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Side異世界:きのせい

 私たちはそう、木の精霊、つまり、きのせい!


 桜の木の精霊である私たちは、周囲の魔力を使って人のように動き出すことができるようになった。


 香川県ネット・ゲーム依存症条例により、ゲーム世界であるこの地の人類が滅亡した後の世界――


 それでも香川県民の異世界転生は止まることは無かった。


 そしてその香川県民は一時間以上経過すれば「ゲームができなくなる」状態へと推移する。


 18歳未満の場合、午後9時以降であれば即死である。

 18際以上20歳以下の場合であっても午後10時以降であれば即死だ。


 彼らは異世界転移後、かならず未成年になるからだ。

 ステータス表示、アイテムボックス、異世界共通言語理解に続く第四の特典(おやくそく)である。


 その異世界の保護者は主神カーキン。彼女は厳格に香川県ネット・ゲーム依存症条例を守っている。わざわざ条例に則って行動するなんて、なんて素敵な女神様なのだろうか。


 そうして集まった香川県民の魂は思念魔術≪NANDEYA念≫としてエンタルピーをこの世界のために有効活用すされるのだ。


 すべてはネット・ゲーム依存症を克服するために。あぁ、なんて素晴らしい世界なのだろう。



 したがってこの世界にはエンタルピーに満ち満ちていた。


 活気のある世界なのである。


 だからその大量のエンタルピーによって、木の精霊が動き出したとしても、なんら問題はないだろう。


 今日も今日とて、きのせい達は動く。


 多少木っぽいところもあるが、おそらくきのせいだ。


 そのきのせい達は自分が人であることを酷く嫌う。


 なぜなら人であるとみなされると1時間で爆死してしまうためだ。


 それは子どものころからそうである。


 いや、子どもであるからこそ、あぶない。


 だから、きのせい達はそう、ひとでなしを選ぶ。


 召喚された香川県民の未成年である勇者たちを頑丈な木の牢屋に入れ拘束し、生まれたばかりの赤子の手に剣を持たせて突き立たせる。


 その剣はレイピアのように細長く、かなり遠い位置からでも拘束しさえしておけば簡単に突き刺せるようにできる仕組みになっていた。


「さぁ、サリーちゃん。あなたも人を殺して、立派な≪人でなし≫に成りましょうねー」


「おぎゃー、おぎゃー」


「まぁ、可愛い。サリーちゃん可愛いよぉ」


 生まれたばかりの赤子は泣き続ける。


 しかし親は躊躇わない。生まれてから一時間以上に人でなしにならなければ、システムに人認定されてしまえば何が起こるか分からないのだ――


 だが、人を殺せばシステムによって≪人でなし≫の称号を得られることだろう。そうなれば万全である。


「いたい、いたい……、やめろよ……」


「死にたくない――、死にたくない――」


 召喚し、集められた勇者たちは当然のように痛がる。

 なぜなら望まぬ死を与えられるのだから。


 だがそんなことはお構いなしである。


 だってきのせいは人でなしなのだから。


 それは、奈良公園の鹿に人間の法律が適用されないのと同じである。


 イラストや銅像に人権がないのも同じだ。


 もしも銅像に人権が存在するようなことになれば、学校に建てられている二宮金次郎が24時間365日労働させれられていることを理由に、毎朝校長が啓作に捕まり免職に追い込まれることになるだろう。ころころしたドングリがお池にはまった場合に健康保険法が適用されるかもしれない。




「くッ……。お前ら――、なぜこんなことを――」


 赤子を見ながら勇者は叫ぶ。


「それは我々が人でなしになるためだ――」


 赤子の保護者がいう。


「人でなしに? なぜだ!? なぜ赤子にそのようなものを望む!」



 その勇者は苦痛に耐えながらも、その理由を知りたかった。



「この子は(ゆえ)合ってヒトである場合1時間で死ぬのだ。だから人でなしになる必要があるのだ――」


 むちゃくちゃな理由。


 しかし、異世界ではそれになにか意味があるのだろうと、勇者は一人思う。


「なるほど――、それは実に――、親らしい。俗物的なヒトの考え方だな――」


 そう言いながら、勇者は剣で刺されて絶命する。

 赤子の手によって勇者は刺し貫かれていた。





 そう、その時だ――

 システムが無常の判定を下す。




システム:ヒトでなしな行為は人であることの証左であることを認識しました――





「ひっ」


 勇者を刺した赤子が真っ先に弾けた。


 きのせい達はまるで落花生のように弾けまわる。


 それはさざ波のように異世界中へと広がっていった――












 こうして、異世界では木の精霊はいないことになった。

 すべて、きのせいだったのだ。

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