Side異世界:トラップ箱って?
「また、トラップ箱が見つかったららしいぜ」
冒険者ギルドの酒場が夜になると喧噪に包まれるのはいつものことだ。
だが、今日に限ってはそれもさらに大きくなっていた。
顔を赤くしたシーフの男ジェフが、パーティリーダーのドワフリーダに笑いかけている。
手には酒瓶、それもこの地方では珍しい黒ラベルだ。完全な酔いどれ野郎と化していた。正直に言って、きもい。
「いい加減、飲むのはやめろてよ、悪い顔がさらに悪くなっているわよーー。それにお金がなくなっても知らないから――」
エルフの少女であるエミーがジェフを窘める。彼女はパーティメンバーの一人だ。
だが、酔っ払いのジェフは意に解しない。
「ふふーん。金なら大丈夫だ。そのトラップ箱を見つけたのは、なにしろこの俺様だからなー」
「な、なんだとーー」
「おぃ、おめぇらぁ、今日は金ならなる! 今日だけは俺のおごりだー。じゃんじゃん飲み物もってきやがれー」
そういうと、周囲の男たちは爆発するように騒ぎ始める。
「「ありがとございまーす」」
「「あざーす!」」
冒険者ギルドに併設された酒場であるため、その客のほとんどは冒険者だ。なにしろ飲ませた分だけ、飲みまくる。そんな男たちに奢りなどすれば一体どれだけの金が飛ぶことだろうか。
ドワフリーダは顔が青くなった。
「あんたねぇ、そんなトラップ箱見つけたら装備とかの投資に使いなさいよ」
呆れたエミーだが、酒を飲めることには賛成らしく、それ以上の反論はしない。
ドワフリーダの顔はさらに青くなった。
「しかし、ジェフ! お前そのトラップ箱なんてどうやって見つけたんだ?」
「最近、このトラップ箱とかよくこの街でよく発生しているだろう?」
「あぁ聞いているぞ、なにか、表面がなにかつるつるしている黒箱で、右側に謎のレバーとかついているヤツだろう?」
「あぁそういうやつだ。≪鑑定士≫によるとどうやら異世界では遊戯に使うやつらしんだがな――」
「あの死のトラップがか? 異世界人の遊戯とはすさまじいな」
その死のトラップ箱は、最近街の郊外でところどころ見つかっているが、同時にその周囲に血だまりができていたり、悪い場合ではゾンビなどのアンデットが発生していたりすることでも知られていた。
だが、箱の中身には莫大なメダルが納められており、トラップを解除すれば一攫千金も夢ではないのだ。
冒険者の多くが、そのトラップ箱を探していた。
「それを、ジェフは見つけたわけだ――」
「おぉう、俺はシーフだかからな、ちょちょいのちょーぃなのさ」
「ほほう。ちょちょいのちょーぃなのだな」
「あぁ、あのトラップ箱発生には法則があってだな――」
「ちょ、ちょっと――」
エミーはドワフリーダとジェフの会話に割り込み、慌てた様子でジェフの口を塞いだ。
その臭いは酒臭い。
「(こんなところで言っちゃだめでしょう? そんなこと。他にもそのトラップ箱があるかもしれないんだし―)」
「(ははー。どうせ俺がトラップ箱を見つけたことは金遣いからバレる。そのとき俺らが狙わるより、こうして情報を晒して新しいトラップ箱を見つけに行かせた方が10倍楽だろ?)」
「(それは、そうかもしれないけどー)」
小声で話し合うエミーとジェフだが、≪聞き耳≫スキルを有する冒険者たちには丸聞こえだ。
「(どうやら、このトラップ箱が召喚されているのはこの街だけじゃないらしくてな)」
「(ん? だから、それがどうしたの?)」
「(そこで他の街について状況を調べたんだ。すると――)」
「(すると?)」
「(どうやら街の近郊に時間で均等に配置されているらしいということが分かってだなぁ、どうやら六芒星の――)」
「(なるほど――。もうそれ以上は言わなくていいわよ)」
どうせ周囲のシーフ系クラスを持った冒険者は、≪聞き耳≫スキルで聞いていることだろう。エミーは思わず顔をしかめるが、これで情報が流れればこちらが襲われるリスクは確かに減るはずだ。
そしてだいたいの察しはこれだけで気付くことができるだろう。
この街で見つかったトラップ箱はおよそ2つ目。今回で3つ目だ。
その発生した場所や時間を冒険者たちはこぞって調べることになるだろう――