剣をくれるのはいい人です
018
豪華なホテルで、豪華な食事を楽しんでいたら、豪華な人物が訪ねてきた。
なんと、バレンシア帝国の皇帝がみずからやってきたのだ。
まあ、いちおう僕もアルフォルド王国の王子という立場だけど、王位を継承する可能性は皆無といってもいいし、むこうの用事でも帝城に呼びつけられるのが普通だ。
お互いに即位した王様と皇帝なら同格としても、まだ王子であれば一段下だからね。
話の内容も率直なものだった。
腹を割って話をした方が上手くいくと判断したのだろう。
結果として帰りの馬車と、よく切れる剣を手に入れた。
「そんなので完全に信じていいわけ?」
バレンシア帝国の皇帝から借りた馬車が走り出してすぐフェヘールが僕に文句を言った。
今朝は早めに帝城にいき、本当に武器庫をあさって両手剣をもらってきたのだ。
製作者も不明な古い剣だが、良質な素材を使っていて、長さも1メートルほどと、いまの僕にぴったりの剣だったから、嬉しくて、ずっとさわっている。
馬車の中でも鞘から抜いてみたり、またしまったりと、自分でも落ち着きがないのは知っていた。
「嘘は言ってないと思うよ。まあ、ただの勘だけど。だから、この剣をもらったともいえる」
「欲しかっただけでしょう?」
「欲しかったのは事実だけど、もし敵対的な関係なら武器は渡さないよ。言い訳はいくらでもあって、剣が欲しいと僕が言ったときも護衛は出すとか、そんな話になったよね? それで押し通すこともできたはずなんだ」
「剣の1本くらい、どうとでもなると思われたんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、殺すチャンスだっていくらでもあったんだしね」
レフラシア内親王はともかく、皇帝がその気なら、昨晩のホテルでも、今朝の帝城でも、いま馬車に乗っている僕たちでも、好きなタイミングで殺すことができた。
わざわざ馬車で送ると嘘をついて殺そうとする理由がない。
これは前世での知識だけど、人質を取って立て籠もっている犯人が要求しても武器だけは渡さないと聞いた。
食事とか、要求されれば現金でも、車とか逃走手段でも、たいていのことは相談にのる。
だけど、武器だけはいくら要求されようとも、人質を盾されたとしても、絶対に渡さないことになっているらしい。
まあ、噂で聞いただけで、どこまで本当か知らないけど。
ただ、実際の事件でもフィクションの小説や映画でも犯人の要求におうじて警察が武器を渡したのは見たことないし。
皇帝がつけてくれた護衛は騎士が12名。
この剣があり、フェヘールがバックアップしてくれるのなら、やり合っても負けはないだろう。
勝つところまでもっていけるかは微妙なところだけど、ある程度の損害を与えつつ、脱出口をこじ開けることはできるはずだ。
そして、それをバレンシア帝国のジーク皇帝陛下もわかっていたはず。
この帝国よりずっと小国とはいえ、近隣の国の情勢を調べてないはずがない。
僕が剣をいじるしか能のない出涸らし王子と呼ばれていることも知っているだろう――逆に言えば他のことはともかく、剣だけは人並み以上。
そんな僕に使い勝手のいい剣を渡すというのが、どういうことか。
僕たちを殺したいのなら、帝都内でいくらでもチャンスはあったんだし。
わざわざ馬車を出して、郊外まで連れ出してから殺す理由はない。
なにか僕の知らない理由により帝都ではなく郊外で殺さなければならない理由があるとしても、動かない死体にしてから馬車で運んだほうが面倒がないしね。
さすがに馬車の速度は速くて、走り出して数時間もすれば建物がまばらとなり、窓に広がるのは田園風景となった。
きれいに整備された麦畑が続く――ずーーーっと。
「今年も豊作みたいだね」
「……最初は緑の絨毯みたいできれい、と思っていたんだけど、同じ景色が延々と続くと、だんだんうんざりしてくるわね」
「いや、でも、これが国力の差かな? と感じるんだよ」
「まあ、アルフォルド王国は狭い畑が多いから」
「それだけじゃないよ。魔獣よけの柵が見当たらない。このあたりの魔獣を壊滅させて完全に人間の領域にしたのか、なにか魔獣を追い払う仕組みがあるのか」
「まだ王都に近いからじゃないの? もっと地方にいけば普通に魔獣も出るんじゃないの?」
「そうかもしれないけど、うちの国だと王都の側だって魔獣の被害があるからね。あちこちに魔獣が出て、騎士団だけでは手が足らずに、近衛まで出ることだって年に何度かあるほどだし」
「確かに……そう考えると、魔獣の心配をすることなく農業ができなんてうらやましいかも」
「まあ、魔獣が出なくても盗賊は出るみたいだけど。あるいは暗殺者かな?」
前方で異常事態発生!
僕たちの乗る馬車の前方が倒木で塞がれていた。
バリケードというほどの高さはないが、馬車の車輪で乗り越えるのは無理だろう。
しかも、その後ろに武装した兵が何人もいる。
「あれは、わたくしたちを襲った連中じゃないの?」
「ああ……あの甲冑。確かに見覚えがあるな」
「わたくしたちの護衛を殺して、馬車を壊した恨みは忘れないわ」
なんだかフェヘールが荒ぶってるが、護衛はともかく馬車を破壊したのは彼女だったはず。
あれ?
記憶違いか?
まあ、あのときは時間稼ぎが必要だった場面だけど。
馬車はどうでもいいけど、護衛の分は落とし前をつけておかないといけないよね。
僕、王族だし。
ちゃんと敵討ちをするとか、遺族に手厚く報いるとか、そういうことをしておかないと家臣がついてこないからね。
「ちょっといってくる」
「試し斬りしたいのね? 駄目よ、下の仕事を奪っては。あの人たち、皇帝陛下からわたくしたちを守るように命じられているんでしょ」
フェヘールに止められた、しかも、ひどい誤解だ。
どうも彼女は僕のことに関しては誤解が多い気がする。
しかし、まあ、そうはいっても彼女の言葉には正しさが多分に含まれていた。
護衛の仕事を奪うのはよくないな。
そんなふうに僕が暢気にしていたのは敵の数が少ないから。
僕たちの馬車は1000騎に囲まれたが、そのときと同じ敵だというのに、いまは数十人しかいないようだ。
分散して小さい部隊で捜索しているのか?
皇帝陛下の言い分を信じるのなら、彼らはバレンシア帝国とは関係ないらしいから、たった一度の奇襲で大部隊を動かすことはできても、長期の部隊運用は難しいのかもしれない。
別に帝国に限らず、どこの国だって国内を武装した1000騎の集団が移動していたら大騒ぎになるし、すぐに軍が動く。
そのあたりを考えると伏兵もなさそうだし、護衛の騎士だけで充分だともいえた。
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