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見つけたもの

046




 メレデクヘーギ侯爵家の大型馬車には僕とフェヘールが乗っている。


 あと追跡担当のチュクさんと、護衛としてトムさんとマイクさん、それに御者のジョンは全員が元冒険者で、いまは侯爵家の使用人だ。


 女性は普通なのに、どうしてメレデクヘーギ侯爵家の男性使用人はあからさまな偽名にするんだろうね?


 まあ、そんなことはともかく。


 敵は神聖国ブランの工作員にしてラカトシュ教の狂信者だから、こっちも聖女様に絶対的な忠誠を誓う連中を集めた。


 僕の味方ではないかもしれないけど、フェヘールの味方なのは確実だから、いまの状況でこれ以上を望むのは贅沢だろう。


 事前に近衛騎士団の宿舎にいってバーズドの家に立ち入る許可をもらっておいたので、まずはそこに向かった。


 二度と戻ってくることはないだろうが、念のため、バーズドの家には見張りがいた。


 すでに事件は衛兵の手を離れて、近衛騎士団が直接やることになったので、その見張りも近衛騎士団の団員だったが、ちゃんと団長から一筆もらってきていたので、問題なく中には入れる。


 衛兵よりは近衛騎士団のほうが身元がしっかりしているということなんだろうけど、正直なところ僕はどちらにしても末端のメンバーまで全幅の信頼はできないかな?


 臭いで追跡することにしても、この世界にはどうやら警察犬というものはいないみたいだけど、狩猟は普通におこなわれているから獲物を追う猟犬はいる。


 王族や貴族の狩猟というものは隣国を無駄に刺激しないようにおこなう小規模な軍事演習みたいなものだから、猟犬というより軍用犬なのかもしれないけど。


 だから、近衛騎士団に話を持っていけばやってくれたとは思うけどね。


 しかし、そういうものより信用できるフェヘールと、彼女を崇めている腕利きの元冒険者のほうがいい。


 チュクさんが室内をゆっくり歩きまわり、最後にはベッドの枕に顔を押しつけた。


 僕たちよりはずっとお姉さんだけど、まだ30にもなってなさそうな女性が中年男の枕に顔を押しつける図はちょっと直視できないというか、すぐに止めたくなるような光景だ。


「記憶しました。いきましょう」


 しばらく枕の臭いを嗅いで納得したのか、チュクさんが僕たちのほうに向き直った。


 次の目的地は爆破されたウルドの家。


 太陽に照らされているところで見ると、本当に強力な魔法で爆破されたことがわかった。


 完全に倒壊しているわけではなくて、建物の南側から北側へ魔法が通過しているところから2つに裂けている。


 魔法の威力にも限度があるということだろうが、もし建物が完全倒壊して、屋根が僕たちの上に落ちてきたら生存者がいなかったかも。


 あと火事にならなかったのも助かった。


 チュクさんが建物のまわりを何周もして、何十回も膝をついて地面に顔を近づけ、最終的に魔法が抜けた北側の壊れた壁の前に立つ。


「ここから外に逃げ出したようです。あっちに向かっています」


 一切の迷いがない、力強い声で言う。


 そして、先頭で歩いていく。


 僕たちはそのあとに続き、最後にジョンがゆっくり馬車を走らせた。


 チュクさんは足を怪我して後遺症が残り冒険者を引退したと聞いたけど、それを感じさせない足取りだ。


 後遺症が残ったことにして冒険者を引退しただけで、本当はフェヘールの側にいたかった説ありそう。


 そんなことを考えつつ20分くらい歩いたところでチュクさんが足を止めた。


「かなり強く血の臭いがします」


 彼女の鼻と僕のとは根本的に性能が違うみたいだ。


 強く臭うと言われても、まったくなにも感じないんだけど。


 しかし、さらに進みはじめたチェクさんに続いていくと、僕にもわかった。


「これ……死体の臭いじゃないですか?」


「そうですね、あの藪の中でしょう」


「半日もたってないから腐ってはいないんでしょうが」


「いえ、半日も野外に放置してあったら内臓から腐りはじめます」


 確かに彼女の言うとおり。


 バーズドは街道から少し外れた畑の中で死んでいた。


 メレデクヘーギ侯爵に斬られたところは致命傷ではなかったはずだが、そのあとの爆発にくわえて、剣が腹に突き立っていた。


 左の脇腹からスタートし、そのまま右まで切ったところで力尽きて倒れ、あおりで剣がグサッと深く刺さったような形だ。


 腹部を裂いたせいで内臓の腐敗臭がすごい。


 近くまできたら僕だって気づけるだろうが、こんな街道から外れた畑を探そうと思わなかっただろうな。


 フェヘールを頼って、いい人を紹介してもらえてよかった。


「逃げ出したものの、結局は逃げ切れないと覚悟して自害したということでいいの?」


 そのフェヘールから質問されたけど、正直なところ、なんともいえない。


 この世界に切腹があるのか? と思うし、そもそも切腹は自殺方法としてはかなり不完全。


 誰かに介錯してもらわない限り、失血死するまで結構な時間がかかるって聞くからね。


 刃物でやるのなら、首の頸動脈とか、心臓を刺すとか、確実な方法は他にある。


 一方で仲間が口を塞いだとすると、同じ疑問にぶつかってしまうのだ。


 確実に口を塞ぐのなら、きっちり即死させると思うけど。


「これだけ腹を切った割に出血量が少ないです。おそらくは死体の腹を切り裂いたのでしょう」


 バーズドの死体を詳しく調べていたチュクさんがかわりに答えてくれた。


 それを聞いてフェヘールがさらに質問した。


「まさか死体が自分でそんなことするはずないから、謎の魔法士か誰かがやったんでしょうね。でも、どうしてそんなことしたの?」


「推測になりますが、死体を魔獣に食べさせようとしたのではないかと。魔法で燃やしても人間を1人完全に消滅させるのは難しいですし、埋めるにはシャベルみたいな道具があったとしても深く掘るのに時間がかかります」


「わざと血が強く臭うようにしておけば魔獣がすっかり処理してくれて、わずかに血痕くらいしか残らないというわけね。だけど、実際には死体は残ってるのはなぜ?」


「この周辺はほとんど魔獣がいないからでしょう。ご領地と比較にならないのはわかりますが、それにしても王都周辺は魔獣をまったく見かけません。小動物はいますから、大きく損なわれていないので一見すると死体は原型を保っているようですが、実際には結構いろいろ囓られています」


 それは僕も感じていた。


 特に傷口周辺はネズミにでも囓られた痕があるし、ハエの卵もびっしり産み付けられている。


 魔獣はもちろん、オオカミや野犬の群れでもいたら死体はきれいになくなっていたかもしれないね。


 だけど、王都の周辺は完全に人間のテリトリー。


 特に王都の東側は開発が進んでいて、ほとんどが住居と農耕地と道だ。


 北や西のほうには多少は森や林も残っていて、魔獣や大型の動物もいないことはないらしいけど、姿を見かけたら駆逐対象にされるので生きやすい場所ではない。


 このあたりは、せっかく冒険者として登録したから、そのうち魔獣討伐でも請けちゃおうかな? なんて下心で調べたことだ。


 日雇いアルバイトみたいな仕事は結構たくさんあるから冒険者として生活していくことはできそうだけど、剣を使う仕事はあまりないみたい。


「ボロ布みたいなものはないですか? 人間を1人すっぽり包めるサイズの」


 街道の脇に止めてある馬車まで戻ってジョンさんに頼んで泥まみれの大きな布をもらった。


 この世界の道はアスファルトで舗装されているわけではないので、泥で車輪がスタックしたときのために普通は古い毛布などを積んでいるんだけど……これはまた、とりわけ汚いな。


 死体を運ぶのに使うのだから、別にいいけど。


「調べ終わったのなら、そろそろ運ぼうと思いますが?」


「やります」


「手伝います」


 チュクさんに声をかけたら、自分たちでやると言われてしまった。


 いちおう王子だし、雇用主の婚約者でもあるので、少しは敬意を払ってもらっているのかな?


 まあ、13歳の子供に死体運びをさせて、そばで大人が眺めてるわけにもいかないしね。


 でも、僕のほうは今世の13年にプラスして前世分があるからグロとか平気なんだけどね。


 五感に訴えかけると煽るようなコマーシャルをしていたタイトルを遊んでみたら、あまりにもリアルすぎるゾンビやグールやスケルトンがわらわら出てきて、パラメーターにないはずのSUN値がガリガリ削れたりとか普通にあったから。




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