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本物のバカは自分がバカだと思ってないから厄介

003





 僕の上の兄さんこと、第1王子のバラージュが婚約破棄だと騒ぎはじめた。


 ところが、その婚約破棄されたフェヘール・ファルカシュ・メレデクヘーギ侯爵令嬢が泣くとか、気絶するとか、取り乱すとか、普通の貴族令嬢がやりそうなことをやるわけがない。


 彼女はかなり気が強いのだ。


 結果、バラージュは剣を抜こうとし、フェヘールは杖をつきつけて魔法を撃つ寸前という、下手をすると学園が崩壊しかねないレベルの争いになりそうだったので、慌てて僕が間に入って宥めたんだ。


 2人とも、第1王子と侯爵令嬢なんだから、そこのところちゃんとわかってるよね?


 30分か、1時間もあれば冷静になれるよね?










 そんなふうに甘く考えていた時期が僕にもありました!




 夕方、学園から帰ると呼び出しですよ。


 わざわざ国王の秘書官が僕のところまでやってくるから、何事かと思ったね。


 仕事を山ほど抱えている、とても有能な秘書官は普段だったら出涸らし王子のところになんか寄りつかないから!


「陛下がお呼びです」


「父上が?」


「第1王子バラージュ様、メレデクヘーギ侯爵、その令嬢とともにお待ちしております」


「その件はとっくに終わったはずでは? 具体的には今日の昼過ぎくらいに」


「いえ、いままさしく燃え上がっているようでございます」


「……バカなの?」


 いや、訊くまでもなかった。


 ちょっと頭を冷やせばバカなことしたな、と普通は反省するはずなんだけど、本物のバカは自分がバカだと思ってないから厄介なのだ。


 急いで国王の執務室に参上してみると、いがみ合っている第1王子と侯爵令嬢、呆れているような国王と侯爵という構図。


「クリートです、お呼びにより参上しました」


「よいところへきた。これをなんとかいたせ」


 お父さん、それは無茶ぶりという奴ですよ。


 こんなもの、なんともなりませんし、どうにもできません。


 王様だからって、命じただけでなんでもすぐに片付くわけじゃないんだぜ?


 しかし、王様はそのあたりのところをちゃんと理解した上で落としどころを探るつもりもあるようだった。


「この2人の言い分はあまりにも違いすぎる。クリートの見たままを申せ」


 どうやらバラージュもフェヘールもひどく興奮していて、まともな説明すらできなかったようなのだ。


 それで僕は学園であったことを順番に説明した。


「つまり上の兄さんはクラスメイトの前でやらかして、彼女も彼女で杖を振りまわして魔法をぶっ放す寸前までいきました」


 父上は少し考えて「婚約破棄は確定だな」と呟いた。


「大勢の者が聞いている前で口にしてしまったことは元には戻らない」


「賛成いたします」


 侯爵も頷いて同意した。


 自分の娘が一方的に婚約破棄された割には怒ってないように見える。


 それとも内心は激怒しているのかな?


 アルフォルド王国でもトップクラスの貴族だけど、中身は僕に近い。


 というか、憧れの人物だ。


 身長は2メートル超、腕の太さは僕の太股くらい、太股は僕のウエストといい勝負という、人間という種族に分類していいのか迷うレベルの巨体。


 亜人だよ、たぶん――いや、亜神かな? 


 マッスル神を称えよ!


 キレたら自分の身長とかわらない大剣をブンブン振りまわして暴れるタイプ。


 いつか僕もあんな大剣を使いこなしたい――前世のVRMMORPGではたいてい大剣使いだったからね。


 まあ、そんなことはともかく。


 国王と侯爵の話は続く。


「しかし、王家と侯爵家との縁は切れない。むしろ強くしなければならない」


「強く同意いたします」


 しかし、国王のこの言葉にも静かに頷くだけだった。


 筋肉の塊の中にはまともな精神がインストールされているのだ。


 脳筋の王様か、いっそ神様かという外見なのに、侯爵としてこの上なく優秀だったりする。


「ことに他人を呪ったという発言は致命的だ。体調不良に陥らせる呪術を反転させて治癒魔法を作り上げた功労者であるのに」


「白樺救護団を結成したことは王国内部だけでなく、大陸全土で噂になっているようですから」


「その通りで――」


 父上が話を続けようとしたが、そのとき執務室のドアを開けて下の兄さんが姿を見せた。


「兄と弟が呼ばれてて、俺だけ仲間外れはひどいですよ。だいたいフェヘールの婚約破棄だって、俺に関係ないわけじゃないし」


「ん? おまえにどんな関係がある?」


 呼ばれてもないくせに堂々と登場しておいて、父上に質問されると口ごもり「小さい頃から知ってますから」とか云々。


 幼馴染みというのなら、僕たち3人全員がそうだ。


 王家にとって重要な貴族の子女で年齢が近いと自然とそういうことになる。


 幼児のころは一緒に遊んで、子供時代には同じ学校で勉強し、成人してからは協力して王国を運営していくのだ。


 だから、同世代の王族や貴族はたいてい友人といってもいい関係になっている。


 戦乱の時代は遠くなり、いまは平和なアルフォルド王国だが、この大陸でも弱小国家といってもいい立ち位置なので、内輪でもめる余裕はなく、みんなが一致団結してないと簡単に滅ぼされてしまうから。


 もともと周囲より小さめの国が半分に割れたら、一瞬で大国に飲みまれてしまうだろう。


 よく王政の国では王位をめぐって兄弟で争いが起きるようなイメージがあるが、このアルフォルド王国では身内でケンカする余裕はないのだ。


「まあ、いい。心配するな。婚約破棄した当日に他と婚約では外聞もわるかろうから、いずれ時期をみて発表することとなるが、クリートと婚約するということでどうだろうか?」


「それにも同意いたします」


 ごくあっさり頷いた侯爵。


 大人は2人だけで勝手に話を進めて、勝手に納得しているみたいだが、僕たち子供組はびっくりだ。


 4人とも「えっ!」とか「なに?」とか「うっ!」とか「はっ?」とか変な声が出てしまった。


 しかし、すぐにフェヘールが落ち着きを取り戻した。


「落としどころとしては、そのへんでしょうか。わたくし、賛成いたします」


「賛成って……いいの?」


 だけど、僕はびっくりしたまま。


 同じく下の兄さんもびっくりしたままらしい。


「なんで、クリートが……俺ではなく?」


「父上、俺が婚約破棄したのには理由がある。そこのところを放置したままクリートに押しつけるのはやめていただきたい。王位継承権の低い第3王子だからといって、わざわざ貧乏くじを引かせることはないと思いますが?」


 上の兄さんは出涸らし王子などとバカにされている僕に対しても普通に弟として扱ってくれて、そこは嬉しいのだが……でも、貧乏くじとか、いくらなんでもフェヘールに失礼じゃないかな?


 ほら、せっかく落ち着いた彼女が大きな犬を目の前にした気の強い猫のように鼻息荒く威嚇しはじめたじゃないか。


「クリートにとっては貧乏くじではなかろう。メレデクヘーギ侯爵家の騎士団は王国最強であり、フェヘールは誰も成功しなかった治癒魔法の開発者ゆえ、いままで以上の結びつきが必要と考えてバラージュと娶せようとしただけだ。自分が治癒魔法を使えるというだけでなく、才能のある者に教授しておるし、白樺救護団を設立して貴賤を問わず治療している功績もある才媛だ。侯爵にとっても娘が王妃になり、孫が将来の国王ならば文句もあるまい。しかし、それが不可能となった以上、なにかしらの対案は必要だ」


 そんなわけで出涸らし王子である僕と、悪役令嬢にされてしまったフェヘールは婚約することとなった。

















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