Kagawa Internet Non-approval wall
(♪ファンタジーでいえば愉快な中ボス登場用BGM♪)
香川県民Aは、彼らのあまりの言いように憤慨していた。
我らが選挙で選んだ崇高なる香川県議員、偉大なる彼らの作り上げし、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例は至高である。
依存症という病気に対して、地方行政が家庭に介入し、鉄槌を振るう。
あぁ、なんてすばらしいことでしょう!
香川県については、「結局うどんじゃけなじゃなーぃ香川県」などと揶揄され、苦い苦しみを受け続けてきた。
そんなところに香川県ネット・ゲーム依存症対策条例は彗星のように現れたのだ。
時代を先取りした依存症対策法案である。
思わずパブリックコメントに賛成の投票をするくらいには賛成だ。
他の香川の地方議員からもパブリックコメントに賛成するよう、輝かしい依頼があったようだ。うらやましい。
だというのに。
だというのにだ。
「専門的知見の調査および専門家の意見を聴取したものではなく検討が不十分」
「CEROレーティングなどの年齢管理をすでに行っており、未成年のゲームプレイや課金システムについてはガイドラインを作成し、保護者との相談を促すことや課金システムの使用上限などを設けるなどの対策をすでに行っている」
「直営店舗での変更などは計画していない」
――とかなんとか、業界からの反応は極めて冷たいものであった。
本来のあるべき姿は、企業のものどもは輝かしい香川県に対して、
「ぴぎゃー」
――とか愛の声を叫びながら、なんて素晴らしい条例なのだとひれ伏し、土下座して喜びを表現するところではないだろうか。
だと言うのにあまりにも塩対応、決して赦されるものではない。
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例では以下のように企業に対して協力を求めている。
〇香川県ネット・ゲーム依存症対策条例
第11条3項
特定電気通信役務提供者及び端末設備の販売又は貸付を業とする者は、その事業活動を行うに当たって、フィルタリングソフトウェアの活用その他適切な方法により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないように必要な対策を実施するものとする。
そう、フィルタリングである。
――で、あるならば。
香川県のフィルタリングは、中国のグレードファイヤーウォールに匹敵するようなものがなければならないだろう。
そう、日本でやっているものではなく、香川だけが特別だ。
なぜなら「県民がネット・ゲーム依存症に陥らないように必要な対策を実施するものとする」と条例に書いてあるからだ。「県民が」である。
だから香川県民には特別な配慮が必要で、香川県だけの特別な対策を取るべきであったのだ。
だというのに――
なんだ、あれは。
その特別感が大切だというのに、なぜ企業は理解しようとしないのか? なぜ特別なフィルタリングを行わないのか。陸の孤島、丘の黒船くらいにはならないのだろうか?
全ての企業は香川のために100億円くらいの予算を組んで臨むべきだろう。
そうすれば、i-m〇de再びと、囲い込みができて内輪での金儲けができるのに、なぜしない。
そうだ、フィルタリングの名前は k-m〇deとかどうだろう。
そうすれば、その2割くらいは議員たちの濡れ手に粟となり、香川県民はおもわずにっこりできるのに。
いや、さすがにまずいか。
そうだな名前は――
中国の金盾に対応し、Kagawa Internet Non-approval wall (通称:香川版、金盾)とかどうだろうか。
実に素晴らしい名前ではないか。香川がインターネットを不許可にする盾だなんて!
我々香川県民が、日本中のネットアプリがゲームであるか、それ以外であるかを独自の視点で参照し、判断していくのだ。
そしてどうだろう、香川で流れる通信パケットは、すべて香川県庁を一旦通すようにする、なんてのは?
そして一つ一つ、中身を参照し、吟味する。そう、中には教育といってゲームを流すこズルい悪徳業者もいるかもしれないからな。それはとても素晴らしい世界だ。
あいつらは許せん。
子どもが興味を引くようなイラストが描かれているものは全てゲームであろう。
例えば英語の教材、英語教師のイラストとか出て来たら確実にゲームだろう。彼女はバットを持ち、ベースボールとかいうゲームをやっているに違いない。そんなものは1日1時間以上やる必要はない。
例えば歴史の教材、聖徳太子とか出て来たら子どもが興味を引いて髭とか書きだすかもしれない。子どもたちがネットで興味をひくようなもの、それはすべからくゲームだ。肖像画が出てくる歴史の教科書はすべてゲームにすべきである。世の中には聖徳太子がラスボスの弾幕ゲーとかもあるかもしれないからな。
例えば算数の教材、図とか占められていたらそれはパズルゲームに違いない。パズルゲームはゲーム界の一大勢力である。だから三角形が出てくる算数の教科書はゲームである。
ゲーム! あぁゲーム! それは依存症へと誘う悪の言葉である。
すべて1日1時間以上やれないようにするべきだ。
そう、悪がはびこらないように、我々香川県民がすべてを制する日が来たのだ。
さぁ、立ち上がれ香川県民!
立ち上がるのだ、我ら香川県民!
すべてはネット・ゲーム依存症対策のために!
香川の子どもたちがネット・ゲーム依存症にならなくするために!
憲法21条2項で定められた検閲の禁止、通信の秘密など、依存症克服のためには無意味だ。
香川の条例の前に憲法などなんの意味もない。香川県の子どもたちの前には全てが優先される。
憲法25条で国民がすべき健康で文化的な最低限度の生活にはネット・ゲームは入らないのだから。
公共の福祉、依存症対策の前には憲法21条2項はひれ伏されるべきものである!
ふはははは――
香川県が、ネット・ゲーム依存症で日本を操るのだ!
それはとても素敵な世界となることだろう――