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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
六章 破滅の序曲と鈴の調べ
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勇者の試練

 

『子供達は俺達から離した方がきっと安全だ』

 膨大な量の記憶が無理矢理脳に叩き込まれる。

 そんな中、意識がハッキリし出したのはもう最後の記憶の辺りだった。


『でも、それって折角産まれてくれたのに捨てるってこと?』

『違う、何処か他の大人の元へ養子として出すだけだ』

 そんなの詭弁だ。

 その証拠にまだ幼いシオンが、幼いながらも二人が話す言葉を理解しているのか頭を抱えて怯えているのが見える。

 養子に出すなんて優しい言い方、言い換えれば『もう育てられないから別のところの子供だったことにする』だ。

 俺は……恐らくはまだ何を二人が言い合っているのか理解していないのだろう。

 トリンはまだ赤子だ、パパとママくらいは言えるかもしれないが全ての言語を正しく理解する、なんて行為出来る筈がない。

 見るに主導はウィリアムの方、メルは否定していたようだが最後には『子供の安全のため』という言葉で折れた。


『……ごめんね、シオン、アルバート、トリン。ずっと一緒に皆と穏やかに暮らしたかった』

『……始めるぞ』

 そうして意識は闇に沈む。

 そこからは俺が知る日常、本来の親ではない親と共に過ごし、ある時両親だと思っていた二人が殺され、ドロシーに拾われる。




 ◇◇◇




『勇者とは、『勇』ましき『者』を指す言葉』

 声が聞こえた。

 両親でも兄弟でもない、しかし何処かで聞いたことがある声が。


『だが勇ましき行動は時に、無謀とも捉えられる』

 力の無い勇敢は無謀、理解している。

 だから勇者は人類最強に近しい力を持っている。


『……ふん、思ったより利口らしいな。今代の勇者は。目蓋を開け』

 無機質な声に感情が宿る。

 言われた通りに閉じていた目を開くとそこは一面真っ白な空間が広がっていた。

 正面に黒い影が立つ。

 何処が腕だか分からない、全身を覆うローブでも着ているのだろうか。


『ようこそ、記憶を取り戻した勇者。お前に試練を与える』

 試練?それは記憶を取り戻した後に


『リグレッド、という男がいるだろう』

 記憶を戻すために協力してくれたな。


『奴は試練の番人と呼ばれる者。奴が勇者の試練の鍵を持っている』


『そして奴は鍵さえ持ってれば俺と初代皇帝が創ったこの地、ギル・フレイヤの何処ででも勇者に試練を課す事が出来る』

 ……まさか!


『そう、もう既に試練は始まってる。外の様子を少し見せてやろう』

 影が指を鳴らす、すると白い空間に穴が空く。

 目の前に立つのは心配するような不安げな顔のシオン。

 どうやらこれは表に居る俺の視界らしい。


『さて、お前は何人死ぬ(・・)前にここから出られるかな?』

 は?って!シオン!!


 シオンの顔へと俺の拳が迫っていた、それは雷を纏っており、当たればただじゃすまない。


『声は届かない、お前の意思でここから抜け出すんだね。……とりあえず、一人……?』

 影の声に疑問符が浮かぶ。

 何故なら拳を顔で受けるかと思われたシオンが緑色の光を挟んでその手で受け止めていたからだ。


『おかしい、なんだあの光は』

 ハハッ、お前わかってねぇな。


『何?』

 シオンはなぁ。


 俺のたった一人の兄ちゃんで、俺が一番信頼してる強い人なんだよ!!

虹の神剣(アルカンシェル)』を顕現させるシオンの声と同時にアルバートが吠える。


 その気迫に押されるように影は後退りをする。


『……ッハ、ここで未確認の神器?やっぱり人類って、面白いわ』

 影に腕が生える、左手には無数の糸のようなもの、右手には腕ほどの長さの剣。


『試練は簡単だ。俺に剣で一撃入れろ。魔術だろうと魔法だろうとなんだって使って良い。だが勝利条件はあくまでも剣での一撃だ』

 単純明快で助かるぜ。


『それと、ここでは何度死んでもお前は死なない』

 アルバートは剣を抜いて最速の動きで影へと斬りかかった。


『ただし』

 しかし、その剣は空を斬り、首には糸が絡み付く感触。

 瞬間、視界の上下は反転し、自分の胴体を逆さに見る結果となった。

 そして視界は暗転する。


「プハッ!ハァハァハァ」

 暗転した視界が戻り、再び白い空間。

 アルバートはいつの間にか地面に横たわっていた。

 ボヤけていた自身の声が、鼓動がちゃんと自分の身体から感じられるようになった気がする。


『説明の最中に斬りかかってきたのは良い判断だ。しかし真っ直ぐ過ぎるな』

 すぐに起き上がると真後ろで影は胡座をかいていた。


「俺は……死んだのか?」

『そうだ。とりあえず一回、な。そして多分何度もこれを経験することになる。死因によって様々だが今回は早く死ねるようにした。この意味が分かるか?』

 アルバートは何となくだが想像がついた。


「何度でも死ねるが毎回現実で死んだ痛みを忠実に再現されるってとこか?」

『正解だ』

 なんと残酷なことだろうか、ここは勝たなければ幾度も死ぬ痛みを味わうことになる空間だった。

 それに加えて早く出なければ現実世界でも犠牲が出るかもしれない。


「……でさぁ、今気づいたんだけど。ここってなんか魔術の発動を妨害してるか?」

『気づいたか?精神世界って特殊な事例だけど時や命に関わることやってるんでなぁ……あまり小さい魔術はこの世界を構成してる魔力に弾かれるんだ』

 空間を濃い魔力が満たしてる場合はそれが魔術発動の助けになる……が、それは空間を満たす魔力との相性が良い場合。

 現在空間に満たされてるのは時と回復と想定。

 俺にはその二属性は使えない、使えても攻撃にはあまり向かない属性のため、他属性を使う必要がある。

 その場合は満たされてる濃い魔力に邪魔されないためにこちらもかなりの出力で魔術を使わなければならない。


『具体的に言うなら、旧魔術形態の上級以上、まともに使えるのは最上級だな。諦めた方が早い』

「『サンダー・ギガランス』!」

『は?』

 影への回答は豪雷の槍だった。

 間の抜けた声を出した影だがしっかりと槍は回避していた。


『おい、聞いてたか?』

「魔力放出が邪魔されるんだったら」

『あ?』

 アルバートの全身から膨大な魔力が放出、周囲に雷と光の槍、剣が次々と産み出されていく。


「そしてこの感じ、魔力の放出は邪魔されるみたいだけど所詮は『精神世界』。魔力の制限は無いっぽいなぁ?」

『……お前、まさか』


「さぁ、我慢比べだ。俺が死にすぎて狂うのが先か、お前が俺の魔術を食らって動けなくなるのが先か!!」

 この空間におけるアルバートの有利な点は死んでも死なないこと、普通の人間は何度も死の痛みを受けれられるほど強くない。

 だが勇者という存在は、時に神をも越える力と並外れた精神力を発揮する。


『いやいやいや、それ反則……』

「剣での攻撃が当たるくらい鈍くなった時がお前の最後だ!!」

 アルバートは外の心配を一切していない。

 頼れる兄がいるから、俺を捨てたが今はもう向き合ってくれる両親がいるから。


 そして……


 救うべき世界のために勇者の力が必要だから。


「お前を越えて俺は力を手に入れる!」

『……あー、もう分かった分かった』

 正面に居た筈の影の声が背後から聞こえた。

 口から熱い液体が溢れ出る、胸からは血を纏った銀の刃が生えていた。


『はい、二回目。さて、俺を越えるんだったか?』

「……あぁ、いつまでも絡め手が通用すると思うなよ?」

『何回死ぬまで壊れないか、見物だな』

 光が、雷鳴が降り注ぐ。


 アルバートの試練はまだまだ続く。


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