動かしただけでなく、腹を割きました。血のにおいつられた魔獣のエサにしてしまえば死体を消し去ることができますから」
「王都から東にいったほうだな?」
「はい、フェヘールが捕まっていた家から20分くらい歩いたところです」
「そのあたりなら昔から開発が進んでいるから、魔獣なんていないだろう。せいぜい野良犬くらいだ」
「はい、だから死体の状態はそこまで悪くなかったです。もし顔を大きく食べられていたら、それだけで身元の特定に不安が残りますから」
「そのあたりのことが理解できてなかったということは魔法士団の団員ではないのかもしれないな」
どういうことか国王陛下に尋ねると、一般的に王都やその周辺の魔獣がどれだけいるか知っている人はいないと説明をしてくれる。
まあ、普通に生活していけばそんな情報は不要だから当然だね。
そこに住んでいる人は自分の土地周辺には詳しくても、他の地域については知らないし。
行商人は商売で通る道については知っていても、それ以外の道については必要なときに情報を集めるだけだろう。
例外は冒険者みたいな魔獣がどこにいるのか知ってなければ商売にならない人くらい。
そして、その冒険者の手にあまるときに駆り出される騎士団や魔法士団の関係者。
「かなり強い魔法の遣い手だと聞いている。それなら魔法士団かもしれないと調査していたのだが、はかばかしくない。結局は市井の魔法士かもしれないな。それなりの遣い手なら名前も通っているだろう。冒険者ギルドあたりで聞き込みさせることにする」
「そういうことなら近衛騎士団も大丈夫だったのかもしれませんね」
「そっちも調べている最中だ。油断はするな。誰が信用できるかわからないから直接ここに報告にきたのは正しい」
ちょうど話が終わったタイミングでコルダ・ジュルチャーニ近衛騎士団長がやってきた。
信用調査に合格している団員を連れていたので、馬車たまりにメレデクヘーギ侯爵家の馬車から死体を引き取ってもらうように頼んだ。
団長にはさっき国王陛下にしたのと同じように発見までの経緯を説明した。
「……なるほど、犬人族に追いかけさせましたか……おもしろい発想で、しかも結果を出しているところが素晴らしい。サルウァシュ伯爵夫人からの評価が高いのがわかりました」
「たまたま上手くいっただけです」
「今後ですが、バーズドが死んだことを隠そうとしたわけですから、生きていると偽装して、なにか仕掛けてくるつもりでしょうね」
「死体をなくさないといけない理由があるはずですから」
「いつ、どこで、誰が、など推測はありますか?」
「具体的には、なにも」
「思いついたり、知ったときには、すぐに知らせてもらえますか?」
「もちろん」
そう約束して執務室から馬車に戻った。
次はどうしようかとフェヘールと相談して、結局登校することに決める。
もう夕方になろうとしているので、いまからいったところで時間はほとんどないが、おそらくフェヘールがさらわれたという噂が広がっているはずだから、無事な顔を見せておいたほうがいい。
それに警護官がいなくなってしまったし、あんなふうに姿を隠して守ってもらうのは難しいだろう。
フェヘールがさらわれて、メレデクヘーギ侯爵家の使用人が護衛がつくなら不自然でもない。
明日以降もこの体制でいけるかどうかはわからないけど――たぶん侯爵なら娘の安全を考えてくれるし、いま一番信用できるのは自分のところの使用人だ。
そんなことを考えながら廊下を歩いていくとフレドリカ先生と会った。
「おや、この人たちが新しい護衛ですか?」
「フェヘールのところの使用人です。元冒険者の腕利きばかりだから安心できますよ」
「それはよかったですね。神の剣も本国まで逃げ帰っていてくれればいいですけど、こっちの都合のいいようにいってくれるわけないですから」
「そうですよね」
もう神の剣は死んだ、と言いたい気持ちもあったけど、いまの僕は疑心暗鬼にとらわれている。
まあ、エルフは人間の争いに首を突っ込んだりはしないので、このアルフォルド王国で一番疑う必要のない立場だったりするけど。
アルフォルド王国で教師をやっているからといって、この王国に忠誠心とか、そんなものはまったく期待できないけど、人族の宗教にも関心がないから神聖国ブランの手先になる可能性もぜんぜんない。
そもそも神聖国ブランに肩入れしているのなら、最初からコンル・サカーチの杖を渡せばいいだけだし。
「早く事件が解決することを祈ってますよ」
「僕もです」
フレドリカ先生と別れて教室に向かう。
教室ではみんなから驚いた顔をされたり、いろいろ話を聞きたそうな雰囲気にはなったけど、一番に自分からやってくる剛の者はいなかったおかげで何事もなく帰ることができた。
その間、なにか様子がおかしかったチュクさんが馬車の中で僕のほうを妙に気にしている様子。
「どうかしましたか?」
「はい……殿下のお耳に入れておいたほうがいいと思うのですが、これがなにを意味するかがわからなくて……」
「かまわないから、聞かせてもらっていいですか? 僕もわからないかもしれないですけど、わかりそうな人に聞けばいいですから」
よくわからないというのもあったみたいだけど、身分のある人に使用人が自分のほうから話しかけるのは無礼ではないかと思ったみたいだ。
実際、その程度のことで怒る貴族もいるらしいし。
だけど、僕は爵位に関係なく年齢が上の人には敬意を持って接することにしているし、年下だからといって雑な扱いをしていいとも思っていない。
まったくそういうことはないので、気づいたことはなんでも話してもらいたいと頼んだ。
そして、そうするだけのある話を聞けたんだけど――うん、僕にも意味がわからん!




