治療とお説教と
036
冒険者崩れの犯罪者に上手く空き屋敷に誘い込まれたけど、そもそも冒険者として脱落し犯罪者に墜ちた連中に負ける僕じゃない、と強気に突っ込んでいったら、かなりピンチです。
フェヘールのバックアップのない僕は弱くて、ダメな奴みたい。
こんなはずじゃないんだ!
僕はまだ戦える――と剣をしっかりと握り直す。
そして、剣を大きく上へ振りかぶった。
魔法士は次の魔法を撃とうとしていたので、そのまま剣を振り下ろすようにして、そのまま投げた。
僕だって剣くらい投げることができる。
同時に全力ダッシュで魔法士との間合いを潰す。
そのままの勢いで体当たりを仕かけた。
剣士の体当たりは1つの技だ――日本の剣道でさえ打突の勢いで体当たりして相手の構えを崩すのは普通にやる技だしね。
おばちゃん魔法士は体勢を崩すどころか、軽く飛んで倒れ込んだ。
しかし、すぐに立ち上がろうとしたところは、やはり場数を踏んだベテランならではだろう。
ただ、たまたま起き上がりかけた顔の位置がちょうど僕の爪先の延長線上だったから、思いっきり顎を蹴り上げてやったんだけど。
骨が砕けた感触がブーツ越しにでも伝わってきたので、完全に戦闘継続能力を奪えただろう。
残りはさっき剣を投げつけてきた剣士だけだ。
こいつも戦闘不能に追い込んだつもりだったけど、まだ諦めてないのだから追い打ちをかけなければならない。
2人とも剣士なのに、お互いに剣を投げてなくしてしまったのだから、どっちかにハンデがあるわけではないし、今度は怪我させた程度でやめるつもりはないぞ。
人間を殺すことができる、無刀の技を知らないわけじゃないんだ。
そんな殺気をこめて剣士のほうを向いたけど、もう死んでいる――胸に剣が刺さっているからね、たぶん死んでる。
その剣の持ち主はさっきフレドリカ先生の襲撃現場を案内してくれた第7衛兵隊のバーズド隊長だった。
「だいじょうぶですか?」
「どうしてここに?」
「学園の付近を捜索していたら殿下が不審な男に襲われているように見えて……そうしたら男が逃げて、それを追っていかれたので、どうしたのだろうか、と」
遅くなって申し訳ありません、とバーズド隊長は頭を下げた。
いやいや、助けてもらったのだから僕が感謝する場面だよ、ここは。
だから、素直にお礼を言った。
「危ないところをありがとうございました」
「怪我されてませんか? とりあえず、ここから出ましょう」
「大した怪我ではないし、フェヘールに頼めばすぐに治してくれるから」
地面に放り出してあった杖の入った木箱を拾い上げた。
荒れ果てた庭に置いたせいで少し土がついていたが、壊れたりはしてないようだ。
するとバーズド隊長も興味深そうな視線を向けてきた。
残念ながら、これはどうやら犯人特定につながるようなものではない。
「魔法士団の詳しい人に訊いてみたのですが、かなりいいものではあるらしいですけど……特別な杖ということでもないようです」
「なにか謂われのあるものとか、有名な魔法士のものだったとか?」
「それが見た目だけはコンル・サカーチの杖に似ているらしくて。それこそ上手く使ったら詐欺の道具にできるクラスの。ひょっとしたら僕が騙されていないか、ずいぶん心配されました……王子といっても詐欺師に支払えるような大金にはまったく縁がないんだけど」
「レプリカとか、そういうものだったということでしょうか?」
「さあ? まあ、伝説レベルの魔法士の杖だから似せて作られた杖もあったでしょうね。ただ、これが狙って似せたのか、たまたま偶然それっぽくなったのかは、ちょっとわかりませんね」
「古いもののようですから、さすがに詳細不明という感じでしょうか?」
「なにか事件に関係していたり、証拠として使えるようだとよかったんでしょうけど」
「そうそう都合よくいきません。いまのところフレドリカ先生を保護したという連絡はきてませんし、それらしい人物を見かけたという目撃者もみつかっていませんし、さっぱりの進展がありません」
「僕のほうでもなにかわかったことがあったら知らせますね」
そんな話をしながら空き屋敷を後にし、途中で鞄を回収し、学園の前でバーズド隊長と別れた。
そのまま教室にいこうとしたけど、制服は汚れているし、背中は出血しているし、これは大騒ぎになると判断して保健室に向かう。
このところ第1王子派とか、第2王子派とか、派閥争いみたいなものがはじまっているのに、ここで第3王子が負傷したことが変な噂になると困る。
いつの間にか暗殺者が暗躍しているとか、尾鰭がいくつもついたヤバいストーリーができあがってしまいそうだ。
レシプスト王立学園の保健室は診察や治療をおこなうスペースと、その奥にベッドが5床ある。
まあ、このあたりは日本の学校にある保健室とあまりかわらない。
何百人も生徒がいると、気分を悪くしたり、怪我人が出るのは世界が違っても変わらないことだから。
違っているのは治癒魔法があることと、保健の先生がその治癒魔法が使えることくらいだろうか?
つまり先生なんだけどフェヘールの弟子みたいなもので、つまり僕もちょっとした頼みごとなら聞いてもらえる……と思う。
「コルダ先生」
そう呼びかけながら保健室に入ると、僕の顔を見て挨拶しかけて、ついで焼け焦げのある制服や背中の傷を見てギョッとした顔になった。
「すみません、フェヘールを連れてきてもらえませんか? すぐに治るような軽傷ですから」
「治癒だけなら僕でもできますが、殿下に事情聴取とお説教ができるのは聖女様だけですから、すぐに探してきましょう」
コルダ先生ははりきって保健室から出ていったけど、僕がフェヘールにきてもらいたいのは、そういう理由じゃないんだけどな。
しかし、やっぱりフェヘールがやってくると傷の手当のあとに事情聴取とお説教になった――治癒魔法のあとメチャクチャ怒られた。
「怪我するのなら、わたくしと一緒のときにしなさいよ、死んでなければちゃんと治すから! だいたい、なんで敵が3人に増えたのに、そのまま突っ込んでいくの? 罠にはまったとわかったら、すぐに逃げなさいよ。ひょっとして前へしか進めない病気なの? それ、わたくしでも治せない種類の病気だから、ちゃんと自分で治しなさいよ、それも早めに、死なないうちに」
「反省してるから! 勝てるつもりで突撃したら、意外と強くて。それに最後には全員ちゃんと倒せたし」
「最後に勝った、は反省してない証拠」
「そんなことないよ、ちゃんと反省してるから!」
「バレンシア帝国から外交団の団長としてレフラシア内親王がいらっしゃると聞いたわ。わたくしたち2人で出迎えないといけないのに」
「フェヘールが一緒にいるときに戦うほうがいいというのは、その戦闘中にも感じた。どうやら僕は1人だと、とても弱いらしい」
「なんか……ごまかそうとしてない?」
疑り深そうに半眼になって僕を見るが、こっちは本気で言っているからね。
その疑いが晴れたというより、いつまでも疑い続けるのに飽きたのだろう、もういいと言ってフェヘールは話題を変えた。
「その箱の中が先生の杖?」
「僕に譲ってくれたらしいんだけど、なぜか理由がよくわからない」
「単純に考えたらダメなの? 安全なところに保管しておいて欲しいだけ、みたいな。クリートは王子なんだから、そういう身分の人に譲ると書いておけば、他の人は手を出しづらいでしょう? 事件現場を捜索する衛兵が見つけた金目のものをポケットにねじ込むとは思いたくないけど、万一のこともあるし」
「なるほど……王家の者への譲渡する品物とあれば手は出しにくいよね、換金しないといけないから足がつきやすいし、バレたら首がなくなるし」
「もしクリートがバカなことをやって死んでも王子の遺品ということで王城の宝物庫か収蔵庫にしまわれるからアルフォルド王国が崩壊でもしない限り、国内で最高のセキュリティー体制で保管してもらえる」
「まだ怒ってる?」
「怒ってない」
「そういうことなら僕はちゃんと自分の手でフレドリカ先生に返却するよ」
こんな話をしていた僕たちのところに王城から使者がやってきた。
なんでも陛下が僕たちを呼んでいるとか。
ぼく、なんかしちゃいました?
いや、ふざけているわけではなく本当に心当たりがありません。
叱言だったら昨夜秘書官から聞いたしね――だけど、前の呼び出されたときはフェヘールの婚約破棄の一件だったし、悪い予感しかしないんだけど。
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