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出涸らし王子と悪役令嬢は高級ホテルを満喫する

016




 暗殺者みたいな集団に襲われている女の子を助けたら皇帝の妹でした。


 帝都にいくなら馬車に乗せてくれるといわれたけど、バレンシア帝国の関係者には近づきたくなったので断ろうとしたら、そもそも僕たちが向かっている方向が帝都だったみたい。


 自分の国の方向ばかり気にしていて、途中にどんな街があるのか、ちゃんと調べなかった僕のミスだ。


 もういくことに決定してしまったから、あれこれ言うだけ無駄だけど、帝都って難しい。


 人が多いから、まぎれてしまえば見つからない可能性はかなり高いだろう。


 宿をとって、ゆっくりベッドで寝ることもできる。


 しかし、警備している人も多いから、下手をしたら見つかる。


 衛兵みたいなものがたくさん巡回してるだろうし、もし見つかったら逃げるのは難しい。


 帝都に寄るか、寄らないかは、かなり悩む問題のはずなんだけど……僕たちには選択肢もなくレフラシア内親王の馬車に乗せられてしまった。


 使用人用の馬車の片隅にでも席を用意してくれるのかと思ったら、まさかの王族用の馬車に乗せられた。


 命の恩人ということになるのだろうが、それにしても待遇がよすぎて怖い。


 いろいろ訊かれたけど、あくまで木札冒険者で押し通す。


 門をくぐるときに、なにも調べられることなく通過できたのは助かったけど。


 冒険者として登録してあるし、木札もあるけど、もし似顔絵みたいなものがついた手配書でも出まわっていればアウトだったかも。


 この世界にはテレビも新聞もないから有名人の顔を誰もが知っているわけじゃないけど、僕もフェヘールも要人ではあるので、たぶん似顔絵くらいなら用意できると思う。


 レフラシア内親王の財布で泊まれることになってホテルは帝都で一番のところだった。


 部屋は僕のリクエストを聞いて入れたのか、一番いい部屋というわけではないようだが、それでも充分に豪華だ。


 前世の日本でいえば20畳くらいの客室があって、その奥に10畳くらいの寝室が2つ。


 間取りでいうと3LDKということになるのかな?


 夕食も結構なものだった。


 僕たちならベッドに使えそうな広いテーブルの、隅から隅まで大皿が並び、好きなものを取って食べるようになっていた。


 レストランではなく、部屋まで料理を運んできて、たった2人の客のためにバイキングをやってくれたようなもの。


 なにか勘違いしてませんか? と聞きたくなる。


 ざっと20人前くらいはありそうだ。


 どうしろというんだ? こんな大量の夕食。


「バレンシア帝国ではよくある風習だわ。食べれないほどの料理を並べてみせるの」


「自分の財力を誇示する奴?」


「あの内親王とかいう女の仕業でしょうね」


「仕業って……感謝の印だと好意的に受け取っておこうよ」


「好意なのか、悪意なのか知らないし、どうでもいいけど、どの料理も結構いいものみたい」


 フェヘールは少しずつ取り皿にとって味見をしていく。


 一流ホテルだから当然なのだが、食材も、それを調理したコックの腕も最高のものらしい。


 僕もいろいろ試してみた。


 このところ野趣あふれる食事が続いたからね。


 ダイローグで買った鍋で湯を沸かし、同じくダイローグで買った干し肉と豆を入れただけの簡単スープがほとんど。


 日持ちするように水分を減らした硬いパンを浸しながら食べるのだ。


 あとはフェヘールが途中で山菜みたいなものを摘んだら、最初に軽く茹でて灰汁抜きし、鍋に入れることもあったけど、うまく灰汁が抜けてなくて、渋かったり、エグかったり。


 食事を楽しむというより、体を動かすための燃料補給だ。


 だけど、今夜は豪華な食事を楽しもう。


「干し肉ばかりだったから、ちゃんとした肉が美味くてしょうがない。野菜もいいな。みずみずしいよ」


「サラダのドレッシングの味が複雑。酸味のある果実がベースかしら? ただ酸っぱいだけでなくて、とても奥行きがある」


「フェヘール、こっちの魚を試してみろよ」


「ホワイトソースがかかっている?」


「まるごと1匹の魚の上にシチューをかけたような感じだけど……」


「なんとかいう、バレンシア帝国で有名な名物料理だと聞いたけど」


「覚えやすくていいな。僕も誰から訊かれたらバレンシア帝国の帝都でなんとかいう有名な名物料理を食べたと自慢することにしよう」


「なによ、それ」


 フェヘールはイヤミでも言われたと思ったのか、ちょっとふくれる。


 しかし、本当になかなか汎用性が高いよ、これ。


「僕たちがどんな旅をしてきたか、上手く説明できるじゃないか。なんとかいう街道で馬車から降りることになって、なんとかいう森で、なんとかいう金板冒険者と知り合いになり、なんとかいう街で、なんとかいうギルドに登録して……みたいに。いまはなんとかいう有名な街で、なんとかいう有名なホテルに泊まり、なんとかいう名物料理を食べるところだな」


「なによ、それ」


 ふくれたまま、やっぱりフェヘールは同じようなことを言う。


「今後もこんなふうに他人には言えないことも出てくるかもしれないからね」


「2人の秘密?」


「まあ、治癒魔法からはじまって、どんどん2人の秘密が積み上がるな」


「あなたに教えてもらったと公表してもいいのに」


「悪いけど、面倒なことは全部押しつける」


「功績まで押しつけなくてもいいのに。まあ、いいわ。そんなことより早く食べましょう」


 どうやら、僕たちはだいぶハラペコだったようだ。


 食べはじめたら止まらなくなった。


 最初に見たときは1割か、せいぜい2割も食べられれば上等だと思っていたのに、だいたい半分近くは口の中に入ったみたい。


 だけど、それが限界。


 給仕がテーブルの上を片付けて、かわりにお茶を入れてくれたけど、そのお茶1杯すら胃が受けつけない。


 僕もフェヘールも「食べ過ぎた」と唸りながらゴロゴロしていると来客があった。

 

 しかし、客とは?


 面倒な相手じゃないといいんだけどね。



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