Side異世界:所詮うどんだけじゃない、香川県民
(♪おちついた、ファンタジー世界にありがちなフルートのBGM♪)
「ここはー、どこなのだろうか?」
決まっている、異世界だ。
あの女神が異世界とやらにこの俺を送り込んだのだ。
チートな能力を与えて好き勝手ができる。
俺は自然と愉悦の笑みを浮かべた。
そこは、なにも平原だった。
季節は夏らしく、青々とした草木が膝の高さまで生い茂っている。
こういうとき、虫とかいると厄介だが、そういった類はいない。
「おーぃ、なんかいたぞー」
周囲を見渡していると、大きな声が聞こえ、人々が集まってくるのを感じた。
どうやら彼らはこの土地の冒険者らしい。
剣士に、魔法使い、ドワーフに、エルフ。
完全なファンタジー世界に俺は興奮した。
「おぉう、さっそくファンタジーじゃねぇか?」
「ファンタジー? なによそれ?」
言葉は通じる。ファンタジーという言葉は分からないようだが。
なにか、ファンタジー的な要素によって言葉は通じるらしい。
言語系のスキルが必要なのかと一瞬不安に思ったが、どうやら杞憂のようであった。
あの女神カーキンとやら、存外に気前が良いらしい。
「――で、その恰好からするともしかして、貴方は異世界人だったりするの?」
冒険者の代表であるのか、エルフと思われる美少女が俺に声を掛けてくる。
上から下までなめるような視線を複数感じる。
たしかに、彼らからすると、ジーパンにシャツという恰好は奇異に見えるのだろうか。
こちらからすれば、エルフの緑の革の服とかも十分奇異に見えるのだが。
魔術師のように杖を持ち、ローブをまとっているが、夏場で涼しくするためかその姿は薄着であり十分にエロく感じる。
下着にローブかと思えるくらいだ。
「それで――、君たちは誰だね?」
「私たちは、≪トラップ箱≫の調査のためにここに来たパラチオン王国の冒険者ね。私はチーム:暁のメンバーで、エルフのエリー。貴方は?」
「俺は女神カーキンより召喚された異世界転移者だ。名前はスッキーとでも呼んでくれ」
一応、本名は隠しておく。
魔法が使える世界であるならば、真の名前で操られるかもしれない。
用心にこしたことはないだろう。
「「おぉー。異世界転移者~」」
周囲からどよめきが起きる。感動したかのような声だ。
やはり、異世界転移者ともなると、異世界の人たちにおいては特別な存在なのだろうか。
「ところで、≪トラップ箱≫とはなんだね?」
俺は、そんな冒険者たちの動向を探ることにした。
「知りませんか? ≪トラップ箱≫。なんでも異世界では遊戯に使うらしいのですが――」
遊戯に使う――、で当たりを付けた俺は、無詠唱でソレを召喚する。
冒険者たちは目を見開いて驚いている。
その驚愕の様子に俺はなぜか満足感を覚えた。
「あぁ、これです。これが≪トラップ箱≫です」
指さしながらエリーと名乗ったエルフの少女が答える。何歳かは分からないが。
「ところでなんで、そんな物騒な名前が付いているのかね。これはコインを入れて、横にあるレバーを引っ張るとここに表示されたドラムが回転し、マークが同じになったときにアタリとなって、さらなるコインが得られるというゲームなわけだが――」
「それは最近になって、この≪トラップ箱≫が複数見つかってはいるのですが、いつもその周囲には血だまりとか、アンデットが発生していて――。だから私たちはこの箱のことを≪トラップ箱≫と呼んでいるのです――」
「なん――・だと――」
完全なトラップじゃねぇかかそれは。
おそらく、ハズレになったときに異世界らしく殺しに来ているのだろう。
「ちくしょうめ、女神カーキンのやつめ――」
思わず怒りの声をあげてしまう。
「あ、あまり女神さまのことをそういうのは……」
「あぁ、すまない」
くそ女神とはいえ、この異世界では尊敬されているのだろう、宗教問題に関わると碌なことはない。
例えばイス――、いや、やめておこう。
しかし、ムカつく。
気前よくチートな能力を与えまくっていた背景には、こんな裏があったとは。
香川県の上級国民に対してなめたまねしやがって。
さんざん遊びつくしてから、この世界を無残に破壊してやろうか。
「――で、その≪トラップ箱≫をどうしたいのだ?」
「私たちは、破壊して中身を回収していますね。その――メダルはお金になりますから」
なるほど、冒険者たちは、ス〇ットで遊びたいわけではなく、金目のものが欲しい訳か。
だがそれは理にかなっている。
別にス〇ット破壊するような略奪行為をしても、その持ち主、いわば店長である俺が良いというのであれば、なんら咎められる行為ではない。物権および債権共通の消滅原因、混同である。
「じゃぁ、複数出してみるか――」
無詠唱で3個くらいしてみた。
「「おぉー。すごい。」」
「「さすがは転生者」」
「「素敵です――」」
冒険者たちは興奮し、俺に対して声援を送る。
エルフの少女なんて、目をうっとりとさせている。目にドルマークが見えるようだ。
「もっと、もっとお願いします――」
「おぉ、任せろ!」
エルフの下から目線の懇願に、俺は調子に乗った。
10個も召喚するとそれはもう大喜びだ。
(どうやら異世界でもやっていけそうだな)
冒険者たちによる胴上げを断り、破壊したトラップ箱からコインを回収しまくると、俺は冒険者たちに誘われるまま、冒険者ギルドの酒場へと向かうことになった。
意気揚々と歩きだしたその時――
(あれ――)
急に意識が反転する。
ちょうど、一時間が経過したころだろうか。
確かに俺がいたその場所は、赤の広場と化した――