人造勇者VS勇者&勇者の兄
お待たせしました
この話が上手くまとまらなくて……本日は連続投稿です
「アルバート!」
「父さん!」
「「『勇者の協奏曲』!!」」
二人の勇者が勇者魔術を同時発動、四人の身体に光が宿る。
「メル!」
「行くよ!『ウォーター・ギガウォール』!!」
まず最初にメルが行ったのはトリンとヴィルマの分断、俺とアルバートの側にはトリンが残った。
「二人とも、そっちは任せたよ!」
「あぁ、必ず助ける!」
ヴィルマの方にはウィリアムとメル、本当はこっちをアルバートに任せて俺もあちらに参戦すべきだろう、だがやむを得ない事情がある。
アルバートの成長が間に合わなかった事だ。
正確には戦闘に必要な魔術は揃っている、だが記憶に関する魔術は間に合わなかった。
俺達の目標はトリンを殺すのではなく救うこと。
記憶に干渉できるのは俺とウィリアムだけ、となると人数配分はこうなる。
悔しいが本来の勇者並みかそれ以上の実力を持つトリンを俺一人で相手取るのは殺すつもりでいかなければならなくなる、それでは目標を達成できない。
「アルバート、作戦通り基本的にお前に戦いは任せるぞ」
「オーケー、シオン!トリンに兄貴の力を見せてやるぞ!」
トリンの目には何も感情がない、ただ今の状況を分析しているだけの機械に等しい。
トリンの本来の意識は残っているのか、俺だけで記憶を取り戻させることは出来るのか。
そんな余計な事を考えてる自分にイラついたのか無意識に舌打ちをしていた。
(らしくねぇ事考えてんじゃねぇ!ドロシーに太鼓判を押されたんだ。俺一人でトリンの記憶を取り戻す!失敗しても何度もやれば良いんだ!)
幸い、この場にはそれぞれ桁違いの四人の魔力が共有されている、あまり無駄遣いはするべきではないが挑戦する魔力は山ほどある。
「……マスターとの分断を察知、魔力回路は遮断されていないため、問題なしと判断、正面敵対者の早期撃滅を優先」
「『ブレイブ・レイジ』!!『シャイニング・ランス』!」
「マスターからの魔力補助申請……承認、光上級勇者魔術『シャイニング・アスピレイション』」
光の槍と共にトリンに攻撃を試みるアルバート、しかしそれは大いなる光によって押し負けてこちらに戻ってきた。
「っはー!魔術想像はっや!あの規模は俺単独じゃあ何分かかるか分からないぜ?」
「……やっぱりあの魔術が最大の壁か」
『シャイニング・アスピレイション』
初代勇者と『金眼の賢者』の協力によって発動する共鳴魔術の一つ。
しかし、これは即座に発動する必要がある場合のみ。
実際のところ、膨大な魔力と時間を使えばウィリアムにもアルバートにも単独での想像は可能。
初代勇者と金眼の賢者が協力したのはこの魔術を現実的な想像時間にするためだろう、との推測がもう立っている。
それをどうやってか、トリンは数秒の想像時間で発動可能、連続での想像が可能かはまだ不明だが可能だと仮定して動く必要がある。
「フェンリル。『神殺しの爪牙』」
対抗策として俺が出した答えはこれだ。
魔剣フェンリルは神に相対した時真価を発揮する。
それを一人だけに共有する事が出来る。
トリンは神ではない、だがここには……ほぼ全ての龍神の力を掌握している敵がいる。
『勇者の協奏曲』によって魔力だけでなく戦場の状況も共有可能、つまりはヴィルマとも相対していることになっている。
「まだまだ行くぜぇ!!」
神殺しの刃はトリンに対しても真価を発揮するのだ。
アルバートの魔力は更に膨れ上がる。
勇者としての器の完成によってもはやコントロールがブレる事はない。
「『ブレイブ・リベレイション』からの……『シャイニング・スコール』!!」
全ての身体能力、魔力、魔術想像速度に更なる強化を重ね、引き起こすは光の豪雨。
「……『シャイニング・アスピレイション』」
対するは目映い極光、これで『シャイニング・アスピレイション』は連続使用が可能だと言うことが分かった。
それでは逆に考えよう、『大規模魔術に対抗する手段がトリンには『シャイニング・アスピレイション』しかない』という考えだ。
無論、他の可能性も多少は考えるべきだが説得力はある。
前回の戦闘でメルとの接近戦を拒んだ、との話があった。
そして今回、最初に寄ってきたアルバートに対しても虎の子のアスピレイションをぶつけて接近を拒否した。
トリンが今までに使った魔術は仲間の援護のための強化魔術、アスピレイションを始め遠距離系の勇者魔術、瀕死の状況を覆せるほどの強力な回復魔術の大まかに分けると三種類。
つまりトリンは『仲間を強化し、自分は後方から強力な魔術を撃つ固定砲台』といった戦闘スタイルだとシオンは考えた。
その考えに至ったシオンは『勝つならこのタイミングしかない』とも思った。
今のトリンの周囲に仲間はいない。
支配魔術の能力か、ヴィルマとの魔力共有は出来ているようだが、勇者最強に等しい攻撃魔術を使えることに比べればこれは大した問題ではない。
俺達も『勇者の協奏曲』で魔力の共有はしている、むしろ『条件は一緒だ、劣勢ではない』とプラスに考えるべきだ。
(一度、一度だけで良いから『シャイニング・アスピレイション』に勝れば……)
それが難しいから悩んでいる。
アルバート単身での想像では同じ魔術は時間がかかる。いくら想像出来ても相殺が関の山。
「おいシオン!どうするんだ!?アスピレイション連打で押されてるぞ!」
「ちょっと待て、今考えて…っ!」
雷鳴が幾度も轟き、一度下がってきたアルバートにも焦りが出始めた。
シオンがトリンの方を見ると、彼の目から涙が流れるように血が滲み出していた。
(魔力酔いの末期症状!?そうだ、勇者の血筋でもあいつは勇者じゃないんだ、何度もアスピレイションを撃って平気な筈が無い!)
強力な魔術を使い、急激に魔力が減ると身体のバランスが崩れる、魔力酔いと呼ばれる症状だ。
最初はただの体調不良だが段々と顔が土気色になったり、手足に血管が浮き出て目立ち始め、末期には全身の穴という穴から出血が始まる。
魔力が供給されたり、強力な魔術を複数回使っても無くならないほどの膨大な魔力量があるという限定的な状況でしか起こらない現象だがシオンは知っていた。
一度ドロシーがこうなっている所を見たことがあるからだ。
トリンには魔力酔いの末期症状の始まりが見えた。
それもその筈、シオンが知るところではないがトリンの体内では急激な魔力の消費とヴィルマからの供給が行われ、まだ発達の途上の身体は二発目の時点で悲鳴を上げていた。
トリンに身体の不調を訴える意志があれば勘づけた、だがそんな意思は現状存在しない、そのためハッキリと分かる末期まで気がつかなかった。
(アスピレイションの消費魔力がどのくらい、なんてのは想像できないが……、症状から言ってあと五回くらい撃つと不味いか)
シオンが策を練っている間、トリンは合計六回アスピレイションを使った、それでこの状況ならば同数回使えばトリンは死んでしまうかもしれない。
(クッソ、これも奴の想定のうちか?)
手駒を切ってメルに精神攻撃をするも良し、トリンを死なせたくないと悩みに悩んで無駄に魔力、体力を消費させるも良し。
悪魔のような所業だが戦法としては正しい。
現に、シオンは攻め手が思い付かず、時間と残りのアスピレイションの回数が消費されていく。
そうやってるうちに残り四回。
「アルバート!腹くくれ!!」
「っ!やっぱりそれしかないかぁ!?」
「あぁ、急を要する以上手段は選べない」
「じゃあしゃあない!」
アルバートが一度シオンの傍へと下がる。
それを見たトリンは疑問を浮かべることなく自身の最大火力にて二人同時の妥当を選択した。
「『シャイニング・アスピレイション』」
二人をまとめて凪ぎ払うように放たれる極光、対する二人の行動は……。
「よこせ!!」
「っ!!……来い、『虹の神剣』!!」
シオンが大量の魔力を柄にまとわせ、魔剣フェンリルをアルバートに投げ渡した。
即座にアルバートは『事前想像』によって『シャイニング・ギガブレイド』を発動、それは神殺しの魔剣の力と合わさり、極光を相殺する。
魔剣を投げ渡したシオンはアルバートを信じ、極光へと真っ直ぐ駆け出す。
その過程で二本目の魔剣顕現。
通常、魔剣は相当相性が良くない限り同時顕現は不可能、だが『虹の神剣』は厳密に言うと魔剣ではない。
シオンの心持ちに彼女が応えれば顕現する。
『今度もまた敵を斬り捨てる使い方ではないのか……、まぁいい、これは私にしかできまい。力を貸してやろう!!』
そして『虹の神剣』は応えた、持ち主の望む力を携えてここに顕現する。
極光を打ち消すアルバートの光剣はシオンを一切傷つけない、目映い光の中から現れたシオンの剣をトリンは一度は防げた、だが。
「悪いな、トリン。少し痛いかもしれないが我慢しろ!」
剣技の地力が、体格が、全てがシオンの方が上。
その一度でトリンが両腕で握る剣を上空へと跳ね飛ばし、彼の小さい身体の肩に剣を突き刺して地面に押し付け馬に乗るように腰に全体重をかけた。
「……『ロード・グラビティ』!!……今だっ、ルカ!!」
『分かっている!……魔術式を展開、魔力はこの場で一挙に充填……多少脱力するかもしれないが我慢しろ』
シオンはとてつもない力で下から逃れようとするトリンの抵抗を感じたが重力魔術によって二人には十倍に等しい重力がかかっている、簡単には抜け出せない。
『……全く、私を簡易的な魔術式代わりにするとは。同胞でもこんな使い方をされた奴は多分いないぞ?』
「御託はいい!さっさとしろ、文句なら後でいくらでも聞いてやる!」
『ッハ、言ったな?じゃあそろそろ不殺も飽きたから次回は思う存分斬れる相手を所望する。それ以外で呼ぶなよ?』
「ああ分かった、だからさっさと」
『終わったぞ、いつでも構わん』
シオンが「嵌められた」と気づくには少し遅かった。
だがこんな使い方は金輪際しないだろうとも思ったため、あまり深く考えないことにした。
今はそれよりも重要なことをすべきだ。
「戻ってこい、トリン!…『リコレクション』!!」
剣を伝って光がトリンへと流れ込む。
それに従って段々とトリンの抵抗が弱くなっていく、警戒しながらもシオンは重力魔術を緩めていった。
「……ない」
「トリン?」
「わかんないわかんないわかんないワカンナイワカンナイ……!!」
「しっかりしろ!自分を保つんだ!トリン!」
うわごとの様に呟きながら自分の頭を掻きむしり始めたトリン、それを止めさせようと腕を掴むが単純な力ではシオンは勝てない。
「それじゃあ駄目だ、シオン」
トリンを撫でるように側方から手が伸びてきた、その手は重度の火傷のような爛れた状態だった。
「お前……その手は」
「俺はシオンの作戦に乗った。この傷は承知の上でできた傷だ」
シオンは分かっていた、ただでさえ扱いが難しかったフェンリルを適合していない者に一瞬でも持たせたらどうなるか。
だから誤魔化そうと自分の魔力を大量に纏わせたが流石に騙せなかったらしい。
「名誉の負傷って言ったらそれはそれでお前が怒りそうだがトリンを助けるためだ、剣が全く握れなくなるわけでも回復魔術を受け入れないわけでもない替えの利く犠牲だ。惜しくねぇよ」
優しく撫でられたトリンは段々と腕の動きが小さくなる、次第にその動きは止まり、脱力したように頭から外れる。
「トリンは俺より小さかったから、思い出せなくても仕方がない。ただ無事で良かった、それで良いじゃねぇか」
「そうだな」
トリンは目を瞑り、ゆっくりと息をしていた。
魔力酔いの後遺症が残らないといいが……、とりあえず今は
(この壁が維持されてるってことはメルはまだ戦っている。加勢したいところだが……)
傷付いたアルバートとトリンを放置することは出来ない、二人が今襲われたら抵抗の間もなく殺されてしまうだろう。
それだけは許せない。
水の壁は既に水のドームと化して勇者夫婦とヴィルマの三人を封じ込めている。
未だそれは壊れる様子はない。
これが壊れたその時にまだヴィルマが生きてたら……。
(いや、そんな事は考えるな。二人が負ける筈がない)
何せ片方は勇者そしてもう一人は……
俺が思う最強の魔術師と最強の二刀剣士、その両方に師事していた最高の母親なのだから。