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事件は動く

043



 どうやらバーズドや神聖国ブランはコンル・サカーチについて幻想を抱いていて、存在しない1発で街を焼き払うことができる魔法が撃てる特別製の杖を求めているらしい。


 そんなもんねぇよ!


 長く生きたエルフ族であり、アルフォルド王国でもトップクラスの魔法の教師であるフレドリカ先生が存在しないというのなら、そんなもの絶対に存在しない。


 しかし、それが誘拐されたフェヘールのために用意しなければならない身代金がわりの対価。


 支払いようのないものを要求されて、どうしたものかと部屋の中が暗くなった、そのとき。


 近衛騎士団の団員が急報を伝えてきた。


「警護官の1人が追跡に成功しました。メレデクヘーギ侯爵令嬢の無事も確認。独断ですが動ける者を至急現地に向かわせております」


 全員が立ち上がり、あちこちから「よくやった!」「どこだ?」「すぐいくぞ!」などと声が上がった。


 メレデクヘーギ侯爵、ジュルチャーニ近衛騎士団長、そして僕が剣を手に部屋から飛び出す。


「自分が直接、現地で指揮をとる」


「首はもらうぞ」


「僕もいきます」


 王城から出ると、そこには近衛騎士団が用意した馬車が待っていた。


 本当に優秀だなぁ、と感動。


 警護官はバーズドをちゃんと追跡し、責任者不在でも出せるだけの戦力を出すし、こんなふうに馬車も用意してくれる。


 まあ、近衛騎士団はアルフォルド王国でももっとも優秀な人材を集めているわけだけど、本当に今回は助けられた。


 王都を巡る壁の外、東門をくぐってしばらくいくと典型的な郊外の農家が見えてくる。


 のどかな農村という雰囲気で、まさか破壊工作員とか誘拐犯が潜み隠れているとは思えない。


 さらに神聖国ブランは王都からみて東側にあるから、そのまま脱出も可能。


 僕のようなスパイ活動とは無縁の素人でも悪くない潜伏場所に感じられる。


 馬車が止まったところは畑に囲まれて母屋と納屋があるんだけど、そこが近衛騎士団が現地の拠点として借り上げているところのようだ。


 3人で競うように母屋に入ると、椅子に座って休息していた近衛騎士団の団員たちが慌てて立ち上がった。


 直立不動というやつだ。


「奥の部屋に監視班がいます。突入は団長の指示が出てからで、それまでは情報収集に専念しております」


「ご苦労、よくやった。突入まで体を休めておけ」


「了解しました」


 ろくに返事も聞かず、ジュルチャーニ近衛騎士団長は奥の部屋に向かった。


「報告を」


「あの窓から見える家にターゲットと保護対象が入ったまま、いまのところ動きはありません。問題の建物の所有者はウルドという農夫で、生まれも育ちもこの村。いままでトラブルを起こしたことない、ごく評判のいい男です。ターゲットとの関係は不明。しかし、ターゲットは衛兵とのとこですから接点もなさそうですし、自主的に協力しているというより、脅迫でもされているのではないかと推測されます」


 監視の団員が言うにはウルドさんには妻と3人の息子がいるので、例えば人質をとるなどして脅迫することも可能だろうとのことだった。


 バーズドが潜伏している建物を監視するだけでなく、僕たちの護衛についていたような警護官たちが気づかれないように慎重に行動しつつ、もっと接近して中の様子を探っているらしい。


 さらには周囲の住人に聞き込みをしてウルドさんに関する情報も集めているとのこと。


 だから、家族がいて、現在も家の内部にいるから、バーズドに人質にとられているのではないかと考えたようだ。


 ジュルチャーニ近衛騎士団長も同意した。


「王都の衛兵だった男と、近くとはいえ王都に住んでいるわけでもなければ、身分差もある農夫と以前から付き合いがあったとは考えにくいな。侯爵令嬢を人質にする卑怯な者なのだから、剣も魔法も使えない農夫に武力を見せつけて威嚇するくらい平気でやるだろう」


「すみませんが、この事件、背景がよくわかりません。なぜ衛兵の、しかも隊長をやっていた男が侯爵令嬢を人質にして逃げまわっているのでしょう?」


「神聖国ブランは各地にいるラカトシュ教の信者を利用していることが判明した。場合によっては他国に移住させ、何代にもわたって潜伏させているようだ」


「そんなことが……」


「完全にアルフォルド王国臣民になりきり、上手く衛兵隊に潜り込んだようだ。政治や軍事にかかわるような部署には他にもブランの手先がいるのかもしれない。まさかと思うが、近衛騎士団の団員でラカトシュ教に傾倒している者のことを聞いたことないか?」


「普段あまり宗教の話はしませんが、騎士団で主流なのは精霊教です」


「少なくとも、ここにいる団員は全員が精霊教のはずです」


 その隣にいた監視担当の1人が口を添えた。


 王家の信仰する宗教ということでアルフォルド王国では精霊教の信者は珍しくない――特に貴族や騎士は王家と同じにしておけば無難だからね、結構多いと聞いたことがある。


 だからといって、別に精霊教が優遇されているわけでもないんだけど。


 この大陸で一番古いんじゃないかな? 精霊崇拝のプリミティブな宗教だ。


「いまは全員をきちんと洗っている時間がないし、そもそも自分は団員を信頼しているから今回はここにいるメンバーでやる。深夜になったら斬り込むということで?」


「作戦はまかせる。部下と同じに使ってくれてかまわない」


 作戦開始時刻を深夜に設定することメレデクヘーギ侯爵に了解を求めると、すべてを近衛騎士団に委ねると返す。


 それから時間まで僕たちも体を休めることになった。


 広い農家を近衛騎士団が借り上げていたおかげで、僕たちにも1部屋もらえた。


 ずっと年上で、偉い立場の人と同じ部屋というのは少し気まずいところもあるけど、さすがに個室を要求するほど厚かましくもなれない。


 そんな僕の憂い顔を勘違いしたようでメレデクヘーギ侯爵が優しい言葉をかけてくれた。


「フェヘールは無事だ。それは間違いない」


「人質は生きてないと効果ないですから、まず大丈夫だと思っています」


「いや、絶対に危害を加えない。これは確証のある話しだよ」


「聞かせてもらっても?」


「前々から神聖国ブランというかラカトシュ教からクレームをもらっていてな、聖女という肩書きについて。だから、殺すのなら密かに暗殺するのではなく、できれば大々的に処刑したいだろう」


 いまの状況だと治癒魔法を神聖国ブランのために使うように強制しようとする可能性が一番、どうしてもフェヘールが従わない場合――たぶん従わないだろうが、その場合は聖女を騙ったニセモノの魔女として火炙りにでもするだろうとメレデクヘーギ侯爵は言った。


 だから、まあ、ぜんぜん笑えないし、嬉しくもなければ、喜ぶことでもないんだけど、相対的にフェヘールは現在のところ安全で、下手に危害を加えられる可能性は薄い、と。


 そういえば、一方的に言いがかりをつけられて不快という話を僕もフェヘール本人から直接聞かされたことがあったな。


 なんでもラカトシュ教の理屈からすると、まず洗礼を受けて信者となり、しかるべき社会福祉活動などをおこない、その上で大司教会議により聖女として認定されないといけないらしい。


 ちなみに、侯爵レベルの大貴族にもとめられる「しかるべき社会福祉活動」というのは教会に対する巨額な寄附のことだ。


 当然、フェヘールとしては納得いかない。


 周囲が勝手に聖女と呼んで崇めているだけで、本人としてはどうでもいい称号なのだから。


 ましてや、自分が信じてもいない宗教に認められる必要があるとか意味わからないし、さらには大金を寄附しないといけないというのだから、あまりにもバカバカしい話。


「わたくし、どこかの神様に治癒魔法をいただいたわけではないし」


「自分で工夫したのに、その手柄を神様に全部もっていかれたら面白くないよね。努力の価値がなくなってしまう」


「まわりの人たちのおかげね、クリートも含めて」


「謙遜の必要はないと思うぞ。むしろ誇って自慢してくれないと、他の魔法研究者が困るよ。いままでは、ちょっと改良するだけでも大変な功績になったんだから」


「謙遜とか、そういう意味じゃないのよ。クリートがいろいろ教えてくれたからといって、誰だってすぐに治癒魔法に辿り着けるわけじゃない。わたくしの場合、メレデクヘーギ侯爵領に生まれたというのが大きかったと思う」


 さすがに魔獣と戦わされたわけではないが、フェヘールは3歳のときに最初の魔獣討伐に同行したという。


 魔獣討伐の先頭に立つ心構えがなければメレデクヘーギ侯爵家に連なる者として領民に示しがつかない。


 だから、子供のころから少しずつ慣らすのだ。


 結果としてフェヘールは魔獣と戦って怪我したり、死んだ人を数限りなく見ることとなった。


 そして、魔獣の解体も。


「人間も魔獣も形は違っても、内臓は似たようなもの。口があって、食道があって、肺や胃があって、肝や腸やある。大きさは違うし、魔獣によっては胃がいくつもあったり、とても腸が長かったり、逆に短いこともあるけど」


 そういう生き物の構造をよく知ったから、僕のアドバイスを聞いて、なにをどうすればいいのか想像することができた、とフェヘールは言った。


 最近、僕は国王陛下からオリジナル魔法の研究が流行っていたと聞いたことを思い出した――そして、ほとんど失敗に終わったということも。


 つまり魔法だけ詳しくてもダメということなんだな。


 やっぱり僕には魔法はよくわからない。



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