報告とこれから
主観者 ユウマ・エクスベルク
「さて、気を取り直して‥‥報告します」
さっきの様子からソウジは意外と挑発に乗りやすいようだ。普段からかなり意識して抑え込んでいるみたいだ。
まぁここは聞かれたことだけ答えることに専念して基本的にはソウジに話してもらおう。
「今回の聖魔の古戦場に現れた魔人は本人の名乗りと鎧に刻まれたホーリヴァルト聖教国の紋章から言って、千年前に姿を消したという最強の聖騎士王、ヘクト・ギルティブレンでほぼ間違いないです」
「やはりか‥‥‥そこで現れるとしたら魔人王か聖騎士王が一番あり得るものだからのう」
「はい、他にもそこで亡くなった者もいるでしょうがそこまで気にかけなければならない実力者はいないですからね」
ヘクトは魔人となっていたのと同時に顔の半分が霊体になっているなどの死霊の特徴もあった。
死霊はこの世に未練がない限り発生しない。それも自我が残るほどの強い未練がなければあのように強靭な体など得ることが出来ない。
「して、戦闘結果はどうなのじゃ?」
「山の上から落としました。あそこはグランバハムート山脈の山々より標高は低いですが死亡するには十分な高さでしょう」
確かに普通の生物なら山の上から落とされれば死ぬだろう。
しかしまだ奴は生きている気がする。
「ん?ユウマ君。君は納得していないのかね?」
表情に出てたか。まぁ一応可能性として提示しておくか。
「いや、あれだけの身体能力があるからまだ生きててもおかしくない。まだ死んだと確定するのは早いと思っただけだ」
「ふむ、なるほど。ソウジ君その辺はどうかね?」
「可能性としては低くはないでしょう。ですがあれだけダメージを与えればすぐに暴れることはないでしょう。
一応周囲に警戒を促す必要はあるでしょうね」
やはり考えてはいたか。それも当然か。
実際に戦ったあいつとリュート兄さん達が一番分かっているだろうから。
「それでは次は冒険者登録や昇格などについて話そうかのう」
お、俺に関することか。
「ソウジ君はユウマ君を推薦する気持ちに変わりはないかね?」
「えぇ、逆に今の人員不足の状況下で低ランクで遊ばせているには惜しい人材だと思います」
「なるほど、ではユウマ君。君をCランクまで上げる権限を私は持っている。どうするかね?」
ん?Cランク?
「推薦でも最高はDランクじゃなかったか?」
「あぁ説明不足じゃったな。魔人や神格級の撃破、撃退、生還した者には一つランクを昇格する資格を持てるのじゃ」
なるほど、これも一種の特例か。
まぁ高いランクから始めれるのならそれだけ早く兄さんに追い付ける。
「Cランクまで上げて欲しい。その場合もソウジがしばらく付いてくるのか?」
「無論じゃ。推薦者ということに変わりはないからのう。もっともこれは前例にないことじゃが、まぁ過去にこだわり過ぎはよくないじゃろう」
「あぁそれとユウマ君。君に忠告じゃ」
「なん!?」
俺に向けて殺意が降り注ぐ。剣を抜くことも出来ない。それほど圧倒的な殺意だった。
明確に自分がただの獲物であると示されたように感じた。
「君が少し世間知らずであることは分かった。ソウジ君に関しても彼から許可を出したのだろう。だが
『君は目上の人間に対する態度が成っていない』」
未だ殺意は止まないため俺は口を開くことも出来ない。
「わしは一応ギルドマスターなのでのう。少しは立場を弁えてもらわねば他に示しがつかないのじゃ。無論ソウジ君のように確かな力や実績があるのならば良い。じゃが」
「 『君はまだ何も成していないしこれから先に成すかも分からない』そんな人間が言葉だけでも敬意を持って接する態度を持たないのを不快に思うものもたくさんおるのじゃ。気を付けるのじゃぞ?」
最後の一言で殺意が一瞬で消え、元の好好爺に戻った。
「‥‥‥分かりました‥‥」
「うむ、それで良い。君は今日からCランクの冒険者じゃ。良く励むが良い」
‥‥勝てる気がしなかった。これが現役時代に『最恐』と呼ばれた人物の殺意か。いつかは俺もこれと同等以上の実力を得なければ‥‥
とは言え俺の態度が悪かったのは分かった。
確かに俺は村での生活が長過ぎて年上に対する態度を覚えていなかったかもしれない。これから先は色々な人に出会うだろう。先に教えてもらえたのは良かった。
今後は良く気を付けることにしよう。
「次にリュート君達じゃな。君たちはSランクに昇格することが可能になったのじゃが‥‥どうかのう?」
そうか、俺が昇格出来るのだから兄さんのチームも昇格出来るか。
結局差は詰まらないようだ。
「昇格の件は今回は辞退させてもらいます」
「ほう、なぜじゃ?」
「俺達はまだSランクの人達と比べて実力が不足しています。
よってまだAランクで鍛練を続けるべきと考えています」
「ふむ、現役Sランク意見を聞こうかのう」
「俺的には最低条件は揃っていると思いますが‥‥本人達が辞退すると言っているならその意思を尊重すべきだと思いますね」
「ふむ‥‥わしとしては少し残念だが君達が決めたのならば何も言うまい。君達のチームの昇格は保留にしよう」
昇格を拒否するのか‥‥確かに実力が不足してると考えるなら留まることも一理あるが上の実力を知るために昇格するのもありだと思ったが‥‥
まぁ俺に口を出す権限はないから黙っておこう。
「よし、これで今回の報告は終わりじゃ。リュート君達は退席してもらおうかのう。ミスティア君頼んだよ。
ソウジ君とユウマ君は次の仕事に付いての相談があるので残って欲しい」
「分かりました。お先に失礼します」
「りょうかーい。はい、こっちに着いてきてちょうだい」
リュート達はミスティアの後ろに着いて立ち去って行く。
「で、俺に直々に命令するということは見つけたんですね?」
「そうじゃ。詳しくはいつも通り彼女に頼むかのう。フィーネ殿来てくれるかのう」
「はーい」
ん?どこから声が聞こえた?
「君が新人君ね」
「っ!?」
いつの間にか背後にヤマの国の正装である着物を着た女性が居た。一体いつから‥‥
「ふふふ、良い反応ね。私はフィーネ・ドラグスフィア。ちょっと特殊なドラゴンの神格種よ」
「‥‥今のは」
「今のは水と火の複合魔術の霧魔術で私の体だけを隠蔽してたの。普通は自身の魔力でバレちゃうんだけどそこから先は秘密よ」
そういえば少しこの部屋は湿度が高いかもしれない。だが言われてみればというレベルだ。
全く気づけなかった。これがドラゴンの神格種か‥‥
「相変わらず驚異的な魔力の扱いですねぇ。見習いたいものです」
「何言ってるのよ。あなたも似たようなこと出来るじゃない。それどころかさらに上のことまで‥‥ホントにあなた人間?」
「純粋な人間ですよ。ちょっと普通と違うだけで」
フィーネはソウジに向けて疑り深い眼を向けている。
確かにソウジは異常な実力だと思う。人間であることを疑うレベルで。
「フィーネ君」
「あぁ、仕事をしないとね。このトラス中立国の西の国、魔導国家ギル・フレイヤ帝国の郊外であなたの探し物が見つかったわよ」
「魔導国家ですか。分かりました、詳しい座標を教えて下さい。これから向かいます」
「ソウジ。何を探しているんだ?」
「あぁ言ってなかったですね」
「勇者を迎えに行くんですよ」
主観者 ???
ここは冒険者ギルド本部の遥か上空。ソウジ達が報告に行っている真っ最中。
その空に立つは魔力のこもった宝石が大量に装飾された魔女が被るような黒地三角帽子に同じように装飾が施された膝まで丈がある黒地ローブを身にまとった男が居た
「さぁ!幕を開けるは失われし未来を求める旅‥‥
俺は‥‥そうですね、この世界の真実を知る一部の人間のうちの一人ですかね」
まるで劇場のワンシーンのように手を左右に広げ、男は語る。
「俺がこの物語に関わるのは大分先のお話。ですがしばらくは謎の男としてこのように語るとしましょう。出番がないのは辛いですねぇ‥‥‥」
ローブから本を取り出し、捲る。
「さて、次なる目的は勇者。さて、この世界には『魔王』と呼ばれる一般的には『勇者』と対になる存在がいないにも関わらず、なぜ『勇者』が存在するのか?
次の話も目が離せませんねぇ~♪」
男は楽しげに語る。
「さて、そろそろお時間のようです。次に会うときにはまた違う話題を話す時でしょう。
また会う日を楽しみにしていますよ。それでは」
男はどこかへ消えていった。そして最後に言葉だけが響く
「全ては未来のために」
次回は説明オンリー回挟むかもです