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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
六章 破滅の序曲と鈴の調べ
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メルの覚悟

連続投稿ラスト!

先に二話更新されてます

 

「やったか?」

「これで生きてたら人間じゃないよ」

 まぁ人間とは思ってないけど、と付け加えて言う。


 ヴィルマの姿は白煙に紛れて見えない、だが二人は同じ考えに至っていた。


 この程度では終わらない、そんな予感がしていた。

 そして予感は的中する。


「……随分と酷い事を言うね。私はこれでも人間のつもりだよ?」

 やけに響くその声と同時に、六色六尾の龍が白煙を散らしながらこちらへと迫る。


「『水龍神の咆哮』!!」

「『シャイニング・ギガブレイド』」

 私は火と水、ウィリアムはその他を光剣で斬り捨てる、アルバートに継がせたとはいえ、ウィリアムの力はまだまだ衰えていない。


「不思議な魔術だ、それとも魔法かな?私でも原理が全く理解出来ない、異世界の技術だろうか……化学の極致のようにも見えたから龍神にでも教えを請ったかな?彼らの知識量には目を見張るものがあるからね」

 その通り、あれは水龍神リヴァイアサンの知恵だ。


 煙の中から人影が出てきた。

 纏っていた白衣が消滅し、黒のインナーも焼け焦げ、細くて白い、いかにも出不精の研究者といった身体が丸見えになっていた。


「いやぁ、困った困った。想像以上だっ!!この私の腕を吹き飛ばすとはねぇっ!?」

 完全に無傷、とはいかなかった。

 ヴィルマの魔術の起点だった左腕は肩から消え、笑みで歪んだ顔も三割ほど黒く炭化していた。


「……あれで腕が吹き飛ぶ程度で済むのか。直撃したら勇者の俺でも多分死ぬぞ」

「まず前提が違う、私は人でありながら天使でも魔人でもある。身体強度のレベルが違うのだよ。……まぁ咄嗟に私も防御の体勢を取っていなければ消滅していたかもしれない。不本意だが認めようじゃないか、君達の意思は、力は、私に匹敵する」

 ヴィルマの右腕に緑の光球が産み出されるのを見て警戒のために身構えたがそれはこちらに向けられなかった。

 水のドームで囲われて見えない天空へとそれは投げられ、全く阻まれることなくそれは空へと飛び去った。


「故に私も本気でお相手しよう。……正直舐めてかかっていたことを謝罪しよう。しかし!改めて宣言する、私の目的を阻む者よ、私の全てをもって撃滅する!!大義のために!」

 ヴィルマの宣言とほぼ同時に大地が唸りだす。

 何か巨大なものが動いているような凄まじい地鳴りが響く。


「な、なんだ……この地震は!」

「クックック、さっきのは合図ですよ。私の支配下の者に外で暴れる許可を出しました」

「……チッ、始めから私達だけと戦うつもりはないってわけね」

「どうせ私の邪魔をするんだ。少しでも減らしておくのは賢明な判断だとは思わないかね?」

「戯れ言をっ!」

 なんの関係もない人々を平然と巻き込むヴィルマに憤慨するウィリアム。

 でも今更だ、誰かが守ればいいだけ。


「ウィリアム、行って」

「はぁ?だけど」

「私は一人でも大丈夫。みんなを守るのが勇者の勤めでしょう?」

 彼が私を難しい表情で見つめてくる。

 三秒ほどだったか、彼は諦めたようにため息をついた。


「……もし死んでたら一生許さねぇ」

「大丈夫だよ、私は強いんだから!」

 気丈に振る舞う努力はしたけど……上手くできた感じはしないなぁ。

 既に解いてあった水のドームから飛び去る前に私の頭に手を乗せて撫でてきた。

 やっぱり彼の大きな手、好きだなぁ……。


 絶対に勝たないとね。


「……よかったのかね?今生の別れをそんな軽く済ませてしまって」

「嫌だなぁ、そんな言われ方。なんで私が死ぬ前提なのかな?」


 来て、リヴァイアサン

『あぁ。本当にやるんだな?』


 うん、覚悟は決まった


「……?魔力が更に増している?君は何を」

「私はね。まだ覚悟が決まってなかったんだ」

「ふむ」

 私の刻一刻と増していく魔力の謎が知りたいのか、素直に会話に応じるヴィルマ。

 でもすぐにそんな悠長なことをしてる場合じゃなくなる。


「これは人の姿を捨てる術。私はこれから人でありながら水となる」

 ヴィルマと単独で戦う。


 そんな無謀な所業をなすためには何かを犠牲にしなければならない。

 出来ることなら『終焉の霧』で終わってほしかった。


『我が眷属よ。その献身に感謝を……、済まない、私に与えられる力は、もうこれくらいしかなかった』

 大丈夫だよ、無理を言ったのは私の方だから


 ありがとう、ずっと私を支えてくれて。





 さようなら



「っ!!?これは……まさかっ!!」

「私は水龍神の巫女。リヴァイアサンの命に等しい、この鈴を媒介にして龍神の魔法を使っている。それを……」

 私は左手に包み込んだ鈴を胸に押し当てる。

 微かに聞こえる鈴のしらべが鼓動と重なり、握る手を解くとそこに鈴は無かった。


 完全に私と同化したのだ。

 私は特別、水龍神と魔力の波長が合う。

 同じことをやろうとしてもやれる人は世界に何人もいない。


 なにせ、水龍神という存在を継承するに等しい行為なのだから。



 元々、リヴァイアサンは弱りきっていた。

 ヴィルマに狙われた時に世界に存在するための肉体を完全に失ってしまったらしい。

 微かに残った命を鈴という形に残していたのだった。


 私は龍でも、神でもない。

 継いでも永くは生きられないかもしれない。


 でも、

 それでも!



 それがどうした!!


 私は生きるんだ、生きるために戦うんだ!!


「……クックック、予想外だ、予想以上だ!!素晴らしいよっ!!初めて君を君個人として、私の研究対象じゃなく呼ぼう、メル・クロノ・シルヴァ!!まさかっ、まさか龍神・・を継ぐとは……、ああ、君を逃がして良かった!!」

 油断を誘うためだったのか、ゆっくりと再生していた左腕が瞬時に生える。


 私の身体は、既に硬さを失っていた。


「前回殺した龍神は龍だった。人の形をした龍神を殺すのは君が初めてだ!!」

「まるで勝ちが決まってるような言い方だね?」

「そうさ、決まっているんだ。この私が、私が決めたことは絶対だ!!今ここで君を殺…」

 言葉は続かなかった、一瞬でヴィルマの上顎から上が吹き飛んだからだ。



 この策を思い付いた時、言われたことだ。

『龍神としてなら我が眷属、君は最弱だ。だが君には人間・・としての積み重ねがある。事、人型同士での争いであれば、君は最強だ』


 龍神はその強大すぎる存在ゆえに、繊細な技術が苦手らしい。

 でも私なら、そこそこ長い間水魔術に特化した魔剣士として過ごしてきた私ならば。



 水を一瞬で圧縮噴射し、油断しきっている奴の頭を両断するくらい簡単なことだ。



 頭部が半分になったヴィルマはというと、勿論死んではいない。

 右腕が下顎にあてられ、頭が膨張すると一瞬で元通りになった。

 今までダメージを与えたことがなかったから知らなかったけど、恐らくはあると思われていた再生能力があることを確認できた。



 でも、その再生能力も無限じゃない。

 体質であろうと、魔術であろうと、無いに等しい縛りだろうと関係ない。


 再生限界まで殺し続ければいい!!


「……随分と野蛮な挨拶で、私に気持ち良くお話をさせ、ってくれないかな!?」

 今度は避けられ、反撃の雷撃が来たが私は身体を気体へと変え、それを避けた。


「っ!気体変化まで、面白いっ、実に面白い!水を殺したことはあっても水蒸気は殺したことがない!」

「先に死ぬのはそちらの方よ」

「ふむ。私はね、死んでも死にきれないんだよ」

「だからって死なないわけじゃない。生きてるんだもの、いつかは死ぬ」

「道理だね。それは古い考えだ、支配者には適応されないことを今ここで、教えてやろう、新たな水の神よ!!」


 勇者が離れた戦場。


 戦いは更に激しさを増していったのだった。




 ◇◇◇




「……これはどういうことだ」

 ウィリアムは雷を纏い、空を駆けていた。

 今、眼科には地鳴りの原因が動いている。


「山脈が……なんで動いてるんだよ!?」

 鳴動していたのは、トラスと東側諸国を分かつ巨大な山脈、グランバハムート山脈だった。


 遥か彼方、南端の地中から土石流を発生させながら生えたのは口のように先が二つに裂けた巨岩。


 その時、ウィリアムは知るよしもなかった。


 この山脈こそ、七龍神最大の存在。


 大地を司る神、地龍神『グランバハムート』だった。


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