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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
六章 破滅の序曲と鈴の調べ
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勇者の兄

 

『シオンくんってさぁ、何になりたいの?』

 迫る拳の中、俺は脳裏で別の光景を見ていた。


 そうか、これが走馬灯か。


『なりたいもの?ねぇよ』

『そうなの?』

『まぁとりあえず……力が欲しい』

『力?』

『あぁ』

 流れているのは学生の頃のドロシーとの会話だ。

 ちょうどソウジが来た頃、記憶を取り戻した後の無気力な頃だ。

 この頃の俺はまだ重力魔術も未成熟、魔剣も一本しか、それも俺が使えないレーヴァテインしか無かった。


『いつか、大切なものを得た時に。もしくは譲れないものがそこにあった時、守れる力が、勝ち取る力が欲しい』

『大切なものって、『家族』……とか?』

 家族……そういえば俺はなんと答えたんだったか。


『……正直頭の中がゴチャゴチャで何をしたら良いのか分からねぇ。……だけど』

『だけど?』

 あぁ、そうだ。


『この際俺を捨てた両親に関してはどうでもいい』

 思い出した。


「『二人の弟くらいは守れるくらいには強くなりたい』んだったな。」

 脳裏の回想が終わる、目の前には雷の拳、それは変わらない。

 だが、


 昔の目標は思い出した。


(こんなところで死んだら……弟の『心』が守れねぇよなぁ!?)

 首元にある首飾りの緑色の宝玉が輝く。


(なぁ、お前が目覚めればこの状況だって打開できるだろう?)

 その剣は主の危機に輝くと言う。

 しかし、シオンが天使に襲われた時には輝かなかった。


 きっと危機の基準が違うのだ。

 本当に『数秒の内に死ぬ』ような事態じゃないと力を貸さない、といった感じに。


『魔剣には意思がある』

 この魔剣はかなりひねくれた意思がある。


 だがその分、この剣には絶大な力がある。

 剣はシオンに一度だけ語りかけた、『私は勝利をもたらす剣だ』と。


(この絶体絶命の状況、勝利に変えれるものなら変えてみやがれ!!)

『ふん、見くびられたものだ』

 時が止まった。

 比喩ではなく、確実に。

 その証拠にバチバチとうるさかった雷の音が完全に消えている。


『おい、こっちだ、小僧』

 背後からがさつそうな女の声が聞こえる、だが時間が止まっているのだ、耳は聞こえるようにされているようだが身体は動かない。


『チッ、そういえば普通の人間は実数時間でしか動けないんだったな』

 背後で指が鳴る、すると辛うじて上半身は動かせるようになった。

 振り返るとそこには金の長髪を後ろで高めに結わえた。馬の尻尾を連想させる髪型の百八十は優に越えるだろう長身の女性が腕を組んで立っていた。


『私はこのつるぎの意思、偉大なる神であるフレイ様にこの身を捧げたつるぎの精霊だ』

 剣の……精霊?


いにしえの技術によって鍛えられた完全に意思のある剣だ。貴様のフェンリルのような死後に呪いのごとく姿を剣に変えてしぶとく生き残った俗物とは違う。なのに人間(ども)は『魔剣』と呼称を勝手にまとめて……!実に不愉快だ!!』

 ……とりあえず普通の魔剣と違うってことは分かった。

 精霊剣とでも呼べばいいか?


『その方がマシだな。だが我々には『神霊武装(じんれいぶそう)』という呼び名がある。そっちで呼ぶことをお前に許そう』

 許そう、っていうかそう呼んで欲しいだけじゃねぇか。


『……話を現実に戻そう』

 逃げんな、おい。


『うるさい、時間動かすぞ』

 本性表したな、精霊。


『……まぁいい。して、この状況を何とかする、か。小僧、貴様は具体的にどうしたい?』

 どうって、どんな選択肢があるんだ?


『二通りが一番早いな。一つ、下半身を動かせるようにして拳が振るわれるだろう場所から離れる。二つ、私が勝利をもたらす』

 一つ目は理解できる、だが二つ目が分からねぇ。


『文字通りだ、今回は出血サービス、何も代償無しに勝利をくれてやる。つまりは相対するものには敗北……死が待ってる』

 おい、お前俺の心の声聞いてたんだろ。


『勿論だ』

 じゃあ二つ目の選択肢は論外って事も分かっているだろうがっ!


『死は救済にもなり得る。ここから先に惨たらしく死ぬ可能性があるならここで兄が終わらせるのも一つの手ではないか』

 拳を防いで気絶させる程度に抑えるとか出来ないのかよ。


『面倒だな。私は本来勝利をもたらす事しか出来ない。フレイ様が逝去されたのも私を奪われた事がきっかけだ』

 お前、遠回しに主を馬鹿にしてないか?


『何を言う。私とフレイ様は一心同体。フレイ様は偉大だが黄昏の前には私が必要不可欠だったのだ。私とフレイ様が揃っていれば今も神の時代が続いていた!!』

 おいおい、主神ゼウスでも止められなかった黄昏を止めれたと豪語するのは少し傲慢が過ぎねぇか?


『ふふふ、それだけ私とフレイ様の相性は……今なんと言った?』

 は?傲慢が過ぎねぇか?


『もっと前だ。主神の事を貴様はなんと言った?』

 主神……ゼウス?


 剣の精霊が片目を見開き、少し考え込んだ。


『そうかそうか、やはりそうだ!フレイ様はまだ生きてる!』

 は?そんな筈は


『小僧、貴様は用済みだ。フレイ様に逢うための繋ぎのつもりだったがこれからフレイ様の痕跡を辿れば出逢える。死んで私を次の持ち主に移せ』

 あ?何言って


 バチバチと音がした。

 時間停止が終わったのだ。


 は?(うっそ)だろあの女!!

 何もしないで時間停止解きやがった!


 ――死が確実なものとなったかに思えたシオンは


 咄嗟にその拳に首にある緑の宝玉を首飾りから無理矢理引き千切ってぶつけた。


『っ!小僧何をしている!?』

 うるせぇ、頭の中に喋りかけんな!!


『貴様がやっていることがどんな愚かなことか分かっているのか!?』

 魔剣ってやつは核である宝玉が壊れると存在を維持できなくなるらしい。


『何を言って、』

 神霊武装とやらはどうなんだろうなぁ?どうせ死ぬならここで試してやるよ!


 魔剣の核である宝玉にはその剣を再現するための超高密度の魔力がある。

 これにヒビが入っただけで魔剣は存在を維持できなくなる。

 もっとも、そう簡単に壊れる代物ではない。


 だが超常の力を持つ勇者の膂力なら……或いは……。


『貴様!何が望みだ!?』

 俺の望みはさっき話した通りだ、てめぇには出来ないことだから気にせず死にやがれ!!一撃耐えれば俺達がアルバートを助けられる!



 シオンの目的はとりあえず最初の一撃を耐えること。

 これさえ成し遂げられれば周囲のリグレッドやウィリアムの援護が間に合う。

 使えない魔剣なら要らない、それがシオンの答えだ。


『待て!私はそこらの魔剣などとは違う!貴様らが何百年掛けようと創り出せない武器だぞ!?』

『勝利をもたらす事』しか出来ない武器なんて欠陥にも程があるんだよ!?もう消えろ、愛しのフレイ様に逢いに逝け!!


『…あぁ、フレイ様、貴方以外に我が身を捧げる愚行を、お許しください……』

 瞬間、緑の光がアルバートを弾き飛ばした。


『……神霊武装は完全なる自由意思を持つ神造精霊が宿る武装。私は本来フレイ様以外に触れさせることはなく、フレイ様にしか全ての力を渡さない』

 緑色の光が形を歪ませる。

 まずは右手に馴染む柄が、


『しかし、貴様は多少なりとも見所はあった。フレイ様と同じく長兄であったしな』

 次に少しだけ反り返った刃が、


『本来は敵を撃滅する事にしか手を貸さないつもりだった……だが、だが!貴様はあろうことか、今や人類の至宝に相応しい私の破壊を試みた。何と馬鹿げて、愚かで、あと百度ほど愚かを繰り返すべき愚行だ!』

 最後に、光が消し飛んだ。


『私は認めた持ち主の理想の姿へと変わる。フレイ様以外はいない』

 藍色の刀身、先端のみが両刃となった刀がそこにはあった。


『好きに振るえ小僧。貴様の行く道、一人の人間の一生を見届けてからでもフレイ様はお許しくださるだろう』


『そう、私の名は……』


「来い、『虹の神剣(アルカンシェル)』!!」


 その剣は持ち主によって姿を変え、色を変える。

 それぞれの色には意味があり、赤は勇猛、橙は友愛、緑は誠実、青は自由、紫は野心。

 そして藍色には羨望という意味がある。


 自分が『持たざる者』だと思っているシオンの心を写したのだろう。


『さぁ、力は与えた。貴様の望む未来を見せてみろ』

「言われなくても、やってみせる。俺は……」


勇者(アルバート)の兄だ!!」



勝利の剣

そのままだと使い勝手悪そうだから変えました。

こっちでは初の神霊武装。

ちなみに実は緑色はフレイ様の色ではない、そして色の意味は剣の製作者とフレイ様しか知らない。

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