誤魔化そうとしても誤魔化せるもんじゃないんです
015
襲撃者を倒して、捕虜が2人。
1人は顔を刻まれて地面をのたうちまわっている。
もう1人は全裸で両手を上げていた。
生き残りの襲撃者は逃げていったので、これで戦闘は終了だ。
馬車の護衛がこっちにくる。
これから面倒な交渉をすることになりそうなので、なおさら面倒が増えないように刀身を拭い、剣を鞘に戻した。
抜き身の剣を持ったままで話し合いは変だからね。
「助かったが……何者だ?」
こういう質問がくるのは予想がついていたので、ちゃんと回答も用意してある。
「冒険者です」
わざわざ登録したのだから、しっかりと利用しないと。
まだもらって間もない木札の登録証を提示した。
フェヘールも自分の木札を掲げる。
「冒険者? 木札といえば最低ランクだろう?」
「腕はあっても冒険者ギルドへの貢献度はそう高くなくて」
冒険者のランクは強さで決まるものではない――とキスロから聞いていた。
結局は冒険者ギルドも営利組織だから、そのギルドに利益を与えた分の評価がランクとなる。
現在だけでなく今後も継続して冒険者ギルドに利益をもたらす可能性があると、なお理想的だそうだ。
例えば最初は冒険者ギルドを通じて依頼を請けていたが、その依頼主との間に信用関係が生まれ、直接仕事を請けるようになると冒険者としてのランクは上がらなくなってしまう。
冒険者ギルドの取り分がなくなるから、同じ仕事なのに報酬はアップするが。
だから、ランクと強さが釣り合わない冒険者はそれなりにいる――ただ最低の木札でそういうことはあまり起きないようだけど。
絶対ないことではないので、ここではそれで押し通す。
「いや、しかし……木札といえば底辺だぞ?」
「はい、その底辺の木札冒険者です」
「これだけの腕で? 冒険者は、まあ、いい。本当はよくないのかもしれないが。なにしろ力自慢の冒険者が振るう我武者羅な自己流の剣ではなく、ちゃんと修行したことが見てとれるものだったからな。しかし、話が前へ進まないから、とりあえずいいことにしておく。だが、さすがに木札はないだろう」
「あるんですよ、それが」
「恩人に対しては、恩人として礼を尽くしなさい」
護衛の騎士に後ろから声をかけたのは魔法士の女の子だった。
「はい、内親王様」
その返事を聞いて、これは最悪のパターンだと覚悟した。
だって、貴族だろうと推測していたのに、さらに上の王族だよ。
さらには、あちこちから「奇跡だ!」とか、叫び声がしているんだし。
もちろんフェヘールが負傷した騎士に回復魔法をかけていた。
怪我人や病人を前にして、彼女が手を差し伸べないわけはないのだけれど。
厄介事というのは、どんどん面倒になる性質を持っているのかな?
あ、いちおうフェヘールを擁護しておくと、頭にちゃんとナースキャップみたいな帽子を被っている。
その白地に白樺の刺繍が入っている帽子は白樺救護団のもの。
創立に関わった縁でいくつかもらい、回復魔法を使いたいけど身分は隠したいというときに使っているのだ。
今回も「たまたま通りかかった下位ランクの冒険者の1人が、運のいいことに白樺救護団のメンバーでもあったので、負傷した騎士を治療した」という設定らしい。
木札の冒険者なのにランク以上に強かったり、白樺救護団のメンバーでもあったり、いくらなんでも盛りすぎだ。
しかし、それで押し通すしかないんだよな、僕たちは。
内親王様と呼ばれていた女の子が僕のほうにやってくる。
年齢は僕たちと同じくらいかな?
13、4くらいだと思うんだけど。
確かバレンシア帝国の皇帝は金髪碧眼の美丈夫のはずだけど、彼女も輝くような金髪と、きらめくような碧眼が印象的で、あらためて見ると皇帝の血縁者らしい雰囲気だ。
「助勢について感謝いたします。また、騎士たちの治療についても感謝を。レフラシアです。名前を伺っても?」
「僕はディク。あっちはヘール」
危ない!
うっかり本名を名乗りそうになって、慌てて冒険者として登録した名前を口にする。
ちょっと焦った。
しかし、そんな僕の気持ちは知るわけもなく、レフラシア内親王は微笑みながら、頷く。
「ディクとヘールですね。馬車にお乗りなさい」
「賊は追い払ったようですし、僕たちは用事がありますので、このまま失礼します」
「用事というのは? あちらからきて、こっちへいくようですが?」
レフラシア内親王は僕たちがやってきた方角を指し、その人差し指を180度反対側に向けた。
「はい、旅をしています。あまり遅くなると困るのです」
「あちらへいくということは、つまり目的地は帝都でしょう? こちらと同じですから問題はないですね?」
「帝都……」
「このまま進めば帝都ではありませんか」
「あっ、いや、その先へ……」
「たとえ通り道に過ぎないとしても、こんな時間ですから、今夜は帝都に泊まることになりますよね? 恩義がありますので、帝都での宿泊はこちらで持ちましょう。他になにか希望があればとらせます」
「内親王様ということは皇帝陛下のお身内ですよね。まさか城にでも泊めてくれるとか?」
「城は兄上である陛下のもの。妹といえども、勝手に客人を泊めるわけにはいきません。もっとも、国賓で遇すべき客人であれば別ですが?」
視線に圧がある。
ひょっとして僕たちのことバレてる?
しかし、ここで確認して藪蛇になりかねない。
どうしようかな?
気づかないふりをして受け流す、しかないよね。
「そこそこいいホテルに泊めてくれるのかな?」
「帝都で一番のホテルの、最上級の部屋でいかがでしょうか?」
「あっ、いや、言ってみたものの、そんなの緊張するだけだから、ほどほどでお願いします。あと他にも希望があればかなえてくれるとか」
「なんでしょう? 」
「僕が捕まえた男ですが、できる限り命だけは助かるように努力すると約束したので、できれば処刑以外の刑罰にしてもらえるとありがたいです」
「知っていることは全部しゃべってもらいます。その上で生きていたら助命しましょう」
約束してくれた。
だけど、生きていたら助命するって微妙だよね。
死んでもおかしくない程度の拷問にかけるという意味だよな、たぶん。
暗殺なんてリスクの高い仕事を請けたのだから、それくらいはしかたないのか?
まあ、僕のほうは約束を果たしたのだから、それでいいことにしておこう。
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