敵の正体は?
019
皇帝陛下に出してもらった馬車が帝都を離れて郊外を走っているとき、敵の待ち伏せに遭った。
そもそも僕とフェヘールが逃亡生活を送る羽目になった、最初の襲撃事件と同じ敵のようだったが、人数はぐっと少なくなって、どうやら皇帝陛下がつけてくれた護衛だけで充分――だと暢気に思っている時代もありました!
護衛の名誉のためにいっておくけど、敵の騎士とは互角以上に戦った。
最初の襲撃より少ないといっても、兵力差は2倍くらいはあったのに、その差を引っくり返して、ほぼ全滅に追い込んだのだ。
ところが、そんな護衛たちを歯牙にもかけない強者が混じっていたんだよ。
そいつは魔法士のようで、強力な魔法でどんどん護衛の騎士たちを倒す。
「出る。治癒のあと僕のバックアップを頼む」
「手早く終わらせるから、それまで死なないように」
慌てて僕とフェヘールが馬車から飛び出したときには、護衛の騎士たちは壊滅していた。
秒殺だ。
こんなことなら、さっさと出てればよかった――と思う一方、護衛たちのおかげで強い魔法士がいると心構えが出来たともいえる。
護衛が体をはったのだから、僕たちは絶対に死ぬわけにはいかない。
そして、こいつを生かしておくわけにもいかない。
僕が前へ出て、フェヘールは倒れている護衛たちのところに駆け寄る。
即死でなければ、フェヘールがなんとかするだろう……たぶん、きっと。
彼女の治癒が終わるで僕がこいつを抑えればいい。
その護衛の騎士を倒した魔法士と向かい合ってみると、彼は僕たちとそうかわらない年齢の、男というよりは少年のようだった。
「せっかく引っ張ってきた騎士たちだったが、結局は数に物を言わせないと駄目みたいだったようだな」
「おまえが黒幕か?」
「少し、話をする時間をくれよ」
茶色の、地味なローブを羽織り、ねじ曲がった杖を持っていて、いかにも魔法士という雰囲気だった。
おだやかな口調だが、僕の勘ではあまり相性がよくなさそう。
とりあえず、やんわりと断ってみる。
「さっさと終わらせて昼飯にしたいんだ」
「ランチにしてはしょぼいがコーヒーとパンがあるぜ。こんな場所だし、よくある喫茶店のモーニングみたいなもので勘弁しろよ」
「ゆでたまごはつかないの?」
この世界には飯屋とかレストランはあっても、喫茶店はないし、当然モーニングなんて存在しない。
転生者ということで正解だろうね。
僕以外の転生者に会ったことはないが、1人もいないとする根拠もないのだから。
「ふふふ……やっぱり、おまえ、いいね」
その場に座ると、鞄からポットを出して、近くに転がっていた石を3つ集めて即席のかまどを作る。
ポッと指先から火を出して湯を沸かそうとする。
本当に簡単な食事を出してくれるらしい。
僕はそいつの前に座る。
「あの女の子は? 聖女様なんだろ、彼女。やはり転生者か?」
「いや、僕だけだ」
「男だけか……それなら気づいてないかもしれないが、ここは乙女ゲームの世界にかなり似た世界だ」
「華色のファンタジアだろ」
「よく知ってるな。あのゲームをプレーしたという男がいたのかよ!」
「そっちだって」
「転生前は女だったんだ……」
「そいつはびっくりだ。まあ、本人が一番びっくりしただろうが」
「もう立ち小便にも慣れたよ」
「まさか連れションに誘ってるんじゃないよな?」
「俺な、ここが『華色のファンタジア』だと気づいたとき思ったんだ。乙女ゲーの世界だったら戦闘はそこまで力を入れてないし、実際こっちの魔法がどんなものか理解できた直後にオリジナルの魔法を開発したら天才と称えられたよ」
「確認するけど、君はホーノラス王国の宮廷魔法士筆頭の息子ということでいいよね?」
いままで出てこなかった、最後の攻略キャラだ。
まあ、他国からの留学生で、いまの時間軸はゲームスタート前だから当然といえば当然なんだけど。
「アーガスという。おまえはアルフォルド王国の剣狂い王子だよな?」
「クリート。しかし、他国では剣狂い王子なのか……アルフォルド王国では出涸らし王子なんだけど」
「出涸らし王子か……それならクリートはあまり本国ではよく思われてないんだな?」
「アーガスのほうは反対で、他国の僕のところにも噂が聞こえてくるのだから本当にすごいし、とても評価されてるんだろうね。ゲームに出てくるというのか、留学してくるのはもっと先のはずだけど、すでにアルフォルド王国でさえ天才という評判は耳にする」
「クリートはゲームしか知らないのか? いちおうweb漫画で主要キャラの外伝があって、アーガスも幼少期から留学までのことが描かれているんだが」
「悪いが、そこまでマニアじゃないし」
というか、僕にとっては黒歴史なんだよ。
それなのにweb漫画の外伝?
さすがに、そんなところまで追っかけてないよ。
「ほらよ、別に毒は入ってない」
アーガスはパンを差し出した。
なんなら毒入りでもいいんだけどね。
こっちには聖女様がついているんだ。
そういう可能性もあって、僕だけつきあうことにしたんだ。
コーヒーはまだ沸いてない。
ガスや電気のない世界だと、湯を沸かすだけでそれなりの時間が必要になる。
食べながら、問いかける。
「ちょっと教えてもらいたいんだが、こんな状況になってもゲームに続く形になるのか?」
「もちろん、すでに独自ルートさ。そっちだって同じだろう? 悪役令嬢になるはずだった彼女が聖女様として盤石な地位を築いている」
「第1王子との婚約も破棄されてるよ」
「どういうことだ? メチャクチャにしてるじゃないか!」
「おいおい、アーガスほどじゃないと思うけどな。王子と侯爵令嬢の暗殺事件なんて洒落にならないだろう?」
「おもしろいから、いいじゃねぇか」
「おもしろさを追求して暗殺事件を起こすなんて、まったく笑えないんだが」
「俺の生きる目標? 夢? そんなのもののための暗殺事件だ、冗談でやったことじゃないぞ」
「悪いが、もっとよくわからなくなった」
「つまりだな……こんな簡単に王国一の天才魔法士になれるのなら、大陸一の魔法士だって夢じゃない」
「ああ、魔法がんばれよ」
励ましたのに、怒られた。
アーガスは顔を真っ赤にして怒鳴る。
「がんばれないんだよ! 大陸一すら夢じゃないのなら、わざわざ目指す気にもなれないじゃないか!」
「まあ、そうかも。それなら、おまえの夢はなんだ?」
「とりあえず世界征服でもしてみようかな、と」
「そうつながるのか……まずはアルフォルド王国から? いちおう友好国なんだけど」
「いや、クリートを仲間に入れようと思って。魔法と剣が揃えば無敵だろ。そこに聖女が加われば世界征服くらい簡単じゃないか?」
「悪いが戦争反対なんだよ、僕は」
「なんだよ、政治運動でもしてたのか?」
「いや、単純にいまの生温い生活を全力で守ろうとしてるだけ」
で、どうする? と尋ねた。
ごちそうさま、と握手でもして平和に別れたっていいし、殺し合いをしてもいい。
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