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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
六章 破滅の序曲と鈴の調べ
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師弟対決

 

「食らえ!!」

「……」

 雷を纏う連撃を放つハルク、それを受けるのは酷くつまらなそうな顔のソウジ。

 むしろ後方支援に徹するロイの風魔術の方を注視しているような、そんなうわの空でハルクの剣撃の対応をしていればその対応されている側も薄々気づく。

 はじめは気のせいだと思った、だから戦いを続けていた。

 それももう限界だと言わんばかりに魔力と力を強くした一撃でソウジを弾き飛ばした。


「ふざけた真似してんじゃねぇぞ!?」

「……なんのことだか」

 怒声に対する返答は何の感情もないような平坦な声……いや、ハルクにはどうにもバカにされているようにも聞こえた。


「俺達の邪魔をしようってんだ、そっちも真面目にやりやがれ!」

「ハハ、心外だなぁ。俺は至極真面目ですよ。真面目に師匠に割くべき力で対応している」

「……あ?じゃあなんだ、こんな手抜きで俺を抑え込めるってか?」

「今の腑抜けてる師匠ならこれで充分かと」

 その言葉に食い気味にハルクは雷と化し、ソウジへと斬りかかる。

 鍔迫り合いの状態で今度は逆にソウジがハルクに向けて言葉をかけ始める。


「無意識なのかは知らないですが……、真剣だっていうなら温存を考えるなよ、雷撃閃はどうした?いつ使う気だ?まさか使わないでも勝てるとか思ってないでしょうね?」

 闇属性の魔力が剣から滲み出る、今回吹き飛ばされたのはハルクの方だった。


「舐めてんじゃねぇぞクソ師匠がっ!!覚悟が半端なんだよ!?」

「なん、だと……!?」

 半端だと言われて黙ってられるハルクではない、纏う雷の勢いがさらに増す。


「ああ、半端も半端、この場で一番覚悟が決まってねぇのはあんただよ。俺だって相応の覚悟もって邪魔しに来てんだ。誰も犠牲にする覚悟ができてねぇクソ師匠にここを通る資格はない!」

「だから、押し通るって言ってんだろうが!」

 三度激突、しかしこれも『雷撃閃』ではない。


「ほら、またただの突進。自覚がないのが酷いな……それとも気づかないフリか?」

「ぐっ、黙れぇぇぇ!!」

 のどを嗄らしそうな声を出すもそれは結果に反映されない、最早軽蔑するかのような眼でハルクを見つめるソウジが終わりを告げる。


「寝てろよ、師匠。起きた頃には……きっと全てが終わっている」

 強く握っていた筈の剣が手から離れる、それを追ったハルクの目が次に写したのは……。


 峰側で刀を振り下ろすソウジとそれを剣で受けるロイの姿だった。




 ◇◇◇




(ああ……、やっぱりハル君じゃダメだ)

 ハルクと付き合いが一番長いロイは分かっていた。

 いざという時ハル君は人との争いが出来ない事を。

 彼が無類の強さを存分に発揮できるのは魔物に対してだけだということを。


 ハル君が仲間のために仲間を殺すなんて真似が出来ない事を。


「……どいてくださいよ、ロイさん。クソ師匠に引導を渡すいい機会なんですから」

「師匠のことはもっと敬った方がいいよ?ソウジ君。第一僕も少しは君に教えたんだからそんな他人行儀に接されると悲しいなぁ」

 表向き、ソウジ君に冒険者の基礎を教えたのはハル君だ。

 しかし、僕もその場にはいた。

 だから少しは僕が教えたこともある。


 主にハル君の弱点とかふざけたことだったけど……

 たまには真面目なことを教えた。

 だから多分薄々気づいてる。


「ハル君、先行って」

「行かせる訳ないでっっ!?」

 しょう、とでも続けるつもりだったんだろうね。

 でも残念、既に魔術は完成している。


 ソウジ君は今、上空へと吹き飛ばされていた。

 何も対策をしなければ帳にぶつかる、多分その前には何かしらの手段で風から逃れて降りてくるだろう。


「ハル君これ。多分五秒くらいなら無理矢理開けれるだろうからそれでメルさんのとこ行って」

「だけどこれは!」

「ソウジ君の事は任せてよ。相棒が信じられない?」

「……分かった」

 ハル君に渡したのは空間魔術を一部分だけ無理矢理破壊するという黒い鍵型の魔道具、隔離された時に隙を見て脱出するためのもの。

 こんな膨大な魔力で構成された空間魔術でも僅かな時間くらい壊せる。


「……この場でクソ師匠を先に行かせるのがロイさんの最善ですか?」

「どうだろうね、でも間違っちゃいけないよ。僕が目指してるのは最善じゃなくて最良だ」

 上からゆっくりと降りてくるソウジ君、彼が選んでるのは自分が苦しむことを厭わない最善の道。

 だけど僕は違う。

 僕はそこまで努力できない。


「『最良の風魔術師』、俺はあんたのようにはならない」

 僕の帝国での異名をしかめた顔で言いながらソウジ君は刀を構える。


 そう、最高でも最善でも、最強でもない。

 最も良い風魔術師だ。


 別に蔑称でもなんでもない、だけどソウジ君が気に入ってないのは僕の生き方を知ってるからだ。


「救える命を救う努力もしないで何が最良だ、あんたには才能があった、だけどそれだけだ」

 帝国で起きたとある事件で彼は一人の少女の命を目の前で失った。

 しかし、僕が死ぬ気で動けば助けられる命だった、それだけだ。


 最良の道を迷わず選ぶ、最善最高の道を探さない僕を彼は失望の目で見た。


「君のような綱渡りの人生は、僕には辛すぎるんだ」

「じゃあ俺の最善とあんたの最良。どっちが正しいか、ここで決める」

「強さと正しさは関係ないと思うけど……、まぁそれで君が満足するならやぶさかではないよ」

 それぞれ闇と風を纏う剣が相対する。

 最善と最良の戦いが始まる。

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