腹を割って話そう!
017
ホテルで豪華で高価な食事に舌鼓を打っていると、来客があった。
1人はレフラシア内親王。
これは予想されたこと。
もう1人は彼女によく似た男性だが、年齢は10以上は上だろう。
ということは?
「もしかして皇帝陛下でしょうか?」
「忍び故、レフラシアの兄という立場だ。ただのジークだな」
「それではジーク様と呼ばせていただきます」
「うむ。こちらもクリート殿フェヘール殿――いや、いまは違ったな。冒険者ディク殿とヘール殿か?」
「はい、それでお願いします」
レフラシア内親王と話したとき、どうも僕たちのことを薄々察しているのではないかと感じていたが、どうやら完全にバレているようだ。
しかし、それでいちいち顔色を変えていたら王族なんてやってられない。
高位貴族の令嬢であるフェヘールも同じようなもので、内心はともかく、表情態度はまったく普通に見えた。
「それで……お忍びでいらっしゃった用件をお伺いしても?」
「3つある。まずは妹を助けてくれた礼を言おう。我が帝国の国境付近で襲撃があったと聞き、捜索したのだが見つからない。もし無事なら自国を目指すだろうと、通過するであろう予想地点に迎えに出したのだが、救出するつもりが、逆に助けられるとはな」
「レフラシア内親王殿下は僕たちの救出のために街道沿いを探してくださっていたのですか? そういうことなら、こちらからもお礼を。しかも、部下などではなく、わざわざ内親王殿下みずからとは大変光栄です」
「内親王みずからといっても、ただ完全に信用できる者が少ないという、かなり情けない理由なのだが。しかも救出するつもりが、救出された。おまけに死んでいておかしくない騎士たちも何人か聖女殿――ヘール殿に命を拾ってもらった」
「それであっても、寛大なお気持ちは伝わりました。それで2番目の用件は?」
「せかしてすまないが、バレンシア帝国からできるだけ早急に退去してもらいたい。必要とあれば馬車も出そう」
「別に歓迎してもらおうとは思っていませんが……」
「悪く受け取ってもらっては困る。もし望むのであれば、いつでもバレンシア帝国は2人を歓迎する。ただし、いまはマズい。この地で死なれると我が帝国とアルフォルド王国の間で戦争になる」
まあ、なるだろうね、と思う。
そう思う一方で、だからなに? とも思う。
フェヘールと顔を見合わせた。
彼女はコテンと首を傾げて言う。
「関係してないんじゃないの?」
「ああ、そういうことか」
現実の僕たちはキスロと知り合ったり、冒険者として登録したり、なかなかおもしろおかしい道中だったけど、普通なら着の身着のまま、空腹を我慢しながら、必死でアルフォルド王国を目指していてもおかしくはない。
誰かが助けを出さなければ道中で死ぬかもしれないと考えたのだろう。
僕は皇帝陛下に向き直る。
「率直にお伺いしますが、アルフォルド王国の親善団を襲ったのは――つまり僕たちを襲ったのはジーク様の意向ではないと?」
「違うな。そんな命令を出した覚えはない。こっちも率直に説明しよう」
そう言って皇帝陛下は現在のバレンシア帝国の状況を教えてくれた。
先代までの皇帝は大陸統一という野望を隠しきれないような人物ばかりだったが、いま僕の目の前にいる現在の皇帝陛下は領土拡大は狙っていないとのこと。
戦争より、内政を充実させたいと思っていて、帝国内でも一定の支持を集めているとか。
しかし、一方でいまだに覇権主義的な貴族も残っていて、無理にでも戦争状態に持っていきたいと画策しているのではないかと疑われる状況もあるらしい。
「それでは僕たちを襲ったのは戦争やりたい派の貴族ですか?」
「武断派と呼ばれているようだが……確定はできない。証拠がないから。しかし、まったく関係してないとは思えない」
ちなみにレフラシア内親王を襲撃させたのは武断派で間違いないとのこと。
「ディク殿とヘール殿が襲撃者を生かして捕まえてくれたから証言が取れた」
「しかし、証拠といっても暗殺を請け負うような連中の証言で貴族を処断できないでしょう?」
「相手が暗殺しようとしたのなら、こっちがやっても問題ないだろう?」
「なるほど。問題ありませんね」
「ところがアルフォルド王国の親善団襲撃については証言1つないんだ。騎馬1000頭を用意するのだから、よほど裕福な貴族か、複数の貴族がかかわっているか……ひょっとしたら外国勢力もからんでいるのではないかと思う」
「外国勢力?」
「そこが一番の問題でな。お互いに引けない理由があって戦争になるのならしかたないと考える。しかし、どこかの誰かが書いたシナリオの通りに踊らされるのは我慢できないんだ。バレンシア帝国軍とアルフォルド王国軍の大量の死体を眺めて、ほくそ笑んでいる奴がいたとしたら許せないだろう?」
「それはもちろん」
「この場合、一番最良なのは両国に戦死者の山が築かれる前に、その要因を取り除いて、つまらない工作をして喜んでいる奴の鼻を明かしてやることさ」
「確かに、それがベストでしょうね。そうなると、僕たちは無事にアルフォルド王国に帰らないといけないわけだ。そして、ジーク様という、とっても器量の大きそうな人物に大変世話になった話を父親をはじめ、まわりの人たちにも喋ることになるわけですね」
「話が早くて助かる。最初に言ったように用件は3つ。その最後の2番目がそれだな。これまで何度も戦争になったり、なりそうな状況を作り出したり、いろいろ歴史的経緯があるから一気に友好国にはなれないだろうが、そういう方向にもっていきたいという希望を持っている、と伝えてもらいたい」
「剣をねだっても? これ、刀身はそこそこ切れるのに入れ替えたのですが、やっぱり使いにくくて。僕は両手剣が好きなんですよ」
「馬車も出すし、護衛も貸すぞ?」
「最後に信用できるのは自分の手だけという性分なので」
「それは正しい。出発前に迎えをよこすから城の武器庫をあさるといい。気に入ったものは馬車に乗るだけくれてやろう」
ふむ。
バレンシア帝国の皇帝はかなりの人物らしい――別に剣をくれるからじゃないんだぜ?
まあ、よく切れる剣をくれると言われると、僕の人物評はかなり甘くなるんだけどね!
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