また禁書庫にて
028
コンル・サカーチ殿下崩御につき、生前のご厚誼に感謝の意を伝えると共に、愛杖をセープ・ロストーツィ殿に渡すこと。
神聖セーチェーニ歴19年5月2日
ウルドゥグ大帝国 皇帝 ノチユ・サカーチ
僕たちは禁書庫で不審者を捕まえることには失敗したが、かわりにこんな手紙みたいなものを手に入れた。
どうやら不審者はどうやら600年くらい前に焦土の魔女と呼ばれたコンル・サカーチの杖について調べているらしい。
わざわざ正規の手続きをすることもなく不法侵入したのなら、ただの歴史研究ではないだろう
つまり僕が考えるに、これは宝探しの問題だ。
いまの現状は手紙が1枚あるだけで手がかりらしい手かがりはないから、発見できる可能性はそんな高くはないのだけれど。
歴史に大きく名前を残した伝説の大魔法士が愛用した杖なんだから、もし見つけることができたらものすごい価値だろう。
前世の日本でもそんなものなら重要文化財や国宝などに指定されていたし。
源頼光が丹波国大江山の鬼退治で使った日本刀『童子切安綱』とか。
織田信長が茶坊主を手打ちにしたときの『圧切長谷部』みたいなもの。
他にも『ニッカリ青江』『骨喰藤四郎』あるいは『五郎入道正宗』『千子村正』『長曽祢虎徹』など値段もすごいんだろうけど、それよりロマンだよな。
もしこの世界に同じような日本刀があって、それを僕が手に入れることができたとしても、フルプレートの甲冑の騎士と戦ったら簡単に折れるだろうね、たぶん。
切れ味は鋭いけど板金製の防具を切断するようにはできてないから。
ゲームだと和風ファンタジーならともかく、中世ヨーロッパ風の世界観だったとしても日本刀を欲しがるユーザーは一定数いて、運営のほうも実装してたりして、しかもそこそこ強い武器だったりすることもあるけど、現実にはその地域で使われる防具に合わせて武器は発展していくからね。
だけど、それはそれは、だ。
名刀というだけでテンション上がるよ。
この世界なりの名剣があるし、いつかは僕も伝説や神話で語られているようなスゴい剣が欲しいと思っている。
今回は杖だから直接自分で装備できるものではないけど――フェヘールなら装備できるんだよね。
よく考えたら僕はフェヘールと婚約したけどなにもしてない。
アルフォルド王国には婚約指輪を贈るような習慣はないし、そもそも僕は大金を稼げる年齢でもないしね。
婚約の挨拶として相手の家に送る贈答品は王家が用意した。
だから、別になにかをする必要はないけど――なにかしてあげたい気持ちはある。
伝説の魔法士の杖はプレゼントとして不足はないと思うんだけど。
喜んでくれるかな?
あまり欲しそうじゃなかったら、売って現金にかえればいいし。
そんなことを考えながら、昼休みになると僕たちは再び禁書庫に入った。
他にも資料があってもおかしくない。
問題の手紙が落ちていたあたりを中心になにか関係しそうなものがないか探そうとするのだが……ふわーっと欠伸をしたところをフェヘールに見られてしまった。
「昼寝しててもいいけど」
「ご飯を食べた後がどうも眠くてね。でも、いいや」
フェヘールに杖をプレゼントしようと計画しているのに、その本人だけに探させては本末転倒というか、僕がプレゼントしたことにならないというか……それに、ここはあまり昼寝には向いてない気がする。
「なんだか昼寝している間に呪われそうだよ」
「禁書庫で昼寝して呪われるのなら、その実験結果をまとめて本にすれば、ここの蔵書がさらに増えそうね」
「フェヘールさん、まじめに考えてください!」
「でも、そうならない?」
「いや、僕はどうしても禁書庫の蔵書を増やしたいわけじゃないし……というか、増やすことになにか意味があるのか?」
「大きな禁書庫があるというのは、場合によっては大きな金庫があるとか、大きな軍隊があるとか、そういうことと似たような効果が望めるから」
「攻撃魔法はどうでもいいけど、お金になりそうなのは僕だって興味あるかな? そういえば錬金術とか、どういう扱いなんだ?」
黄金を人工的に精錬しようという、のちの時代には科学者と呼ばれるようなものか――そんなネタで欲深い金持ちを騙す詐欺師も多かったみたいだけど。
あるいはゲーム的な素材を集めて調合してアイテムを作る生産職なのか。
「トップクラスは天才。残りは詐欺師と夢想家」
「ここに賢者の石の作り方入門とかないんだ?」
「あるけど」
「あるんだ!」
「聞いた話だから詳しくはないけど、確か10年くらい前だったかな? ガラクタを黄金に変えたり、どんな病気でもなおせる媒介があると、お金を巻き上げるテクニック満載な本を売り歩いていた人がいて、大儲けしたみたいだけど本人は本を売っただけで、それは犯罪とはいえない」
「賢者の石で騙すんじゃなくて、本で利益を出したわけだ」
「こっそり禁書として売買禁止に指定して、普通の商人のふりをした騎士団の団員が取引を持ちかけて、捕まえたとか、そんな話があって、ほとんどのものは焼却処分されたけど、とにかく禁書に指定されたものだからサンプルはどこかにあるはず」
「捕まえたほうも、捕まったほうも、どっちもアレだな」
江戸時代の日本でも刑法は非公開だったらしいけど、封建制の国ってそんな感じなのかな?
なにをしたら違法になるか周知させることなく犯罪者を取り締まるって、かなりムチャクチャな制度だと思うんだけど。
おしゃべりしながら本棚を順番にあたっていくが、それらしいものがさっぱり見つからない。
暗い禁書庫でライトの魔法を使えるのが1人だけという効率の悪さもあったんだけどね。
ところで、僕たちはレシプスト学園の生徒だ。
つまりわかないことがあったら先生に質問できる立場でもあった。
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