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模擬戦をやりながら

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 あいかわらず雑な動きだな、と思う。


 木剣を振りかぶって、そのまま前へ! と進んでくる騎士を見ていると、頭の中に考える機能がついてるのかと疑問を感じる。


 まあ、この世界では細かいテクニックより、重くて大きい剣をできるだけ速く、そして強く敵に叩きつけられるかが重要視されているからしかたないのかもしれないけど。


 べた足で、しっかり踏ん張って剣を振らないと怒られてしまうんだよ。


 いちおう剣術というものはあって、流派もいくつかあるけど、どれもまだまだ未発達で、きちんとした体系にはなってない印象。


 腕力が勝負を決める割合が極端に高い――つまりは脳筋が最強!


 いま目の前で木剣を振りかぶる騎士に向かって、僕は突き技を出した。


 普通、突くなら喉だけど、僕が狙ったのは目。


 といっても、当てる気はない。


 そもそも間合い的に、どうあっても切先は届かない。


 30センチは離れたところで僕の木剣は止まったのに、相手をしてくれている騎士は思わず振りかぶった木剣をさげる。


 目を狙って木剣が迫ってきたから反射的に防御してと反応したのだろう。


 だけど、日本の剣道でいうところの上段で構えておいて、ちょっとしたフェイントにひっかかったら負けるよ。


 突きにいった木剣を振り上げて、今度は騎士の右手首を打ち据える。


 不用意に木剣をさげたせいで構えが崩れて隙ができた瞬間だから、パシンといい音がした。


 騎士とはいえ訓練中だから甲冑ではなく、厚手の布でできた稽古着だ。


 その厚手の生地が木剣で打たれたときの衝撃を緩和してくれるのだが、手首を完全に覆っているわけではないので、いまのは結構痛かったんじゃないかな?


 ひるまず騎士は無理に斬りかかってきたが、そのときには僕は後ろにさがっている。


 スカッと空振になった。


 さらに体勢を崩した騎士の頭をポンと木剣で軽く叩く。


「参りました」


 勝ったけど、あまり満足感はない。


 このところ僕は毎朝、騎士団の訓練に参加させてもらっているんだ。


 最初のころは体力作りや素振りのような基礎訓練で潰れかけてて、模擬戦は見学だったけど、そこそこ体ができて、身体強化ができるようになると、最後までまぜてくれるようになった……けど、見習いや新人の騎士だと勝負にならないんだよね。


 剣技を使うまでもない。


 ごく初歩のフェイントみたいなものでも簡単に引っかかってくれるから、まずは僕の稽古相手になれるレベルに上げないといけないという、ちょっと面倒な状況だった。


「王子、次は私が相手しよう」


「お願いします」


 対戦する騎士が入れ替わったみたいだけど、まあ、どうせ大したことないから。


 正直なところ、昨日の禁書庫で見かけた不審な侵入者のほうがずっとずっと気になる。


 姿すらつかめないのでは、そもそも剣の出番がない。


 うっかり派閥争いに巻き込まれて、おちおち昼寝もしてられないとフェヘールに相談したら図書館の禁書庫に案内されたのだが――そこには僕たち以外、誰もいないはずなのに、明かりが見えたのだ。


 ところが、追い詰めたはずなのに、人影はどこにもない。


 禁書庫だから、当然のことながら自由には出入りできなくて、扉は1か所のみ。


 担当の司書さんに鍵を開けてもらい、中に入ると施錠されてしまう。


 出るときは扉をノックして司書さんを呼んで鍵を開けてもらわなければならないわけで、その司書さんも僕たち以外の出入りはなかったと断言した。


 そもそも禁書庫の閲覧許可が出ている学生はほとんどいないとフェヘールから聞いた。


 よほど魔法の研究で認められないとダメだとか――なにもしなくても僕は王族なので原則的にどこでも出入り自由です。


 魔法は完全に落ちこぼれの出涸らし王子でも王族は王族なので。


 学園の付近にある魔法関係の研究施設からも研究員たちが禁書の閲覧にくるらしいけど、それは夕方以降。


 なんでも発表までは研究内容を隠したい研究員が多いらしく、結果として夕方まで学園の生徒が禁書庫を利用し、そのあとの夜になってからと、いまでは棲み分けしているらしい。


 このあたりの情報をフェヘールから教えてもらったのに、あのとき誰が忍び込んでいたのか、どんな手段で禁書庫から出たのか、さっぱりわからなかった。


「いくらなんでも気を抜きすぎでしょう!」


 巨大な影が迫ってくる。


 えっ?


 僕って新人とか見習い騎士と模擬戦してたんじゃなかったの?


 いつの間にか騎士団長と向かい合ってるじゃないの。


 騎士団長――バルナ・ギルメルト・オルバーンはフェヘールの父親といい勝負の巨漢で、2メートルを超えそうな長身で、腕も足も筋肉の塊、胸板は縦と横が同じくらいのサイズ。


 そんな巨体の上に太い眉に、ぎょろっとした目玉という魁偉な容貌。


 茶色の髪は逆立ち、もちろん声もデカい。


 木剣なのに、このままだと真っ二つにされそうな威圧だ。


 僕の選んだ選択肢は前へ踏み込む!


 考えごとをしていたせいで初動が遅れた。


 致命的だけど……間に合うのか?


 身体強化全開で進み、相手の木剣に合わせて、僕も木剣を振る。


 お互いの木剣がすれ違う瞬間、木剣の腹で相手の木剣を打ち落とそうとした――けど、パワーで負けて、ほんのわずか軌道をそらすのがやっと。


 だけど、そのおかげで直撃コースは免れた。


 僕は首をひねって肩で騎士団長の木剣を受ける。


 ほぼ同時に当たった僕の木剣も肩にそらされていた。


 面を直撃するはずなのに、なにをしたんだ?


 よくわらないけど、頭を真っ二つにはできないのはわかった。


 とっさに木剣を寝かして首の側面をなぞる。


「集中力を欠いていたのはいただけませんが、その割に反射的によく打ち込むことができました。剣筋が立ってなかったのは残念でしたが」


「いい稽古をつけてもらいました。ありがとうございます」


「今日は妙な技を使われませんでしたね。おかげでいい勝負となりました」


 まあね、こんなのでも僕はいちおう王子だし、オルバーン騎士団長は気を使って言葉を選ぶ。


 おかげでいい勝負となりました――意訳すれば俺の勝ちだよな? という感じだろうか。


 僕は頭への直撃だけは避けたけど、肩からばっさり斬られた形だ。


 即死は避けたけど、あんな巨漢の膂力だから致命傷だろうね。


 フェヘールがいたら助けてくれるけど。


 一方で僕の剣は頭への直撃が決まらないと悟った瞬間に刃を寝かして首を薙ぐことを狙った。


 頸動脈に傷がついていたら致命傷となるだろう。


 ただし、甲冑を着ていたらそうそう簡単に首を斬れたかはわからない。


 そう考えると騎士団長があの勝負をどんなふうに評価していたとしても、僕としては本当の意味でいい勝負だったと思う。


 ゲームで習得して、この世界でも再現できた剣技だけでなく、普通の戦闘方法で騎士団長とそこそこやれるようになったのは収穫だ。


 あとは身長と筋肉が欲しいところだね。


 結局、この世界の剣術はそこで決まるのだから。


 騎士団との朝稽古を終えると、はらぺこだ。


 朝食をがっつり食べながら、昨日のこともあるので大剣を持っていこうか考える。


 学園では邪魔でしかない大剣だけど、いざというときに戦える武器がないと不安でもあるので、出かけに背負って登校した。





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