無闇にフラグを立ててはいけません!
013
朝、1話投稿しましたけど閑話みたいなものですから、もう1話いきます。
さっさと本編も進めたいですからね。
キスロは1日かけて冒険者ギルドの依頼の請けかたと、注意点など、いろいろアドバイスしてくれた。
それどころか稼いだ報酬も全部、僕たちに譲ってくれたんだ。
さらに1晩ゆっくり寝たおかげで、このところのサバイバル野営の疲れは完全に抜くことができたよ。
なかなか別れたがらないキスロを振り切るようにして僕たちはダイローグの街を旅立つこととなった。
「さて、どうしようか? 街道に沿っていくか、山を越えるか」
僕はフェヘールを見る。
街から街へは乗合馬車も出ているが、追手がかかっているだろう僕たちにその選択肢は選べない。
冒険者になろうかという話をしたとき、護衛の仕事も請けないと決めた。
僕たちのことに関係ない人たちを巻き込んだらいけないから。
自分たちの馬車や馬を買う資金はない。
それは前世の日本でいえば車を買うようなものだから、何度か冒険者ギルドで魔獣の素材を換金した程度の金額ではぜんぜん足りないのだ。
結局、僕たちは歩いて自分の国まで帰るしかなかった。
前世の地球だと、たいていの国に大使館くらいあるから、保護を願い出ることもできるんだけどね。
「街道や、そこを少し離れた森くらいなら、わたくしたち問題なく戦えると思うけど……山の中はどうかな?」
「やっぱり厳しいか?」
「うちの裏山だと面倒な魔獣が結構いるけど」
「うちの裏山って……あのぉ、フェヘールさん、おたくの領地にあるメレデクヘーギ山脈はドラゴンがうろうろ散歩しているような人外魔境ではなかったかな?」
「いるね、年に数回、討伐隊が組まれるし」
「普通に生活しているとドラゴンに一度も会わずに生涯を送れるはずなんだけどね」
「わたくしたちは冒険者なので!」
「高ランクの冒険者だってドラゴンと戦うことはまずないとキスロも言ってただろ」
「キスロは金板で、別に高ランクというわけではないから」
「いやいやいや、金なら充分に高ランクだろ? さっきまで僕たちのいたダイローグの街には10人もいないらしいし」
「うちにくる冒険者はたいていアダマンタイトとかミスリルだけど?」
「だから! それは人外魔境基準だから! 一般的な基準じゃないから!」
「でもさ……山越えもありなんじゃないの? どうせ、たいした魔獣は出ないと思うわ」
「それが人外魔境基準だから! フェヘールだって治癒魔法では第一人者でも、魔獣討伐に使えるような攻撃魔法は平均的な魔法士にかろうじて引っかかる程度だろう? 僕だって剣には少し自信があって一般的な騎士には勝てるけど、いまは戦闘に向いた剣じゃないし、腕のほうにしたってフェヘールのお父様みたいに上には上がいる」
「街道沿いのほうが無難かもね」
「ひと狩りいきたいところだけど、帰国が最優先。命大事に、が基本方針かな?」
「せっかく2人だけなのにね」
そうだ! とフェヘールは嬉しそうに手を叩く。
「クリートはわたくしの婚約者だもの、わたくしの家に遊びにきてもおかしくないよね?」
「遊びにいったことあっただろう? 婚約してからじゃないけど、小さいころとか」
「王都の屋敷じゃなくて、メレデクヘーギ領のほう。いきなり山の上のほうまでいったら危ないけど、低いところで腕試しするなら問題ないと思う」
「いいね!」
「もし麓の魔獣では歯応えがないのなら、もう少し上に登ればいいし」
「ますますいいね!」
本気で答える。
答えながら、こういうのもデートの誘いなのかな? と考える。
女の子の提案するデートプランとしてはあんまりな気がしないこともないけど、僕としたら大変に魅力的な話だった。
「まあ、とにかく帰ろう」
「ええ、すべてはそれからね」
街道の端を歩きつつ、将来の楽しそうな予定を頭に思い描く。
バレンシア帝国に関係しそうな馬車や騎士が通ることがあれば森に隠れられるように周囲の警戒は怠らない。
本来なら街道から外れた森の中を進んだほうがいいのかもしれないけど、人の手が入ってない場所をずっと歩いて進むのは難しいんだよね。
下手をすると自分の身長くらいある草をかきわけて進まないといけないから、誰かに目撃されると逆に不審人物として警戒されてしまう。
それならキスロにもらったマントを頭からかぶって道の端を歩いていたほうがいい。
乗合馬車にすら乗れない、貧乏な平民が用事があって旅をしているようにしか見えないから。
途中で何度か休憩して――特に川や泉があると必ず休憩。
コンビニも自販機もない世界では、きれいな水があれば水分補給をして、水筒を一杯に満たしておかなくてはならない。
昼過ぎには隣の街が見えるところまでやってきたが、中に入ることなく外周をたどって通過。
夜も野宿。
解体用のナイフや鍋はダイローグの街でかったし、干し肉や固パンなどの日持ちする食料もある。
そうやって3日ほど行程を進めた。
「しかし……あまりにもなにもなくてつまらないかも」
いいかげん雑談のネタも切れ、かといって覚悟していた魔獣との戦闘もなく、心配していた追手の姿もまったく見ないからフェヘールも緊張感を保つのが難しくなってきているのだろう。
まあ、追手はともかく、魔獣に関しては街道を通っているからという理由もあるけど。
携帯食料はまだ残っているし、お金もあるから、わざわざ森に入って魔獣を狩る必要はない。
買い物するにしても、冒険者ギルドで換金するにしても、街に入らないといけないからね。
人と顔を合わせることが少なければ、トラブルになることも少ない。
もっとも、ずっと野宿では体力が削られていくだろうから、いずれ街でちゃんとした宿に泊まりたいのだけれど。
「そんなにつまらないなら、ちょっと街道を外れて森に入るか?」
「わざわざこっちから魔獣のいるところにいくのも……ねぇ」
「だけど、待っててもなにも起こらないだろう?」
「そういえば、クリートから前に教えてもらった言葉がある」
「なに?」
「フラグを立てる――なにも起きないと言ってると、なにかが起きるらしいわ」
「ああ、それな!」
「いまがそんなときじゃないの?」
「かもね」
「きっと、いまにも魔獣が飛び出してくるわ。ほら、あのあたりから」
フェヘールは道の先、ちょうど脇に大きな茂みのあるあたりを指した。
僕は剣をいつでも抜けるようにする。
儀礼用だとわからないように柄と鞘にボロ布を巻きつけてあるが、そのボロ布のおかげで手が滑りにくく、使い勝手がよくなっていた。
しかし――まあ、結局は使わないだろうな、と暢気に考えていた時代もありましたよ!
フェヘールはフラグを立てる天才か?
大きな茂みの影から凶暴な魔獣が襲いかかってくるということはなかったけど、さらにその向こうから争っているらしい物音がしてきた。
カキンとか、バカンとか、剣や槍でやりあっているような音。
ドカンとか、ズトンとか、魔法を撃ちあっているような音。
その音に釣られるように僕たちは足を速める。
フェヘールも退屈していたようだけど、僕だって退屈してたんだよ!
さあ、これからは楽しいバトルの時間だ!
殺るぞ、殺るぞ、殺るぞ!
さて、相手はなにかな?
手強いといいけどね。
ゴブリンとか弱っちい魔獣だったら、がっかりだ。
3台の馬車が何者かの襲撃を受けていた。
荷馬車なら行商人だろうが、襲われているのは人の移動に使われるタイプ。
それも乗合馬車のようなものではなく、ものすごく高価そうな馬車に見えた。
だって僕が普段使っている――つまり第3王子の公用車より豪華そうなんだから。
うひひ、剣技を実戦で試せる! とテンション爆上がりだったのが、一気に冷えちゃうよね。
「どうする?」
「厄介事になりそうな予感しかしないわ」
フェヘールもいかにも金がかかってそうな馬車を見て、しかるべき身分の人物がかかわっていると悟ったのだろう。
護衛だって全員が白銀の甲冑を装備しているところからして騎士団みたいな者たちだろう。
これが冒険者だったら自分の懐具合で買える範囲でよさそうな防具や武器を手に入れるから、お揃いの甲冑や剣ということはない。
襲撃者は何者だろう?
黒ずくめで、盗賊というより、暗殺者みたい。
服装はともかく、顔まで頭巾のようなもので隠しているのだから念が入っている。
こいつはどう見ても、ややこしそうな話になりそうだ。
厄種の中の厄種という奴だよ、たぶん。
放置が正解だと思うんだけど……まわりに何人も倒れていて、まだ戦っているのは10人もいないだろう。
しかし、内訳では馬車の護衛が3人に対して、襲撃者は6人ほどが健在。
戦力差は2倍。
腕の差によってはひっくり返すこともできそうだけど、この場合は無理そうだ。
あきらかに襲撃者たちのほうが練度が高い。
しかも、そんなときに馬車から一目で貴族とわかるドレスを着た女の子が降りてきたのだ。
続いて侍女みたいな女性が降りてきて、その女の子を馬車に押し戻そうとした。
だけど、女の子は強引に振り切り、襲撃者を狙って炎の弾を撃った。
火属性魔法の『ファイアーボール』だ。
前世のゲームでも似たようなものは結構あったし、この世界ではありふれた下級攻撃魔法だから、襲撃者たちは簡単に避けてしまう。
だが、女の子は次から次へとファイアーボールを撃つ。
「威力は悪くなさそうだけど、それも当たったら、の話だな」
「魔法の使い方は知っていても、実戦経験はなさそう。素直に正面からいかなくても、フェイントとか、搦め手とか、もっとやりようがあるのに」
「箱入りの貴族令嬢なんだろ」
「護衛がやられそうになったら、自分から戦おうとするところは、とても箱入りの貴族令嬢には見えないけど」
「うーん……しかし……これは駄目だな」
「見捨てたら、後で後悔しそうね」
「だよな」
しかたなく僕は走り出した。
まずは襲撃者がこちらに気づく。
商売柄、周囲への警戒は万全なのだろう。
それから護衛の騎士たち、次いで女の子がこっちに視線を向けた。
「助勢はいるか? いらなければ、このまま通り過ぎる。こっちまで襲ってくるようなら斬る」
ボロ布を巻いた剣の柄を右手でつかみながら、前半は生き残りの騎士たち、後半は襲撃者たちに向けて言う。
襲撃者たちは2人がこっちに剣を向けた。
しかし、かかってはこない。
こっちまで襲うなら斬ると聞いて、警戒はするけど、自分たちのほうからわざわざ敵を増やす気はないという姿勢を示したのだろう。
護衛の騎士たちは顔を見合わせている。
まあ、正体不明な2人組がいきなり助勢すると言っても信用できないよね。
僕たちに気づくのは一番最後だったけど、女の子の決断は一瞬だった。
「助けてください」
両勢力ともに「どうぞ、このまま通り過ぎてください」と言ってくれれば、後味が悪くもなく、のちに後悔することもなく、この場を去ることが出来たんだけど。
そんな都合のいい展開はないよね、やっぱり。
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