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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
六章 破滅の序曲と鈴の調べ
194/194

vs地龍神1

地龍神は実は七龍神の中で一番最初に姿形、名前が決定していたりする。

七龍神という名の方が後から出来たくらい。


あとは『いつ動かす……?』ってだけだった。

 

「……なんだこの振動は」

 トリンを抱き抱えていたシオンは呟く、アルバートはおいおいおい!と東の山を見つめながら叫ぶように言う。


「山が動いてるぞ!?どうなってるんだあれは!!」

 アルバートの言う通り、山が動いていた。

 あれは確か……、


「グランバハムート山脈……そうか、そういうことか」

「あ?どういうことだ?」

「バハムートって知ってるか?」

「んーっと、デカくて硬い土魔術がつかえる竜だっけ、文献で見たことあるぞ」

 そう、バハムートという竜がいる。

 城のような巨体を持ち、頭と心臓を壊さない限り少しの時間で再生するという半不死の身体を持つ代わりに鈍重な動きと少しの土魔術しか使わない魔物だ。


 東側諸国とトラスを分かつ巨大な山脈として今動いてる山々は『グランバハムート山脈』と名付けられた。

 だが事実は……。


「あれは山脈なんかじゃない、あれこそがグランバハムートなんだ!」

 地龍神は長らく、人の前に姿を現していなく、何処にいるか、姿形、名前すら分からなかった。

 だが実際はずっと居たのだ、大地の一部として、山脈として。

 大地を司る龍神が今動き出したのだ。


「あ!あれ見ろ、シオン」

「……ウィリアム?」

 山へ向けて誰かが飛び立った、背格好からウィリアムだとわかる。


「シオン!お前も行け!トリンは俺が見ててやる」

「だがお前は」

「大丈夫だ、多少無理はしたけど全く動けないわけじゃない。第一、動けても俺は飛べねぇ。母さんが動いてないって事はまだ奴は生きてるんだ、トリンの見守りは必要だろ?」

「……分かった」

 俺は重力魔術で自分の体を浮遊させる。


「……すぐに戻る」

「気を付けて行けよー!」

 重力魔術で操る箒に乗ってシオンは飛び去った。


「……さて」

 アルバートは母がいるだろう場所へと目を向ける。

 水の壁は半円形となり、一度解かれた後に次はウィリアムを追い出して立方体を形成した。

 中の様子は全く見えない。


「『シャイニング・ランス』……やっぱりダメか」

 光の槍を当てても全く揺らぐことがない、今すぐ加勢したいところだったが事前想像アドバンスや魔力回復を優先することにした。


(母さんの事は信じてる。けど相手は……)

 以前、シオン達と再開する前にドロシーに言われたことを思い出していた。




 ◇◇◇




『いい?この世界には三つ、注意しないといけない勢力がある』

『そんなにあるのか』

『外の世界は戦争こそやってないけど殺伐とした関係の国が多いからね。まず一つ、隣の大陸ギリスロンド。ここは……勇者の君ならもしかしたら幸せに暮らせる可能性もゼロじゃないけど行かない方がいい。今は内乱が起こってるから自分で行かない限り気を付ける必要はないね』

 なので一番危険度が低い、と付け加えてドロシーが言う。


『二つ目、ラピス天征教傘下の人間。具体的に言うと教会の信者とゼウスブルート、ゼルトフリードの人間』

『……この世界唯一の宗教は敵ってこと?』

『そうだね。宗教勢力っていうのは数が多い。ふとしたときに『勇者は異端だ』何て言われちゃったら大変なことになる、あまり近づかないようにね』

 大分偏見があるんじゃ……とその時は思ったが実際天征教が『大いなる存在』として信じる天使に襲われたからこれも頷ける。


『三つ目、支配者を名乗る男。これが一番ヤバい』

『個人なのに?』

『個人なのに。まだ名前も姿も調べきれてないけど、多分出会った瞬間分かると思う、『こいつ、頭おかしい』って』

 その通りだった。

 言動もそうだがその身に溢れる異質な魔力、絶大な自信の元に傲慢な考えを語る態度。

 常に『自分が上の立場だ』と人を見下す姿勢。


 そして、並々ならぬ神への反逆心。


 今日、初めて会ったがもう二度と会いたくないくらい嫌いな存在になった。


 なんというか……会話の節々で俺を見る目が物凄く寒気がする。

 獲物を見るような目、『お前を殺す』と言われているような錯覚に陥る。


『多分君を一人で対面させることはないと思うけど、念のため気を付けておいて』




 ◇◇◇




(……ダメだ、飲み込まれるな)

 母さんを信じる。それしか道はない。


 信じている、信じているが……


 この胸騒ぎはなんだ?


 なにか見落としている事でもあるのか……?




 ◇◇◇




(……チッ、流石にデカ過ぎるだろ)

 聖魔の古戦場から東へ数キロ、全速力で箒を飛ばすと次第に山脈が近づいてくる。


(バハムートと同じならこの馬鹿みたいに大きい身体から心臓を見つけ出さないといけないが……場所の見当がつかない)

 バハムートは身体の中心、胸部と腹部のちょうど間に心臓があった。


 ただ……この山脈の何処を胸部と腹部として見ればいいんだ……?そんなかつてないほどの難敵にこれから挑む。


(まず頭を落として動きを止めることから始めるのが最善……か?)

 これほど巨大であろうと身体を動かすのは頭脳、再生するとはいえ一時的に動きを止めることくらいは出来る、そんな事を考えていると突如、頭を殴るように激しい剣幕で脳内に声が聞こえてきた。


『おい!!今こそ私を使うべきだろうが、小僧っ!!』

(っ!急に喋りかけるなっ。今重力魔術の制御で忙しいんだ!)


『ハッ、これしきの事で制御が揺らぐなどと文句を言うな、私の契約者。それより、私を使え!』

 勝手なことを言って……、いつも渋々協力してる癖に急になんなんだ。


『奴は貴様らの言う神代から生きている巨龍だ。不利になるとすぐ周囲の地形に擬態して逃げる臆病者だったが……こんな図体がデカくなってるとは思わなかった』

 ふぅん、斬りたがる理由にはならないが?


『癪ではないか』

 あ?どういう


『神々の時代で逃げ一辺倒だったデカいだけの雑魚が私達が滅んだ後の時代で我が物顔で人の子を踏みにじるのが気にくわない。それが奴を斬りたい理由だ。貴様もそうは思わないか?小僧』

 ……俺は神の時代に生きていないから実感はない。

 今の俺にはただの倒し方が分からない絶望的な相手にしか見えない。


『……質問を変えようか。貴様が『見逃してやった』小動物が居たとしよう。それが成長して貴様のいないところで人間を大量に殺していた、どう思う?』

 ……どうって、


『貴様の感情は私にも流れ込んでくる。私の気のせいでなければ、貴様は殺さなかった事を悔やみ、責任を感じて今度こそ、小動物だった存在を殺しにいく……。今の私の気分はまさにそれだ』

 利害は一致している……って言いたいのか?


『ああ、そうだ。良い関係じゃないか。対価の無い取引、どちらかの望みを叶えるためにどちらかが振り回される関係。そんなのも『時には悪くない』、『先行投資と思えば良い』、なんて綺麗事を言うやからもいるだろうが貴様は出来ることなら対等の取引が良い……そうだろう?』

 その通りだった。

 シオンは出来ることなら長く付き合う相手ともその時だけの相手とも後腐れ無い関係が良い。


 タダより怖いものはない。


『私は私怨で奴を斬りたい。小僧、貴様は人々を守るために斬りたい。……思えば初めて目的が一致したな?』

 お前はいつも口を開けば『フレイ様、フレイ様』だったからな。


『それは仕方がない。私の真の主はあのお方、ただ一人。フレイ様を忘れてしまっては私は私ではない』

 ……まぁ、どうだっていい。


 俺に力を貸してくれるならそれでいい。


『神霊武装というのはそれぞれに使命があり、私が創られた際に与えられた使命というのは『あらゆる人の子の望みを叶える最高の道具』らしい。フレイ様から聞かされた時には武器ですら無いのかと残念に思ったがやっと分かった。貴様のような『何もかも捨てる事ができない人間』のために、私は創られたのかもしれないな』

 私はフレイ様を選んだがな!と付け加えて『虹の神剣』は言う。


『今更だが、本来の役目を果たそう。さぁ、貴様の望みを言え。龍だろうと、山だろうと、私は全てを両断しよう』

 あぁ、じゃあ遠慮なく行こうか。




「俺に奴を斬る力を、皆を守るための力をよこせ!!『虹の神剣(アルカンシェル)』!!」

 煌めくは今日三度目の魔光。

 しかし、その輝きは衰えるどころか増していた。


「まずは目の前のデカイ図体を斬る。話はそれからだ」

『最高の得物は用意した。次は小僧、貴様の番だ』

「言われなくてもやってやるさ」


 雷光を道標に、シオンは速度を更に上げる。


 全てを終わらせて、家族と共に帰るために。


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