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2人で生きてるんだから強いんだよ!

021




 前世の僕は生きづらい世の中になっても抗議しようとはしなかった。

 

 なにもしなかった僕はVRゲームに逃げ込み……いつの間にか転生していたので、死因は不明だが、たぶんVRゲーム機の不調だろうね。


 専用カプセルだとゲームに集中できる上に、電気代は部屋全体をエアコンで冷やすより安いので、自宅にいるときは基本的に専用カプセル内で過ごしていたんだよね。


 だけど、専用カプセルは結構いい値段する。


 僕の萎びた財布には厳しい買い物だったので、中古のジャンク品もちろん保証なしを激安価格で手に入れて、だましだまし使っていたから、ゲーム中か寝ている間に空調機能が壊れたのだろう。


 毎年、夏の恒例になっているパチンコ屋の駐車場で死ぬ子供。


 イメージ的にはあんな感じ。


 熱中症か、脱水症状か。


 蒸し焼きになって死んでも安全装置が働かないほどのポンコツだったってことだな。


「この世界に転生して、剣で戦えるとわかったから、今度こそ、僕は平穏な生活のために剣を振ることにしたんだよ」


「世界がとれる剣で、日向ぼっこの権利を守るってか?」


「そうだよ、それが僕だ」


「おまえ、つまらないな。もういい、死ねよ」


「おまえはおもしろいな。俺の魔法で世界征服って、中二病かよ!」


 いや、まあ、僕たちいま前世の日本でいうと中学生くらいなんたけどね!


 いくつで死んで転生したのか知らないが、よほど若死にでない限り前世+今世で少なくとも30や40にはなってると思うんだけど。


「エクスプロージョン!」


 いきなり爆裂魔法を撃ってきやがった。


 笑われたのが気に入らなかったらしい。


 踏み込んで、剣の腹でエクスプロージョンを弾いて直撃だけは避け、削りダメージとはいえないレベルの火傷を追いながらも、さらに踏み込む。


 威力の強い魔法は連射がきかない。


 撃った直後に隙ができる。


 つまり剣士のターン!


「エクスプロージョン!」


 だが、次の瞬間もう1発。


 距離を詰めたところに爆裂魔法なんて、ほとんど自爆覚悟だ。


 しかし、自分以上に相手のHPを削れると判断すればやるのがゲーマーだが、それがリアルになって、一度死んだら二度と復活できないのに躊躇なく撃つとは。


 反射的に体が動いたが、完全に避けることはできず――むしろ、結構もろに食らって吹き飛ばされた。


 ゴロゴロと地面を転がりながら顔を上げるとアーガスが杖をこっちに向けているのが見えた。


「エクスプロージョン!」


 また強烈なのがきた。


 吹き飛ばされた勢いを殺さないように、自分からも転がり、なんとか回避した。


「エクスプロージョン!」


 このまま寝ていてはやられる。


 身体強化の魔法を最大出力にして突撃。こうなったら削り合いの勝負だ。


「ファイアーウォール!」


 炎の壁に頭から突っ込むこととなった。


 鍛えられるだけ鍛えたおかげで死なずに済んだけど。


 死んでてもおかしくない状況だ。


 無様に地面に寝転がった姿勢から、なんとか上半身を起こすところまではなんとかなったが、どうやら立ち上がるのは無理みたい。


「しぶとい奴だな」


「僕も自分でそう思ったよ」


「何発くらったら死ぬんだよ、おまえ」


「僕としては何発連続で撃てるんだよ、と言いたい」


「ん? 研究不足か? この世界にはクールタイムとかリキャストタイムみたいな概念は存在しないぞ。ゲームバランスという概念があるのはゲームの中だけだからな。リアルだと絶対的な強者が普通にいるだろ。肉体的なものだけじゃない。前世の日本だと経済力ならアジアやアフリカの国が集団でやってきても負けないだろう? 東京の年間予算より国家予算が低い国がいっぱいあるくらいに」


「剣で必殺技が使い放題というのは確認してたんだけどな。魔法までは検証してなかったよ」


「頭の中にイメージを魔力に乗せる感じだ。呪文や技名の発声は必須ではないが、イメージの固定化には役に立つ。俺の場合も無詠唱ができないわけじゃないが、技名があったほうが出力が上がるぞ。それに、無詠唱といっても頭の中で技名を唱えているのだから、発動時間はかわらないし」


「そういうもんか」


「あと現地の魔法士の魔法は地味。まあ、俺のイメージする魔法は基本ベースがゲームだから、いかにも魔法っぽいエフェクトになってしまうせいでもあるが。その派手なエフェクトのせいで普通の魔法でもものすごく見えて、天才魔法士と評判になったし」


 そう言ってアーガスが杖を向けた。


「どどめはなんの魔法だ?」


「いまならファイアーボール1発で死にそうだよな、おまえ」


「さすがに1発はないだろう?」


「いや、あるね。試してやろう。ファイアーボール!」


 それに合わせて僕も残った全部の魔力で身体強化して斬り込んだ。


「スターライトエクストリーム!」


 僕が一番長く遊んだゲームが『トリディアーノ・レコード』で、最後の記憶も『トリディアーノ・レコード』だ。


 どんだけ好きなんだよ、と自分でも呆れるが、本当に好きだった。


 その中でもっとも多用した剣技がこれだ。


 下から斬り上げファイアーボールを弾き、そのまま振り下ろしてアーガスの肩を斬り、ひるんだところで5回の突きが連続する。


 容赦なくアーガスの胸に剣が何度も突き立った。


 合計で七連続の必殺技だ。


 致命傷といっていい。


 むしろ即死しなかったことが驚きだ。


 しかし、まあ、そうはいっても時間の問題だろう。 


 遺言があるなら聞こう。


「あれだけ……削って……どうして、まだ立ち上がれる……それどころか剣技まで」


「たった1人で戦おうというおまえと、信頼できる治癒魔法士がいる僕との差かな? いろいろ魔法を研究していたみたいだが、この世界になかった治癒魔法には疎いようだ」


「聖女………………」


「現地の魔法士の魔法は地味だと自分で言ってただろう?」


 フェヘールの治癒魔法は派手な呪文詠唱も、いかにも魔法発動中というピカピカ光るエフェクトもない。


 ゲームのようなわかりやすさがないのだ。


「クリートの敵はわたくしの敵。なのに、わたくしに無警戒なんて、バカなんじゃないの? 愚かな頭脳で世界は征服できないし、たとえできたとしても統治は無理」


「だってさ」


「そうか……」


 呟いたアーガスのほうに視線がいき――とっさに剣を盾のようにかざす。


 いま変な目で僕を見た。


 あれはまともな目じゃない。


 たぶん直視しては駄目なヤツだ。


 避けられてアーガスはがっくりと全身の力を抜いた。


 まだ、こちらを攻撃する力が残っていてびっくりしたが、さすがにもう命が尽きるだろう。


「クソッ、最後の切り札だったんだがな。なんでわかった?」


「やっぱり魅了とか、その類いの魔法か?」


「ああ……乙女ゲーだったらあってもおかしくない魔法だろ? そもそもゲームには出てこなかった魔法や剣技でもできるくらいなんだから」


「おまえさ、また転生することになったら今度は騎士団の団長の息子とかにしろよ。宮廷魔法士筆頭の息子が1000騎もの騎士を動員できるのは不自然じゃないか。なにか騎士団が忠誠を誓うような魔法でも使ったと疑われても当然だぞ」


 もうアーガスは聞いてないようだった。


 冷たくなって、動かなくなっている。


「早くいこうよ」


 フェヘールの顔色が悪い。 


 まあ、当然だろう。


 正当防衛という理由があるとしても、僕は人を殺した。


 そして、直接攻撃魔法を使ったわけではないけど、彼女も僕のバックアップという形でそれを手伝ったのだ。


「ごめん」


「勝ったのに、なんで謝るの?」


「いや、その」 


 僕にはこの状況に対する嫌悪感も拒否感も自己嫌悪もない。


 武器を手にするとは、戦うこと、命を奪うこと。


 ゲームではない、この世界で剣をつかんだとき、その覚悟をした。 


 だから、いま僕が感じている嫌な気持ちは聖女とまで称えられ、病気や怪我をなおすことを使命にしているようなフェヘールに殺人の手伝いをさせたことだ。


 つまり僕が弱かったのがいけない。


「修行が足りなかったと反省しただけ」


「いまでさえいろいろ評判になってるのに?」


「評判というか悪評ね。でも、いい」


 次にこんなことがあったとき、ちゃんとフェヘールを守れる僕になれるなら悪評くらい我慢できる……こんなことが何回もあっては困るけど。


 僕はフェヘールの手をとる。


 そして2人で足早に街道に戻っていった。







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