鈴のしらべは動き出す
本日二回行動
こちらは一話目
「ふざけんなっ!!」
ハルくんが卓を乱暴に叩く。
理性はまだあったのか壊すまでには至らず、それでも拳の跡がくっきりと残っていた。
「これの隠蔽には皇帝陛下、アリシア、ソウジ君が関わってるっぽいね。だからこの三人は頼れないよ」
僕が普段から集めてる情報に入ってきた最新情報、勇者一家の四人が誰にも言わずにヴィルマ・アルファリアとの戦いに挑む、といった内容。
無論、僕達は何も言われていない。
「……チッ、ロイお前はどうする?」
「僕は……どうしよっかな」
相手はたった一人でミスティア、コーネリア、メル、ウィリアムと戦い、途中で逃げたものの凄まじい戦闘力を持つ事が分かっている。
ハルくんは絶対にその場に向かう、ミスティアも……黙り込んでるけど絶対に行く筈。
「……私はもう戦えない……」
キアナちゃんはカナデちゃんがいなくなってからずっとこんな感じ。
アーネストもギルドには在籍してるけど何処かに行ってしまった。
アイン、アリシアはギル・フレイヤ、そもそもメル達の協力者だ。
となると……。
「ここにいる三人だけで、助けに行ってなんとかなるレベルの相手なのかな?そのヴィルマって人」
「……関係ねぇよ」
「私達はメルと共にある。そうやって『鈴のしらべ』は創設された」
んー、創設メンバーの間ではそうらしいね、でもさぁ。
僕、まだ死にたくはないんだよね……。
冷めてるって思う?でも命ってそんなに簡単に賭けに出せる物じゃないでしょ。
どんな博打打ちでも最初に犠牲にするのは身銭であり、自分の身では無い。
今回は最初っから命懸けの戦いになる。
「ハルくん、よく考えて。ソウジ君が協力してるんだ。彼が僕達の前に立ちはだかる可能性が高い。そのとき、君は彼の事を斬れるの?」
「……斬れる」
答えるまでに間があった。
ダメだ、ハルくんに弟子は斬れない。
「ソウジが来た場合、私が相手をするからあなた達は先に行きなさい」
ふぅん?我先に行きたい筈なのにそうするんだ、となるとハルくんが斬れない事はミスティアも想定済みかな?
(でも僕ならこの三人が来ると分かってて一人で相手取ろうとするソウジ君じゃないと思うんだよね……)
よし、決めた。
僕も行こう。
そしていざとなったら……。
(僕がソウジ君の相手をする……、それが多分最良の道だ)
最高では無い、そんなもの求めてたら幾つ命があっても足りない。
僕はソウジ君にはなれない。
最高でも、最善でもない。
最『良』でいいんだ。
僕が生きて、ハルくんが生きて……世界が終わらなければそれでいい。
「よし、じゃあ三人で行こうか。幸い場所はこのギルド本部からそう遠くない」
「嘘の場所に案内するなよ?」
「あはは、ミスティアがすごい睨んできてるから冗談でもやめてくれる?ハルくん」
◇◇◇
「やぁ、君が最近俺の部下を殺してくれた男かな?」
「あ?」
ギル・フレイヤ北部、エルフが隠れ住むと呼ばれている浄魔の森。
そこに立つのは赤銅色の髪にボロボロの服を着た男と森の中に溶け込むような緑に統一された先が尖ったいかにも魔法使いな帽子とローブの男。
「ふん、雑魚の所属なんて知るかよ。お前は少しは楽しめそうだけどなぁ?」
「ハハッ、おいおい……お前は誰の国で暴れてると思ってるんだ?」
赤銅の髪の男は一瞬、自分の首が飛ぶ錯覚を見た。
すぐに地面に額が付くほど屈み、横目で周囲を窺うと木々が両断されているのが見えた。
「あれ、流石に速いな」
起き上がり、再度男を見るとローブの中から左腕が出ていた。
その左腕は人差し指、中指を立てた状態で真横を向いていた。
恐らくは指先から斬擊を飛ばして男の上半身と下半身を周囲の木ごと斬り分けるつもりだったのだろう。
「……テメェ、何者だ?」
「通りすがりの魔術師、って名乗ろうと思ったけど思ったよりお前は使えそうだから名乗ってやるよ」
ローブの男は帽子を脱ぎ捨てた。
「アイン・ルーレイン。この国の皇帝だ」
「アイン……?ははぁ、そういうことか!」
ニヤニヤと笑う男にアインは少し顔をしかめる。
「何が可笑しい」
「いや、あのひよっ子が随分と偉そうに自信満々な態度取るようなったなぁって思っただけだ、気にするな」
「……チッ、名乗らなきゃ良かった。トカゲ共め、存外に記憶力が良いようだな」
「そりゃあ神だからな。俺は強い奴と強くなる見込みのある奴は覚えてる。……そうだ、テメェらの王様、結局何処行ったんだ?」
「少し口数が、多いぞ!!」
「まぁまぁ落ち着け、何年ぶりだろうなぁ、知り合いと話すのは」
再び木々が切断、しかし男は既にアインの後ろに赤い光を纏いながら立っていた。
「来るって分かってりゃあ対応するのは簡単だ。龍舐めてんのか?」
「そっちこそ人類舐めるんじゃねぇぞ」
アインが右手の指を鳴らすと同時に男の身体に袈裟斬りに斬り裂かれる。
しかし、
(チッ、流石に硬いな。『雷』はゴミ耐久だった筈だが流石に龍神だな)
「おー、傷を貰ったのも何年ぶりだ?俺」
傷口は浅く、それもすぐに塞がってしまった。
「お前、そのままでやりあう気か?」
「あぁそうだ。テメェは確か的がデカイ奴の方が得意だったよなぁ?『龍化』してわざわざ当てやすくする理由はねぇ」
拳を激しく打ち鳴らす、その度に周囲に赤い雷光が飛び散る。
『赤雷』それを扱うことを許された生物はこの世界でただ一種。
雷龍神エレベリオス。
七龍神の中で最も速く、最も戦闘を好む龍神。
しかし、敗北を認めた相手には従う、種族問わず強きものを好む、といった他の龍神にはない特徴があり一番人間社会に溶け込める……かもしれない龍神なのだ。
「テメェはあの王とは違う。俺には勝てねぇよ」
「お前が王を語るな。俺と違って折れなかった王はな……この世で最も偉大だったんだ」
「ならテメェが証明しろよ、俺が認めた王が未来へ託したっていうテメェ自身の力でよぉ!?」
人知れず、初代勇者と雷龍神は衝突した。
多分二時間後に二話目です