この杖、ひょっとして?
033
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フレドリカ先生に教えてもらったズルドさんが危なそうな連中に見張られていて、今度はそのフレドリカ先生が襲われたらしい。
これを偶然としてしまうのは、いくらなんでも無理がある。
昨日の5人の遺体は届け出て引き取ってもらったから、そのあたりの情報共有は学園にきていた衛兵にもされていたようだ。
ただし、引き取りの際に僕のほうは事情もちゃんと説明していたが、昨日の事件に直接は関係ないフレドリカ先生の名前までは聞いてなかったみたい。
バーズドにそのあたりの説明をすると事件らしい状況もあり、すでに5人も死人が出ている重大事件の関連事案にランクアップする。
関係者ということもあるし、王子という身分のおかげもあったのだろうが、説明を受けながら現場を見せてもらうことができた。
気づいたことがあったら教えてもらいたいとバーズド隊長には言われたけど、なにがあったのか僕のほうが教えてもらいたいよ。
「フレドリカ先生は死んではいないんですよね?」
「誰のものであれ、いまのところ死体は発見されていません……ただ、血痕がいくつか。もちろん、致命的になる量でもありませんが」
ここだと指摘されると、廊下にも数メートルごとに血が滴った痕跡があった。
ほんの1滴、2滴だから、擦り傷よりは重いかもしれないけど、確かに致命傷とはほど遠い。
フレドリカ先生の部屋はドアが破壊され、壁に火属性の魔法が当たったらしい焦げ跡と、剣先がかすめたらしい傷跡が残されていた。
まずベッドを確認するとシーツはくしゃくしゃになっているが、切れたり、穴が空いたところはない。
寝ているところを狙われたのに初撃を入れられる前に先制攻撃できたのか?
あるいは犯人の目的が暗殺ではなく身柄確保だったから、最初から危害をくわえる気がなかったのか?
壁の焦げ跡からすると、いずれにしてもフレドリカ先生は少なくとも3発は反撃したとみて間違いない。
しかし、問題はそれからどうなったか? なんだよな。
そこにフェヘールがやってきた。
「クリートがいると聞いて、中に入れてもらったんだけど……」
「ちょうどいいところにきた。誰かに襲われたかして、フレドリカ先生が反撃したところまではわかったんだけど、あと、なにか気づいたことはない?」
「血痕からすると、侵入した犯人も負傷しただろうし、フレドリカ先生も負傷したと思う」
「両者とも怪我してる?」
「どの程度かわからないけど、先生は剣で斬られた可能性はある。犯人が魔法で負傷したのは確実」
壁が焦げているところの近くに落ちた血痕はまず間違いなく犯人のものだろう。
さらにフェヘールは床の血痕が押し潰れて、流れかけていると指摘する。
剣先についた血が振り抜いた勢いで床に飛び散った痕跡かもしれないとのことだった。
「断言はできないけど……例えばフレドリカ先生の魔法で腕を負傷した侵入者が、その腕を振った拍子に血が飛び散った跡かもしれないし」
確かに断言できるほどの証拠ではないようだが、剣と魔法では負傷時の血の滴りかたに差があるのではないかという推定はなかなかおもしろい。
科学捜査がない世界だから、この程度の気づきでも無意味ということはないはず。
「フレドリカ先生が負傷していると仮定して、いまどこにいるかはわかる?」
「それはなんとも……先生に逃げなければならない理由はないはずだから、いまだ犯人に追いかけられているのか、もう捕まってしまったのか。ひょっとして、どこかに助けを求めているのかもしれないわ」
「いま、この瞬間に衛兵の詰め所とか、どこかの病院に駆け込んでいるかもしれないね」
「衛兵に関してはクリートにまかせるわ。わたくし、ちょっと病院や薬屋から話を集めておくように伝えにいってきます」
「そうしよう」
僕はバーズド隊長にフレドリカ先生が見つかったら知らせてくれるように頼んだ。
もしフレドリカ先生が衛兵の詰め所に駆け込んだのなら、すぐにわかるだろう。
電話すらない世界って、面倒くさいと思うよ、本当に。
なんとか情報インフラも整備できればいいんだけど、いい解決策なんて1つも考えつかないし――まあ、だからこそ出涸らし王子と評判なんだよね。
フィクションの世界では内政チートを簡単にやってるけど、あれができる人なら、異世界ではなくても普通に日本で成功しそうだ。
僕だって電話の使いかたは知っているし、電波を飛ばして、それを受信しているという程度の原理くらいなら聞いたことはある。
しかし、モールス信号を送る程度の原始的な無線通信装置であっても、それを自作する能力なんてあるはずがない。
金属の棒を立てたらアンテナになるの? というレベルなんだよ。
バッテリーはどんな材料でできていて、どんな加工をすれば作成できるのか1つもわからないし。
日本でも、異世界でも、凡人は凡人ということだ。
その点、フェヘールはこの世界で成功をおさめつつあるし、きっと日本に生まれていても、それなりの人物になったんじゃないのかな?
とりあえず、この王国の医療はフェヘールの手のうちにあるといっても過言ではない。
「身元のわからない負傷者を治療したら報告するように。特に剣や魔法での負傷者には注意すること」
どこの病院にもフェヘールの顔を知っている者はいるから、ちょっと訪ねていって、必要なことを伝えれば今日中には王都の医療関係者に広まるだろう。
あと僕にできることは……もう少し部屋を調べてみようか?
でも、衛兵に怒られるかも――まあ、立場が立場だから怒りたくても怒れないかもしれないけど、内心では邪魔だと感じるよね、やっぱり。
おとなしく部屋から出ていこうとしたら、バーズド隊長の部下が声をかけてきた。
「殿下、これをごらんください」
そんな言葉とともに差し出されたのは50センチくらいの長細い箱だった。
木箱で、蓋に『クリート殿下への献上品』とあり、その下にフレドリカ先生のサインが入っていた。
いかにも慌ててペンで書き殴ったような走り書きだから、襲撃者に気づき、なにかを僕に託そうと考えたのだろうか。
つまりは敵の正体とか、証拠のようなものかも、と期待して箱を開けたのだが、中身はただの杖が1本。
食い入るように箱を見ていたバーズド隊長がクワッと僕に顔を向けた。
「これは?」
ものすごい勢いで質問してくるけど……そうだよね、こんな場面でなにかが出てきたら事件解決の手かがりだと期待するよね。
でも、残念ながら僕にはなにも思い当たることはない。
魔法士としては高名なフレドリカ先生の所有物だった杖だけあって、かなり高価そうだけど。
いや、ちょっと待てよ?
まず僕は魔法士としては問題外で、それを一番よく知っているのはフレドリカ先生だ。
高価な杖を譲りたくなる相手では絶対にないし、僕のほうだって欲しいとも思わない。
日本には『猫に小判』とか『豚に真珠』という諺があったが、この世界にも『ワインを楽しむ犬はいない』という言葉があるけど、まさしくそれだ。
しかも、敵に襲撃されそうになっている場面でやらなくてはならない優先順位が、まるで魔法士としての能力も才能もない生徒に対して杖を譲ることではないはず。
なのに、それをやってということは、襲撃を受けて命の危険にさらされているフレドリカ先生の中での優先順位のトップに杖の譲渡があったということだ。
つまり、この杖こそがこの事件の鍵……ということか?
しかし、いままで出てきた杖といったら焦土の魔女と呼ばれたコンル・サカーチのものだけなんだけど。
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