出涸らし王子は天才魔法士と戦う
020
襲撃をかけられて、敵と向かい合ってみれば、まさかの転生者。
少し話をしてみたものの、どうやら僕とは決定的に合わない人らしい。
乙女ゲーの世界だから簡単に世界征服できるんじゃないか? と言われても、ちょっと試してみる気にはならないぞ。
だけど、いま僕の目の前にいるアーガスはできると思っているらしい。
で、いまやっている最中である、と。
「俺の世界征服の邪魔するよな(なよ?)?」
「僕の生温い生活を邪魔しなければ」
「どうしょうもないな」
ほら、とコーヒーの入ったカップを差し出してきた。
護衛たちの治療がおわったようで、フェヘールがこっちに寄ってくる。
頃合いだ!
その瞬間、僕は剣を抜いて斬り上げた。
これはゲームの技じゃない、前世、リアルで少し囓った居合い。
ただ、反りのない剣でやったせいで予想よりスピードが乗らなかった。
さらに障壁魔法のようなものを展開していたらしく、刃が弾かれる。
やっぱり居合いは日本刀を使うことを前提としたテクニックだな、剣だと難しい。
難しいが、やりようがないわけじゃない。
これでも前世のゲームの中では剣の達人だったんだーーなんの自慢にもならないか?
上に流れた剣で袈裟に切り下げた。
居合いは基本的に日本刀でも一刀で致命傷を負わせるのは難しい。
とどめの二の太刀だ。
「シールド!」
アーガスが技名を発声するのが早かった。
いっそ全力の袈裟切りで魔法障壁ごと叩き潰してやろうとしたが、やっぱり硬くて、火花が散っただけで終わった。
とっさに2歩、距離をとる。
「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」
僕の頭くらいの炎弾が次々に飛んできた。
刀身を盾のように前へ突き出して、そこから最小限の動きで炎弾を防いだ。
肩や脇腹を炎弾がかすめていくが、全部無視。
これがゲームならHPが削られている状態だろうが、致命傷でなければいい。
こっちは無傷で、一方的に潰せるような相手ではないのだ。
遠距離か、攻撃を防いでくれる盾役がいれば別だが、近接で剣と魔法が1対1で戦ったら普通は剣が勝つ。
この世界であってもそれは同じ。
だけどね、そうそう簡単に負けを認めるプレイヤーはいないんですよ、魔法使いとか魔導師とかゲームによって呼び名は違っていても、あいつらだって最強を狙っている。
いろいろ開発された戦法の中で僕が前世で覚えている最新の必勝セオリーが削り殺しだ。
高威力の魔法で一撃を狙っても、その前に突っ込まれて斬られるか突かれてしまう。
だから、威力にはこだわらない。
剣と銃が戦えば、まずは銃のほうが有利だろう。
つまりは機関銃のように魔法を撃ちまくるのだ。
このアーガスという魔法士、天才と評されるだけあって、剣士との戦いかたをよくわかっている。
「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」
おそらく火属性魔法が一番得意なのだろう。
つねに動きながら撃ちまくってくる。
「ストリーム・ストライク!」
一瞬で間合いを詰めて突き技を出すが、うまくかわされてしまう。
「その技は知っている。『マンスタニア・クロニクル』だな」
「三の太刀・刹那」
瞬間移動レベルの高速体捌きで後ろに回り込んで無防備な背中に剣を突き込んだ――はずなのに、アーガスも一瞬で僕の背後をとる。
「その技も知っている。『戦国ファンタシーオンライン』だろ?」
背後をとったつもりが、背後をとられた。
「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」
とっさに魔法を剣で切り落とす高難度技を成功させるが、炎がダメージをあたえる範囲は広く、さらに僕は削られる。
きちんと防いでいるから致命傷ではないもののノーダメージで切り抜けることはできなかった。
「さすがに、しぶといな……世界征服と聞いて逃げようとするから、とんだ評判倒れかと思ったら、それなりにできるじゃないか。なあ、考え直せよ?」
「アーガスがいつ何歳で死んだのか知らないし、どんな時代をどんな形で生きたのかもわからない。ただ『華色のファンタジア』を知っているということは、21世紀の中頃は知っているだろう?」
「それが?」
「人間が生きるのに難しい時代だった。それに対して、ここはどうだ?」
僕の前世では。
その何十年も前から温室効果ガスとか気候変動による環境の危機が叫ばれていた。
しかし世界全体でまとまって対策をとることができなかった。
日本に四季があったのは過去のこと。
歴史の中だけ。
暑い時期が大半で、少し暑さが和らぐ時期が少し。
エアコンがなければ生活できないのに、エネルギーを消費するとさらに環境が悪化するという矛盾。
仕事についても過酷だった。
AIより頭がよければ大金が稼げるが、それ以外は貧乏暮らし。
コンピューター様がやらないクソみたい仕事が人間のための仕事。
最低賃金の求人を外国人労働者と奪い合う。
「日向ぼっことか、日光浴ができるんだぜ?」
きつい紫外線を防ぐためのサングラスも、フードで頭を覆う必要もなく、存分に太陽を楽しめる。
なんて素敵な世界だろう。
だが、アーガスに鼻で笑われた。
「剣と魔法の世界で、モンスターがいて、たぎるバトルがいくらでもできるのに、日向ぼっことか、日光浴とか、おまえ、なんのために剣を振りまわしてるんだ? あまりにもおもしろすぎるぞ。」
こいつは剣か魔法の差だけで、もう1人の僕だ。
あるいは鏡合わせの反対側にいる僕かも。
「決まってるだろ、僕は好きなだけ日向ぼっこできる世界を守るために剣を振るんだよ!」
前世ではどんどん生きづらくなっていくのに、僕は戦うどころか、声すら上げなかった。
まあ、具体的にどんなふうに戦えばよかったのか、誰に抗議すればよかったのか、さっぱりわからないが。
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