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第1部エピローグ

022




 とある街道沿いの森の中






 冷たくなって、地面に転がっていたはずのアーガスが身を起こす。


「あー、死ぬかと思った。いや、1回死んだのか? それどころか、いまでも死にそうだ」


 首からさげていた光る石のついたペンダントをポイと捨てる。


 もっとも、いまはくすんでいる石は完全な光沢を失っているが。


 いわゆる身代わりアイテムというものだ。


 ゲーム的に解説すると1回限りの使い捨てで、死亡時にHP1で蘇生されるという代物だった。


 つまり現在アーガスのHPはたったの1。 


 コケただけで死んでしまう。


 鞄からポーションを出すと、一気に呷った。


 これで回復できるだろう。


「なんで『華色のファンタジア』になかった魔法や剣技が使えるようになるのに、身代わりアイテムに気づかないのかねぇ? 全損しても蘇生するアイテムやスキルなんてRPGあるあるだろうに」


 致命的なダメージを無効にするとか、HP1でぎりぎり生き残るみたいな。


 戦闘中1回だけ復活できるとか。


 そして治癒魔法のなかった世界で治癒魔法を作ることができたのなら、ポーションのない世界でポーションを作ることもできるんだぜ、と呟く。


 ゲームがリアルになってみると、ユーザーが飽きずに遊べる便利魔法やスキルやアイテムは存在しなかった。


 しかし、基本ベースがファンタジーの世界なのだから、そういう世界にあるものを開発することはできる――というのが、この世界。


 どんな神様の気まぐれで成立している世界なのかアーガスにはわからないが、工夫次第ではいろいろできるようだ。


 もっとも、かなりの試行錯誤の果になんとか蘇生アイテムとポーションの製作に成功したわけだが。


「まったく……今回は完全な失敗だったな。さて、これからどうしようかね? 借りた騎士を何人も失ったから国に戻ったところで無事にはすまないだろうし、このまま帝国に留まるのも危ないだろうな。剣バカを追ってアルフォルド王国にいくのも……うーん、困った。どうやら俺は世界の敵になったようだな。どっかに魔王城とかないのか?」


 












 とある国境の橋の上





 僕とフェヘールは2人でゆっくり前へ進む。


 あと……数十歩でアルフォルド王国だ。


「なんとか無事に帰ってきたね」


「そういえば前にクリートから聞いたことがある」


「なに?」


「家に帰るまでが遠足です! まだきちんと達成してないのに、その寸前で変なことを口にするとフラグが立つとかなんとか」


「いや、ちょっと待ってよ。フラグのつもりないんだ、ここで次なる試練とか、いらないよ」


 本当にならないように周囲を確認。


 前方よし!


 後方よし!


 左舷よし!


 右舷よし!


 足下よし! 


 どこにも問題なし……ないよね?


 のろのろ進む商人の馬車の後をついていく。


 近くに旅人の姿もあるが、あやしい様子はない。


 帝国の騎士を同行しているとトラブルになるかもしれないから、彼らとは橋のたもとで別れた。


 うん、大丈夫!


「いまさらなにかあったら困るよ」


「あら? わたくし、困らないわ。なにかあってもクリートと一緒なら、だいたいなんとかなるから」 


 ね? と笑いかけるフェヘール。


 いきなりそんなこと言うの反則だと思うよ、僕は。


 僕たちは手を握って前へ進む。


 橋の向こうでアルフォルド王国の兵士たちが僕たちを見て騒ぎ出す。


 詰所から偉そうな人まで出てきた。


 どうやら僕たちの冒険は今回ここで本当に終了みたいだな。














 とある王城の執務室






 緊急連絡のための早馬がアルフォルド王国の王城に駆け込んできた。


 すぐにメレデクヘーギ侯爵家にも知らせが走る。


「陛下、2人とも無事に保護されたとか」


「保護というか……自力で国境まで帰ってきたようだ」 


「縁のあるトップクラスの冒険者に依頼して5パーティーほど帝国に移動させたのですが、どうも役に立たなかったようですな」


「こっちでも表では移動の安全を保証した帝国を責め立て、裏では腕利きを何人も帝国に潜入させたが、やはり役に立たなかったような」 


「まあ、なんにしても幸運でした」 


「いや、第1報だから詳細はわからないが、帝国で冒険者登録して魔獣と戦ったり、とても楽しんだみたいだぞ」


「組み合わせ的にはまりすぎたかもしれませんね」 


「しかし、幼いころからフェヘールはクリートのことを慕っていた節がある。よく侯爵家にも押しかけていたようではないか?」


「当家に押しかけるなどどと……おいでいただき光栄に感じておりました」


「社交辞令はいらない」 


「どうやら2人の秘密らしいので確証はありませんが、王子が娘に治癒魔法を教えたのでないかと……いえ、まともに魔法を使えないクリート王子が治癒魔法を開発できるわけありませんから、教えたというのは大げさかもしれませんが、なにかかかわっているのではないかと」 


「あれが侯爵家へ頻繁に出入りしている時期と、彼女が治癒魔法を発現した時期がかさなっているからな」


「数が極端に少ないものの、いままで治癒魔法の使い手がいなかったわけではないですが、もっとレベルが低く、本人しか使えないものだったのが、フェヘールは別物というほどで、しかも資質のある他人に教えることさえできる」


「まさに別格。未来の王妃にふさわしいと思ったのだが……結果的には、おさまるべきところにおさまったのかもしれないな」














 とある帝城の執務室






 騎士が空の馬車をひいて戻ってきた。


「なんとか無事に送り届けることができたようだな」 


 しかし、皇帝の発言をその妹がバッサリ切る。 


「護衛が助けられたのですから、送り届けるつもりで、足手まといを押しつけたような形になってません?」


「まあ、結果的にはそうなったかもな」


「しかも今回の一件、裏でホーノラス王国がいたのでしょう? それを撃破したのも王子と聖女。うちの騎士たちはあっさりやられて寝てただけ。いえ、寝てただけなら、まだましですけど、治癒魔法までかけてもらって」


「安全な通行を約束してこんなことになったから、せめて無事に送り届けて少しでも失点を回復しようと思ったのだが」


「むしろ借りが大きくなったような……」


「ああ……困った」


「いっそホーノラス王国に出兵して国王の首でもとってきて、お詫びに贈る?」


「贈答品として、じじいの首か? 喜ぶかなぁ?」 


「わたくしはいりませんよ? そんな不気味な粗品」 


「確かに、そんなもん粗品とすらいえないか……」


「そもそもアルフォルドとホーノラスは何代にも渡って婚姻関係を結んできた間柄ですし」


「喜ぶどころか、怒らせるかもしれないな」


「だいたい皇帝に恥をかかせたとか、なんとか、くだらない理由で戦争って、先代までの皇帝とかわりません」  


「ちょっと待て、レフラシアが出兵と言い出したのだろう」


「息子のほうは剣で大喜びと結構ちょろかったですが、親父のほうはどうしょうね?」


「剣狂いの出涸らし王子か……戦乱の時代なら国をいくつも切り取れたんだろうが、な」


「そんな野心満々というタイプには見えませんでしたけどね。だいたい戦乱の時代がいいなら、そうすればいいでしょうに。開戦の理由なんて、どうとでも。いいがかりでも、こじつけでも、なんでもいいんですから」


「たまにレフラシアのほうが皇帝に向いてると思うことがある」


「わたくし、無責任に言うだけ言って、まったく責任をとらない立場がとても好きです」


「いいなぁ……」


 この大陸で一番の強国を率いる皇帝が心底うらやましそうに呟く。





 第1部完となります。

 いずれ第2部をやりたいと思いますが、具体的な予定は決まっておりません。

 

 作者の個人的な好みでは学園成分が不足しまくっている現状、学園編もしくは王都編がいいかな?

 

 おおまかなラストまでの筋立てと、ちょっとの書きためはないと、さすがにスタートできないので、いずれにしてもすぐにははじめられないのですが。

 

 他の作者さんの作品を読んでると、毎日更新分を書いて、その日に投稿してるらしい人もいらっしゃるようで、手の早さが羨ましいです。






 いや、それ以前に最初はチャンバラが書きたかったはずなのに、お侍さん、1人も出でこない! というか戦国時代や江戸時代じゃないし、そもそも舞台が日本じゃないし!


 どうしてこうなった? というグダグダな作品ですが、第2部もよろしくお願いします!





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― 新着の感想 ―
[良い点] 強すぎず(いや、十分強いか?)、ヒロインも可愛いしサブキャラもいい味出してるし(モブはあっさりリタイヤしますが)面白いです。次章も楽しみです。 [一言] 襲撃犯は下のお兄様の手引きかと思い…
[良い点] 面白かったです! 主人公が自分の領分に明確に線切りをしているので読んでいてスッキリしました。 また、ヒロインの貴族としての矜持もとてもかっこ良かったです [気になる点] 疑問なのが帝国の騎…
[良い点] 主人公が普通のゲーム少年っぽいところに好感が持て、面白く読ませていただきました。 ゲーム本筋開始前なのにこっからどうするの?って気になります。続きが読みたい!! [気になる点] 誤字とか細…
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