ちょっとだけバトル
014
なにも起こらない! と嘆いていたら、その言葉がフラグになったのか、たまたま偶然そのタイミングだったのか神ならぬ身には判断がつかないが、襲撃を受けている馬車を発見。
さあ、これから楽しいバトルの時間がはじまるよっ!
と思ったのに、あんまり助けたくないというか、面倒くさそうな相手だったんだ。
襲われているのは、どう見ても貴族家の馬車。
襲っているのは暗殺者とか、そんな感じの連中。
黒ずくめで、頭まで頭巾で覆って、顔を隠しているんだ。
PvPは望むところだけど、こっそりバレンシア帝国を抜けて自国まで逃げ帰る途中なんだよね。
で、ここはバレンシア帝国の領内だから、あの馬車もきっとバレンシア帝国の貴族だろう。
しかし、見捨てるのも後味が悪い。
僕は剣を抜き、一気に間合いを詰めていった。
相手は暗殺者みたいな連中だから、どんな手を使ってくるかわからない。
まっとうな剣での勝負ならいいけど、毒とか、罠とか、ろくでもない最悪な隠し球を持っているかもしれないのだ。
敵の間合いでなんか、戦ってやらない。
あくまで僕の得意な間合いで戦う。
大人になりきってない、この体では手足もまだまだ成長過程だ。
儀礼用の剣は結局のところ腰の飾りだから、刃渡りはそんなに長くもない。
となれば、できうる限り近接戦闘に持ち込まなくてはならなかった。
体内に魔力を巡らせ、身体強化をはかる。
ゲーム的にいえば僕のAGIとSTRにプラスの補正がかかった形だ。
声をかけたとき、僕のほうに剣を向けた2人の襲撃者たちはそのまま迎撃するような構えを見せた。
「ストリーム・ストライク!」
おおよそ5メートルほどの距離を助走もなしに一瞬で間合いを詰めて突き技を出す。
相手からすると急に姿がブレて、次の瞬間、剣で突かれているようなもの。
この世界の人間は――おそらく暗殺者としての訓練を受けているであろう人間は身体強化の魔法くらい知っているし、自分でも使いこなせるレベルにあるはず。
だから、身体がいままでと比較にならないほど素早く動いたとしても対応できなくはないはずなのだが、この世界には存在しないゲームの剣技と組み合わせると、初見殺しとでもいうべき必殺技となる。
予想通り、僕の右手に重たい手応えがあった。
さすがに敵もかなりの腕のようで、とっさに体をひねってかわそうとしたようだ。
僕の剣は心臓を一突きにするところだったのに、右肺を貫通するにとどまる。
「げはっ……」
だが、人間は肺を刃物で破壊されたら致命傷となる。
2人の敵のうち、右側の男を倒した――瞬間、左側にいた男が斬りかかってきた。
なかなかのチームプレーだ。
余裕があるときなら、拍手して称えてあげてもいい。
だけど、僕のほうだって隙はないのだ。
1人で複数と戦うときに、武器を使えない時間を作っては駄目。
ストリーム・ストライクを放って倒したと確認したときには、すでに剣を引き抜いている。
斬りかかってきた敵に対し、後ろに下がって回避するのではなく、前に踏み込みながら体をひねって剣をかわしつつ、脇腹をめがけて薙ぐ。
手応えは軽かった。
だが、なかったわけではない。
すれ違った後、油断なく剣を突き出しながら振り返った。
襲撃者の肋骨のあたりを斬ったようだ。
服が裂け、血が流れていた。
僕は襲撃者を睨みつける。
視線を頭、足、腕と動かして、最後に負傷したところを見据えた。
浅い傷だが、同じところにもう一撃したらどうだ?
僕の思考を読み、襲撃者は剣を脇に構え、怪我をした場所をかばう――その瞬間、頭を覆った頭巾がボロ布にかわり、顔が裂け、鼻が飛んだ。
「うわわわぁぁぁぁぁ…………」
剣を放り出し、顔を押さえて地面を転がり回る。
フェヘールだ。
ウインドカッター。
風属性の、空気で刃を作る魔法で僕に気をとられている襲撃者の首を狩ろうとしたら、狙いがズレて顔面に当たったのだろう。
まあ、どっちにしても戦闘継続能力は奪った。
勝ちは勝ち。
最初から僕たちはツーマンセルで動いているのだ。
それなのに僕にだけ注意を向けていたら、こういうことになる。
僕たちが2人を倒す間に、馬車の護衛か、女の子の魔法か、襲撃者は1人減っていた。
さっきまで、襲撃者側は6人もいて有利な状況だったのに、ほんのわずかな時間で半分が倒され、戦力差は逆転した。
「もう1人か2人は食えるかな?」
舌舐めずりしていると、あっさり襲撃者たちは背を向けて、全力で逃げ出した。
「おいおい、ちょっと待てよ」
慌ててダッシュしたけど、すぐに追いつくのは無理と判断した。
「ストリーム・ストライク! ストリーム・ストライク! ストリーム・ストライク!」
3連続で剣技を使い、一気に距離を詰めて、逃げる襲撃者の足を突いた。
転倒したところで、首に剣先を突きつける。
「変な真似はするなよ。戦えない奴を刺し殺すのは趣味じゃないから」
男が嫌な目つきで僕を見る。
フェヘールだったら腹痛を起こさせるくらいはできそうだが、この男にはそんな能力はないようだ。
「すでに1人、捕まえている」
僕が刺したほうは肺がやられているから駄目だろう。
しかし、フェヘールの魔法で顔を切り裂かれて呻いている男は死ぬほどの怪我ではない。
「後で処刑されるのと、ここで死ぬのと、どう違う?」
「そうだな……さっき言ったように戦えない奴を刺し殺すのは趣味じゃないからな、あっちの人たち次第だが、できるだけは命乞いしてやろう。まあ、上手くいかなくて、やっぱり処刑かもしれないけど」
「なんだよ、それは。なんの保証にもなってないじゃないか」
「最大限の努力は保証する。しかし、結果までは保証できない。なにしろ、狙われたのは僕じゃないからね」
「わかった、わかった、その最大限の努力という奴に賭けるさ」
男は剣を鞘ごと引き抜いて放り投げた。
そして、両手を上げる。
だけど、僕のほうは突きつけた剣を戻したりはしない。
「まさか剣を1本しか持ってません、なんてボケたことは言わないよな?」
「ああ……もう本当に降参だ!」
懐からナイフを取り出して、剣の近くに放り投げた。
やっぱり武器を隠し持っている。
「これだけだ。本当だぞ」
「信じよう。さて、それではまずは服を全部脱げ」
「ぜんぜん信じてないだろう?」
「安心しろ。自分の目で見たものはちゃんと信じるさ」
別に男のヌードなんか見たいわけじゃないけど、裸に剝く。
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