鈴のしらべVS最強
申し訳ない
『あと一人』の前に一話割り込みました、順番に書いてないからこんなことが起こるんだよ……、しっかり確認しなさい私
詫びとしてすぐに次出しました
「行くぜオラァァァ!!」
「援護は任せてよ」
お互い剣を構えるとほぼ同時にまずハルクが突っ込む。
その後ろから風を纏ったロイが続く。
それに対してソウジは軽く魔力を帯びた剣でハルクの猛攻を軽々と返し続けていた。
攻勢に移ることはないが目的としては足止めなのだから当然。
じゃあその余裕、無くしてあげる。
(『暴食』、識別。ソウジとこの結界を壊すわよ)
『それなら範囲攻撃より剣技の方がいいね。対象が少ないし結界破壊も一点突破の方が早い。『果てなき暴食』は燃費も悪いしね』
(それもそうね。まだ魔力は温存すべきだったわ)
双剣に黒が纏わり付く、一方ソウジは……ミストを見ていなかった。
(私じゃなくて二人を見てる……?まさか、)
『左だ!』
グーラの声に反応し、左を向いて剣を交差して防御の体勢を取った。
しかし、来たのは衝撃ではなく剣を巻き取ろうと大きくしなった鎖だった。
「この鎖……あぁ、そういえばあなたも今帝国に居たわね……アリシア」
「やっほ、ミスティアちゃん」
鎖の起点に立っていたのは人形のように無表情の女性、アリシア・ツヴァイだった。
「どうして?とは聞かないわ」
「ん?説明ならしてあげるよ?メルちゃんはソウジ君だけでなく……って、わわ!!」
説明の途中で鎖を消すアリシア、何故なら『暴食』がそれを喰らおうとしたため。
『んー、ダメだ、あれは。ボクの力じゃ喰えない。魔道具の中でも神性を帯びてる方だ』
(そう。なら)
直接叩くしかないわね。
「悪いけど、手加減は出来ないわよ?」
「だよねぇ~。じゃあ私も、ちょっと頑張るとしますか!」
アリシアが本を取り出し、何かを書きなぐる。
すると周囲に大量の火球、氷錘、風刃、光矢、闇弾が発生する。
「九罪の魔人最強格と名高い暴食の魔人の許容限界。私凄い興味あるんだよね」
「幾らでも試しなさい、先に限界が来るのはそっちよ」
◇◇◇
冒険者の間で度々話題に上がること、それが『誰が一番強いか』、だ。
少し前までは鈴のしらべの二人の名が挙がっていた、本部の守護者、眠れる災厄、ミスティア・サクローネ。そして現在明かされた真の名は元副聖騎士長ミスト・シルヴァリエ。
そして神器と魔剣、特殊な魔導具を複数所持する謎の魔術師アリシア・ツヴァイ。その真の名は二代目勇者、人間の身体を捨てた亡霊勇者、アリシア・クロノ・ツヴァイ。
ソウジの黒龍神討伐後は彼が一番強い、とされている。
しかし、だ。
ここに偶然とは言え三人の最強が揃った。
「面白いとは思わないか?雷龍神」
「……チッ、テメェが含まれていないのが不思議でならないがなぁ?」
遥か上空、帳を見下ろすのは雷の神と皇帝、同時に勇者達の戦いも見物していた。
「俺?俺はただの観測者、ただお前が邪魔だったからとりあえず手駒に加えただけだよ。便利だしな?」
「神を『邪魔だったから』のひとことで半殺しにするテメェはイカれてるって言っておく」
「失礼な」
◇◇◇
「あっぶな!『ミョルニル』!!」
魔術を撃ち続けるアリシアだったが『暴食の魔人』によって逃げ場を無くし、宙に逃げた。
そこで丸腰だった筈のアリシアに斬りかかるミスティアだったが瞬時に顕現した雷槌によって逆に弾かれる。
「……やっぱりめんどくさいわね、それ」
「私の手持ちの中ではパワーにおいてこれ以上の物はないからねぇ~、そう簡単に対策できるとは思わないで欲しいなぁ?」
アリシア所有の彼女自身が『神代の神器』と呼ぶ六つの魔道具はいずれも強力、その中でも『ミョルニル』は単純な力比べでは右に出るものはあまりいない。
同じ条件でかち合えば負けることはない武器なのだ。
ミスティアも武技では全く劣っていない、しかし正面衝突すればアリシアが必ず勝つ。
しかし、アリシアも決して余裕があるわけではない。
残りの魔道具は一つを除いて防御系やサポート系の『グレイプニル』『ブリージンガメン』『スヴァリンシルド』『エアリアルファントム』の四つ。
(正直手詰まりなんだよなぁ、どうやら吸収限界にはまだまだ遠いみたいだし)
絶えず魔術を撃ち続けて既に十分を越えていた。
しかし暴食の黒は未だに元気一杯、本当に限界があるのか疑うレベルだった。
(しょうがない、お互い今後に影響が出る怪我をしない内に……終わらせよう)
◇◇◇
アリシア・ツヴァイ。
メルとウィリアムが冒険者活動を休止している間に新規加入した女性。
それまで全然ギルドで見かけたことがなかったのに、Aランクとして活動しているところを見たことが無いのにSランク。
仲間になってからもおかしいことが多かった。
そもそも彼女自身に表情というものが存在しないし、いつの間にかいなくなっていていつの間にか隣にいる、何てことも多かった。
そうして私は幾つかの可能性を考えた。
まず彼女という存在が複数いる可能性。
彼女は……なんというか作り物めいた見た目をしている、白い肌に、一切癖の無いストレートの長い髪、男が庇護欲を掻き立てられるようなちょうど良い身長、神が自分の理想を詰め込んだような人形、といった感じか。
彼女自身が神器で、彼女という人格は本来は存在せず、複数の身体が用意されてるだけの人形なのではないか?という説だ。
だがこれは流石に荒唐無稽過ぎる、もう一つの説の方が有力だ。
彼女はあの本を除いて六つの魔道具を持っているという。
だけど、私が見たことがあるのは『ミョルニル』『グレイプニル』『スヴァリンシルド』『ブリージンガメン』の四つ、残り二種については一度も見たことがない。
逆に考えた、『日常的に使っている魔道具が一つくらいあるんじゃないか』と。
例えば……彼女の一張羅であるあのドレス。
あれが例えば空間転移能力や姿を隠蔽する能力を持っていたらどうだろう、彼女の動きにも説明が付くかもしれない。
ヤマの国から一時帰還するには空間転移陣で本部へと戻る、だがそこからユウマ・エクスベルクの所へ行ってゲイル・ストゥーピドを捕縛するには人の足では遠すぎる。
急に隣に現れたように見せたのは隠蔽能力を直前まで使い、隣に着いた時点で解除しているから。
彼女が勝負を仕掛けてくるとしたら……
誰も犠牲にならない今のうちだ。
(暴食)
『ん?……ほうほう、なるほど、ね。いいよ、キミの策に乗ろう』
策を脳内で思い浮かべ、共有すると暴食も勝算はあると考えたのか乗ってくれた。
なので、策のために魔力を暴食へと捧げる。
黒い波が激しく荒れ狂う。
「これは……本気なの?」
『果てなき暴食』
私はこれを初めて鈴のしらべを対象に指定して放つ。
「分からないよ、ミスティアちゃん。君はメルちゃんを救うためにメルちゃんの仲間を殺すの?」
分かってないわね、アリシア。
「私は……メルさえ居れば他に何も要らないのよ!!」
「……そっか、それなら仕方ない」
アリシアはミョルニルを消した。
そして二つの魔道具を展開、『ブリージンガメン』と『スヴァリンシルド』だ。
「悪いけれど」
『アハハッ、そんな防御じゃ』
「(ボク)私達の攻撃は防げない!!…全てを喰らえ!!『果てなき暴食』!!」
黒の荒波がアリシアを二種の防御膜ごと包み込んだ。
そして私は策を実行する。
勝負はこの一瞬で決まる。