香川という県からゲームの炎が消えたあの日
「おぉ――、これは昔の戦艦や駆逐艦について学ぶことができる教育用アプリですか――。素晴らしいですねー」
〇社――
〇社では特定のカントリーリスクに対応するため、香川県でゲームのカテゴリになっていたスマートフォンなどへの提供用コンテンツを、ゲームカテゴリから教育用へと外すことにした。
なにしろ香川県ネット・ゲーム依存症規制条例によれば、香川県の保護者は、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければなくなったのだ。
そして業者等はそれに協力しなけらばならない。
そう、協力しなければならないのだ。
だが、これには例外規定があり、家族との連絡及び学習に必要な検等を除くとあるのだ。ではそれを利用しない手はないだろう。
世の中からゲームをなくし、全ては学習に必要な検索等になれば良い。
だから、香川県においては、ゲームはつぎつぎに消滅していくことになる。
令和2年4月1日の条例施行日、ネットからゲームは消える。
「すばらしい、こちらのゲーム――、じゃなかった、教育用アプリでは歴史上の偉人について学ぶことができるのですね」
「歴史ですか。すばらしいです」
「世界各地の偉人だから多岐に渡るぞ。すごいですな」
「しかし、アーサー王が女性とか、ときどき間違った情報もあるようですが? 教育アプリとしては如何なものか」
「そこは本物の歴史との差を楽しんでいただければ」
「なるほど! 初心者用の導入編であり、本当のことはソースを当たれということですな」
「うむ、うむ。そうなのだ―」
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おそらくこの後の展開として、ゲームの定義が香川県議会およびその下部組織によって決められることになるだろう。こんなのは教育ではないと偉大なる香川県議会およびその下部組織がネット世界に鉄槌を下されるのだ。
ホワイトリスト方式によって一つ一つ吟味が行われ、ゲームかどうか判定が行われる。判定にはリリースから1年程度、あるいはもっとかかるかもしれない。そんな世界がすぐそこに来るかもしれない。
かつては喫茶店、そして映画、近くなればゲームセンターなどが権力によって規制の対象とされてきた。その潮流がついにネット・ゲームにまで来ただけという話である。
ネットアプリはゲームだけじゃない、すべての分野で香川県議会の認証が通るまで公開が遅れ日本の産業は滞るのだ。早く認証を通すには賄賂が必要になるかもしれない。あくまで予想だが。
「ははー。これはカニについて学べる教育アプリですか――」
「たらばー、えちぜんー、わたり―、シャンハ―イ!」
「僕は、アシナガちゃんが一番です」
「毛ガニとか良くない?」
「いや、カニだけじゃない。とれとれぴちぴちなカニ料理を学ぶことができる教育アプリなのだな、これが!」
「お前アクセントが違う! そこは、とーれとーれ、ぴーちぴーちカニ料理! でゅーわーだろうが!」
「なに関西人のようなことを言っているのだお前は」
「いや、香川って関西だろ?」
「確かに、香川って西の方にあった県だった気が――。四国の一つだっけ?」
「あー、そういえば四国の中にある4つの県ってなんだったっけ? 香川県、うどん県、大阪に対する通勤圏、あとは、ゲーム規制県だった、か?」
「さぁ? それ1時間で言えるの?」
「それはいいとして、ほほぅ。このゲーム、カニにも種類があるのですなー。カニ盾型とか強そうです。シャンハイ系なのかな。そのうち天安門事件とか出てくるのですかね?」
「カニの工作船に乗って日本中を駆け回るわけですが、いろいろイベントが捗りそうですな」
「カニの工作船の船長はなんていう名前なんでしょう? まさかの書記長だったり、いやぁ、でも海の船長なんだから海書記長とかどうだろう?」
「そのネタはさすがにヤバすぎるんじゃないかな?」
「天安門事件よりはいいんじゃないか? カニ盾vs戦車とかどうだ?」
もちろん、このような教育アプリがゲームとして世に広がることはない。
蟹工作船が弾圧されるのはいつもの日常である。
むろん、白地に新聞などの教育アプリ電子版などもっての他である――