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Side異世界:条例成立後、香川県民が異世界転移すると、香川県民はこうなる(勇者パーティから追放編)

 勇者パーティは今日もS級ダンジョンを攻略し終えた。


 ダンジョンの最下層は深く。一度潜り始めると時間は相当に掛かる。


 S級ダンジョンであるならば、何日もかかるのは当然だ。


 ダンジョンにいたラスボスを倒し、地上へと戻ってきたときには既に空はすっかり夜の状況を示していた。


 暗い中、野宿をするためにウェイボーはテントを張り、火を起こす。


 食事ができたころに勇者パーティの仲間を呼ぶと、勇者は突然、ウェイボーに対して宣言を行った。


「ウェイボー! お前はこの勇者パーティから追放する!」


 勇者はどや顔である。

 対するウェイボーは困惑を隠せない。


「え! なぜだよ!」


 勇者から突然言われた勇者パーティからの追放宣言にウェイボーは愕然とする。


 少なくとも、これまで勇者パーティに対しては惜しみない貢献をしてきたつもりだった。それが一体なぜに突然の追放なのだろうか。


「お前はネクロマンサーだろう」


「そうだが……」


「さすがに勇者パーティにネクロマンサーは体裁が悪いからな」


 ネクロマンサーは、異世界から「力のあるモノ」を召喚し、召喚者の代わりに戦わせるというクラスの一つである。


 召喚されるものの多くはアンデッドであった。


 確かに、正義を司る勇者パーティにアンデットは珍しい――、嫌悪されるものであるこはあるだろうが――


「そんな! そんなことは百も承知で俺を勇者パーティに入れたのだろうが!」


「そう、俺達はその当時かなり弱かった。だが今はS級ダンジョンをいくつも攻略し、力もついた。金も、名誉も、権力もだ! だからお前の力はもう不要なのだ――」


 結局、勇者は力が全ての人間だった。


「理不尽すぎるだろうが! まるで強くなったら条約を破棄できるとか言ってるヤツらじゃあるまいし」


「やかましい! ともかくウェイボー、お前は追放する!」


「あぁ、分かったよ。では俺はお前の言うように追放されてやるよ! いつかざまぁ展開に持っていくからな――」


 そこで、勇者はふふりと笑う。


 他の勇者パーティのメンバーもだ。


 なにごとだろうか。ウェイボーは疑問に思う。


 勇者パーティには、勇者だけではなく、肉盾担当のウェイボーの他に、女魔法使いや、女盗賊もいる。


 彼女たちもウェイボーの追放に賛成なのだろう。


 だが、それだけではない雰囲気にウェイボーはたじろた。


「追放に同意したな、ウェイボー! これでお前はフレンドリーファイヤー防止システムによって攻撃を回避することはできなくなったわけだ――」


 フレンドリーファイヤーとは、味方の攻撃によってパーティのメンバーが被害を受けることである。


 ゲームであるこの世界では、パーティメンバーの場合このフレンドリーファイヤーが起きないよう神のシステムによってガードされているのだ。


 だからこそ、安心して魔術師は後方から魔法を放つことが出来る。完全にゲームの世界のお約束である。


「お前――、まさか――」


 勇者は笑う。


「勇者パーティを抜けたウェイボーが『元勇者パーティのメンバーでござい』などとほざきながら冒険者ギルドを闊歩されると、俺たちは非常に困るからな――」


 ウェイボーは冒険者ギルドとの折衝はこれまであまりしてこなかった。勇者が冒険者ギルドとの対応をすべて請け負ってきたからだ。それは、ウェイボーを気遣ってのことかと思っていたが、どうやら違ったようだ。


 勇者は相当に、ネクロマンサーであるウェイボーが嫌いであるようだった。


 勇者に寄り沿う女魔法使いが笑う。


「あはは。ようやくウェイボーを殺せるのね! 以前から思っていたのだけれど、あなた臭いのよ――」


 勇者の後ろで隠れながら、女盗賊も笑う。


「あなた、相当お金貯め込んでいるんでしょう?」


 確かに、ウェイボーはお金を貯め込んでいた。


 娼館にもいかずお金を貯め込んでいるのは今後の老後のためでもある。


 だから、なんだというのだろうか。


 勇者の笑い声はやがてげらげらと徐々に大きくなり、明らかに罵倒的なものに変わる。


「まさか――、お前ら、俺からコロシテ奪うとか言うんじゃないだろうな? 仲間だろう俺たち!」


「かつて仲間だった。だろう?」


 ニヤニヤと笑う女盗賊。

 野営用の焚火の炎が赤く揺れた。


「あぁ、だから――、死んでくれ――」


 勇者が指を鳴らす。


 女魔法使いがそれに合わせて無詠唱で炎の矢を放った。


 初級闇炎術≪ファイヤーアロー≫である。


 勇者パーティの女魔法使いによる≪ファイヤーアロー≫は、その魔力により矢というよりは炎の球のような大きさになっていた。


「いでよ! グール!」


 その瞬間、ウェイボーはネクロマンサーの真価を発揮した。


 ネクロマンサーであるから、その魔術は当然召喚魔術である。


 グールはその身体の表面を死体で覆われており、スケルトンと比べ燃えづらいという特徴がある。


 完全に炎により燃え尽きたとしても、スケルトンになるだけだ。


 グールは一度に5体召喚された。


「くさい! くさい! これだからネクロマンサーは――」


 焼けこげるグールたち。真っ赤に燃える、臭いカルビ焼肉だ。


 それを燃やした本人は可愛い顔の眉を潜めた。


 にも拘わらず、追加で女魔術師は次々とファイヤーアローを放ち、燃えるアンデットの数を増やしていく。


「くそ――」


 背後に回ろうとした女盗賊もは炎に煽られてウェイボーに近づけない。


「お前――何をする気だ―」


 勇者が叫ぶ。

 ウェイボーはグールたちに女魔術師が対応している間に、次の詠唱を既に終えていた。


 異界からヒトを召喚する術式だ。

 その名を勇者召喚術式――


「お前まさか。勇者である俺様を殺す気か!」


「殺そうとする人間に対して、反撃されないなどと思っているのかお前は!」


 召喚魔術は成功する。

 それは――ヒトであった。


「なに! それは――」


 勇者の前に召喚された青年――。まだ20歳以下だろう。


「キミに決めた! 勇者には勇者だ! そのチートな能力を存分に示すがいい!」


 虚ろな瞳の青年は、勇者を敵と認識するとその瞳を輝かせた。


 キラーん。


 それは、どう見てもチートな能力を持った香川県民の勇者である。


「おのれ、ウェイボー! だが今召喚するのはさすがに、まずくないのか?」


 不完全な勇者召喚術式――、それはネクロマンサーの間でも禁忌とされるものであった。


 正式に大規模な魔法陣を使った勇者召喚とは違い、さまざまな制約があるのだ。


 それをウェイボーはもちろん、勇者も知っていた。


・光に弱い


・水に弱い


・夜10時以降の召喚は厳禁



 さまざまな制約があるネクロマンサーの勇者召喚であるが、ある程度強い、約1時間で爆発するという特性により、戦略兵器として活用できていた。それが、S級ダンジョンを攻略できる鍵の一つであったのだ。


「だが召喚するしかなかったのだ―、さぁいけ! かがみん!」


 ウェイボーは叫び返す。


 夜10時に近づこうとしている。


 この時間も何が起きるか分からない。

 勇者を倒したらすぐにでも召喚を消さなければならない。


 それは一種の賭けだ。


 かつて、その召喚された勇者は水を与えると増殖し、光を浴びせると死んだ。


 夜10時以降に召喚された勇者には何が起きるのだろうか?



「しまった――」


 一瞬の思考の中断。勇者は致命的な誤りを犯した。


 召喚された勇者の接近を許してしまったのだ。


 かがみんと命名された召喚された勇者の身体が青白く光る。


 次の瞬間、拳を勇者の腹にめり込ませた。


「ぐは――」


『ワレ、うどん。キワめたりぃぃぃ―』


 かがみんから機械的な声が響く。


 それは防御不能の中段技だった。


 時が止まる。


 その拳から青白い波紋のような光が2回走る。


 それは超必殺技の予備動作――


 オノマトペと呼ばれる魔法文字がその拳の周囲から発生した。

 大きな文字が光る。画面いっぱに「香川」の文字が現れた。


 きゅぃーん☆ 多数の集中線を疾走させながら派手な音が走る。


 それはスーパーアーツ≪香川拳≫だ。

 昇竜〇コマンドx2+大パンチボタンである。

 それらの動作は全て1秒にも満たない間に起きる。


 勇者のHPは一撃で10割を失った。

 勇者は死んだ。


「ざまぁ――」


 ウェイボーが呟いた瞬間だった。






 轟――






 突然にして召喚された勇者かがみんは爆発する。


 勇者パーティは全滅した。


 ウェイボーとかがみんはパーティのはずで、フレンドリーファイヤーは発生しないはずなのに、ウェイボーも死んだ。


 そのとき、時間はちょうど午後10時を指していた――










 ――なお、香川県ネット・ゲーム依存症対策条例には次の規制が掲載されている。


☆第18条2項抜粋――

 スマートフォンの利用にあたつては、義務教育終了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とすることと。

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