信用できる人材と追跡
045
翌日、起きたら昼だった。
夜中にフェヘール奪還作戦に参加し、救出には成功したものの、作戦自体は大損害を出して実質的に失敗。
その報告などで寝たのが朝方くらいだったので、それでも睡眠時間が不足気味で、すっきりとした目覚めとはならなかった。
今日は学園は休むことにしているんだけど、それでも二度寝とはいかないしね。
朝食兼昼食をとった後、ちょっとだけ出かけることにした。
別に怪我をしたわけではないけど、精神的な動揺はしていたようだから、お見舞いにいっておいたほうがいいと思う。
お菓子なら喜ぶはずだから、王城の厨房にいってクッキーをもらってくる。
きれいにラッピングできたし、これで完璧――だといいなぁ。
珍しく馬車を出してもらった。
警護官がいなくなってしまったけど、だからといって1人で出かけるわけにもいかない。
勝手なことをして犠牲者が出たら嫌だし。
しばらく時間をおいたのがよかったのか、フェヘールの機嫌はそんな悪くなかった。
クッキーのおかげかな?
もちろん、王城に勤務している料理人はみなさん優秀で、パティシエも王国トップクラスだからね。
材料もいいものを使っているし。
「バーズドは最初から怪しいと思っていたわ。うさんくさい顔をしていたし。逃げられるくらいなら、首を落としておければよかったと、お父様もおっしゃっていた」
「衛兵隊長だし、僕はちっとも疑ってなかったよ」
「だから、クリートは甘いのよ。誰が敵かちゃんと見分けをつけることができて、はじめて剣の出番がくるのだから」
「そうだよなぁ……でも、今回は難しいよ。あの農家の一家も敵だったみたいだし」
「不意を突けば1撃は入れられるかもしれないし、実際できたけど、そのあとは絶対に斬られるか捕まるかしかないのに」
「天寿をまっとうするより、殉教したほうが幸せという派閥に所属してるんだろうね」
「命がけでバーズドを逃がす時間を稼ごうとしたのに、最後は謎の魔法士に全部もっていかれた上に、自分たちも全滅だったのに? 無駄死で、犬死にすぎないのに殉教だなんてね」
精神的には持ち直してきているみたいだけど、人質にされたことに腹が立つのか、今日のフェヘールはちょっと辛辣。
まあ、この世界にインターネットがあったらコメント欄に草が生え散らかるような事態だったけど。
もう死体蹴りやめてあげて、と当事者である僕が悲鳴を上げそうになる程度には草が生えるね、絶対。
だが、まだ事件は過去にはなってないから、くだらない想像をして笑っている場合ではない。
「問題はその謎の魔法士だな。神の剣は何人もいる説が出てるよ」
「あのときクリートは伏せるように言ったよね?」
「気配というか、魔力の高まり感じることができたからね」
「その気配とか魔力でどこの誰かわからないの?」
「さすがに個人を特定するのは無理だよ。それは剣を見て持ち主を当てるようなものだ」
「魔法自体も火属性の爆裂魔法だから、個人のオリジナル魔法みたいなものだったわけじゃないし」
「オリジナル魔法は難しいらしいよ。フェヘールは上手く治癒魔法を開発できたけど、普通の魔法士はほとんど失敗してると聞いた」
「わたくしもそう聞いた。もしオリジナル魔法があったとしても下手に使ったらすぐにバレるから犯罪には使わないと思うけど」
「とりあえず身元が割れてるバーズドを捕まえたいんだけどな。上手くしたら謎の魔法の正体を知っているかもしれないし」
「あのときの5人みたいに捕まりそうになったら毒を飲むんだろうけど」
「それは逮捕のときに衛兵か騎士団の人に考えてもらうとして、まずは見つけないと」
「農家に隠れてたくらいだから、今度はどこかの商店とか?」
「貴族の屋敷だって可能性はあるよ。主人がラカトシュ教の信者かもしれないし、そうでなかったとしても馬番が信者で厩舎に匿うとか、使ってない部屋や、地下室とか、物置とかね」
「誰をも疑わなければならないのが、わたくし、とても嫌」
「それは僕もだ」
「まあ、クリートのことは信用してるけど。どうも宗教にはまったく関心がないみたいだし、この王国の王族だし、裏切る理由が1つもないし」
「僕もフェヘールのことは信用しているよ。で、その信用しているところで、ちょっと相談があるんだが」
「なに?」
「獣人族が領地に結構いると前に言ってただろう? 侯爵家で雇うこともあるとか。王都に連れてきていたりはしてないかな?」
「2人いるけど、手合わせでもしてみる?」
「そうじゃなくて、もし嗅覚に優れた獣人族がいるなら、バーズドの臭いを追跡できないかな? と思って」
身元が割れているのだから、服でも靴でも、臭いがついたものはいくらでも用意できるだろう。
ウルド家は謎の魔法士が破壊してしまったが、周辺にバーズドの臭いが残っているところがあるかもしれない。
それを追っていけば現在バーズドが潜伏している場所までいけるのではないか?
まあ、あくまで可能性として、できるかもしれないというだけだが。
ちょっとした思いつきに過ぎないわけだし。
「そういうことなら、ちょうどいい人材がいるわ。ちょっと待っててね」
そう言い残してフェヘールは部屋を出ていって、数分くらいで1人の女性を連れてきた。
犬耳のメイドさん。
真っ黒い短めの髪から、三角な耳が飛び出していた。
顔も精悍な雰囲気で、イメージ的にはドーベルマンみたいな警察犬とか軍用犬。
間違ってもチワワとかダックスフンドではない。
彼女はチュクさんという、元は冒険者で特定の魔獣討伐を専門にしていたらしい。
村を襲った魔獣とか、それこそ人を食べた魔獣など、緊急で討伐しなければならないとき、彼女が呼ばれるのだ。
臭跡だけでなく、足跡や習性などで、問題の魔獣を追跡発見する能力はメレデクヘーギ侯爵領でもトップだったとか。
「あるとき、追うところまでは1人でできても、倒すのは難しい依頼でパーティーを組むことになったんだけど、そいつら口先だけでね。おかげで、せっかく魔獣を追い詰めたのに返り討ちにされてね。大怪我で引退。そのあと、うちで働いてくれてるの」
特に足に後遺症が残り、普通に歩けるが、走るのが難しくなったとのこと。
彼女の戦闘スタイルは知らないけど、メドベ・サルウァシュ伯爵夫人に稽古をつけてもらったときのことを考えると、スピードを奪われてしまうのは致命的だろうね。
僕だって足を怪我して走れなくなったら剣術は諦めて、本気で魔法の修行をすることを考えるよ。
まあ、彼女の過去は不幸な出来事があったとしても、ちゃんと生き残ることができたのだし、現在は侯爵家に雇われているのだから、そこまで悪くないだろう――おそらくは引退の原因となった大怪我にフェヘールが関係している気がする。
なにしろチュクさんのフェヘールに剥ける眼差しがキラキラなんだ。
まったくメレデクヘーギ侯爵家の使用人はこんな奴ばっかり。
もっとも、いまはそれが助かる。
どこに神聖国ブランの手先がいるのかわかったものではないということは嫌というほど身にしみて理解したから、うっかり人に協力を頼むことができない。
だから、僕は考えた――狂信者には狂信者だ!
ラカトシュ教の敬虔な信者で仲間になってくれそうな人はいないけど、そのかわりに聖女様を崇める連中には心当たりがある。
しかも、神・ラカトシュはどんなに祈っても話しかけてくれたりはしないけど、聖女様は実際に命を救ってくれるし、こうやって仕えることもできるからね。
それで、僕はチュクさんに神聖国ブランの諜報部隊や暗殺者に狙われていることを説明した。
「1つ困っているのが誰が味方で、誰が敵なのか、まったく判断できないところなんですよ。ただし、メレデクヘーギ侯爵家の使用人は信用できると僕は思ってます」
「もちろん、信用してくださって大丈夫です」
意味不明の言葉を耳にしたかのようにチュクさんは顔をしかめた。
信用できるとか、できないとか、そんなことを言われるのは心外らしい。
あるいは、その他と自分たちメレデクヘーギ侯爵家の使用人を一緒にしてもらっては困るというふうに。
「一緒に例の爆破された農家にいって、そこから逃げた男を追えないか試してもらいたいんだよ。聞いてるかもしれないけどバーズドという衛兵隊長をやっていたのに実は神聖国ブランの暗殺者で、しかもフェヘールをさらって人質にした奴だ」
「名前までは存じませんが、犯人を八つ裂きにしなければならない事件があったことは噂で」
「それだったら協力してほしいんだけど、いいよね?」
後半はフェヘールに向けた質問だ。
メレデクヘーギ侯爵家の使用人だからね、僕が勝手に決めていいことじゃない。
あと馬車と、御者としてジョンにくわえて他にも信用できる使用人がいるなら護衛として連れていけないか頼んでみた。
評価、ブクマありがとうございました!
なによりの励みです。
楽しんでいただけたのなら作者もとても嬉しい気持ちになれます。
この下にある星
☆☆☆☆☆
で評価ポイントをつけられます
★★★★★
ぜひ応援お願いします!




