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憲法より地域の条例が優先される世界。それが香川県―――

 死んでいく香川県民の異世界転移者を身ながら、嘆きの声をあげる異世界の神々は当然のようにいた。


 だが、最高神であり、主神である邪神カーキンの命令に逆らうことはできない。


「異世界転移者は異世界転移者のコンプライアンスに従え」


 もっともな発言でもある。


 この世界はゲームの世界だ。


 RPGであり、VRであり、そして乙女ゲームの要素すらある。


 そのうち、勇者パーティからの放逐系とかも実装される可能性すらあった。


 邪神カーキンは日本のとあるゲームメーカーとずぶずぶの関係で、いろいろなゲームを雑居ビルのように異世界へ導入してきたのだ。最近ではブラウザゲーとか、スマホゲーにも手を出している模様でもある。


 環境適合――、それは異世界や企業が生き残るための合言葉だ。


 ――で、あるからこそ異世界から転移者を迎え、この世界を活性化することができているのだから始末に負えない。

 恩恵だけ受けて香川県民を殺さない、という訳にはいかないのだ。


 香川県民が死ぬときに発生する無念の思念、「NANDEYA念」は、我らが世界の活力(ダイナミズム)の源泉として、この世界に溢れんばかりに聖杯を徐々に満たしていた。


 さて、香川県ネット・ゲーム規制条例が影響を及ぼさないようにするにはどうすれば良いだろうか。


 異世界の神々は考えた。

 それは、その条例がより上位の法令によってNGであるとみなされることである。と。


 例えば憲法、そして条約、これらによって違憲であり、条約は違法だと見なすことだ。


 だが、それは難しい。


 すでに香川県議会は違憲ではないと表明している。


 そして、憲法では、第十三条においてこう唄われているのだ。





憲法十三条:

 生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。





 つまり、「公共の福祉に反しない限り」「立法その他の国政の上で」国民は自由および幸福を追求する権利があるのだ。


 つまり立法があればいくらでも踏みにじることが可能だ。

 それは香川県ネット・ゲーム規制条例が当てはまる。


 このような立法の例では例えば消防法がある。


 消防法は火災を予防し、警戒し及び鎮圧し、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、火災又は地震等の災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行い、もつて安寧秩序を保持し、社会公共の福祉の増進に資することを目的とする。


 そのため、国民に対して消防設備を持たせたりすることを義務付けているのだ。


 さらに、消防法第十七条二項では、市町村は、その地方の気候又は風土の特殊性により、前項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令又はこれに基づく命令の規定のみによつては防火の目的を充分に達し難いと認めるときは、条例で、同項の消防用設備等の技術上の基準に関して、当該政令又はこれに基づく命令の規定と異なる規定を設けることができる。としている。


 つまり、消防法では、地方の気候又は風土の特殊性により、市町村は条例を発効することができるのだ。


 これは香川県にも言えることである。


 おそらく、偉大なる香川県を指導する県議会の方々の素晴らしい思考により、香川県ではネット・ゲームに依存症を抱える市民たちが多いということなのだろう。


 もちろん根拠はない。

 それは香川県ネット・ゲーム規制条例そのものに根拠がないものと同じことだ。


 そして、たとえ根拠がなくても、親愛なる素晴らしい香川県の議員たちの多数が賛成した法律であることは事実である。

 たとえそれが、栄光ある自民党を県議会の議長選出を巡る不満により、自民党会派を分裂しさせるような素晴らしく素敵な人材が主導するような条例であっても、法令であることに変わりはないのだ。

 そもそもにおいて、すでに可決成立されている条例である。たとえ間違っているとして、間違った運用をしたとして、他国のように事後・遡及法的な制裁が科されることはない。



 今後――、ネット・ゲーム依存症になった児童は、香川県ではことごとくいじめの対象になるだろう。条例がその後ろ盾になるのだ、いじめない手はない。

 あるいはSNSで他県に対しネット・ゲーム依存に対して批判的な児童、もしくはSNSやY〇utubeにチャンネルを開設し、情報を発信をするかのような行為をするような児童はPTAや教育委員会から目の敵にされるに違いない。

 いまはやらないかもしれないが、今後そのほとぼりが冷めれば、Y〇utuberに対して子どもたちのゲーム依存を助長するなどとして香川県への一時間以上の配信を停止するように弾圧するようになるに違いないのだ――。香川県議会ではすでに行政が家庭に介入する前科がある。企業などなにするものであろうか。


 そう、全ては香川県で依存症の子どもたちを出さないようにするために必要な正義である。公共の福祉のためには香川県の平等権などいくら踏みにじっても構わないのだ。あぁ、香川県はなんて素晴らしい世界なのだろうか。


 憲法では健康で文化的な最低の生活は保証されている。ただしゲームをする未成年の香川県民の場合、それは時間にしておよそ1日1時間だ。ネット・ゲームは健康で文化的ではない悪なのである。


(やはりだめだ―)


 異世界の神々たちは、絶望へと堕ちるしかないのであった。

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