世界崩壊への序曲
「ねぇ、何してるのですか?」
いつの間にか赤い髪が銀へと変わっていた。
今の主人格はセレス。
「あ?誰だよ」
「セレスティア・デュオフィール……俺が助けて連れ帰った」
「ッハ、クロエから聞いてたがホントに女連れかよ。そんな事してないでさっさと帰ってこいよ……そしたらもしかしたらアイツはっ」
「何してるのかって聞いてるんですが?」
「っ!待てセレス!!」
セレスの魔力が白い大鎌へと変貌、シオンの脳天にその切っ先が落ちる寸前で止まる。
それを見たシオンも目を見開き、ユウマの襟元を掴む手を離した。
「お前……どんな化け物を飼い慣らしてきた?」
「少し落ち着いて話さないか?この一ヶ月の間に何があったのかを」
そうすればいきなり怒声で迎えられた理由も分かる。
俺達の苦労もきっと分かってくれる筈。
「……あー、随分と激しかったが、まず再会を喜ぶくらいの事はした方が良いんじゃね?一月会ってねぇんだからさ」
「……そうだな」
シオンが手を差し出す。
「いきなり怒鳴って悪かった。よく帰ってきてくれた」
「あぁ、なんとか帰ってこれたよ」
握手を交わす。
やっとの思いで俺は中央大陸に帰還したのだった。
「ソウジは何処にいるんだ?」
「クソ師匠は別行動だ、ただここにはお前の知り合いがわんさかいる、『鈴のしらべ』の奴等も大半はここにいるからな」
塔内に入ると中は活気に満ちていた。
その中にはいつもはギルド本部で酒盛りをしているマークが素面で居るのが確認できた。
「お、ユウマじゃねぇか!久し振りだな?」
向こうもこちらに気付き、笑顔で近寄ってくる。
ただその笑顔には何処か影が射していた。
「あぁ……、でもなんでここにいるんだ?ギルド本部は大丈夫なのか?」
「ん?……まだ何も言ってないのか?シオン」
「戻ってきたばかりだからな、これから色々と状況を説明するつもりだ」
「そうか……ユウマ、いいか?」
マークはその大きな腕でユウマの肩へと手を置いて言う。
「お前は折れるなよ?」
その言葉の意味は、ユウマにはまだ分からなかった。
「あら?ユウマ君じゃないの、本当に生きていたのね」
少し進むとまた話しかけられる、白の長髪に感情が感じられない無表情……アリシアだ。
その場には他にも『鈴のしらべ』の面々が居た……しかし誰もユウマに話しかけてこない、周りの様子が見れないほど疲れはてているのだろうか……。
「ごめんね、ちょっと色々あって皆元気無いのよ」
「それは別に構わないが……、そういえばメ…」
「ユウマ!」
ルさんは何処にいる、と繋げようとしたがシオンが被せるように俺を呼ぶ。
「さっさと来い」
「分かった。じゃあまた」
「うん、また後でね。……君はこれからもっと苦労するだろうけど頑張ってね」
俺が苦労する……?何故だろう。
シオンが俺の言葉に大声で被せてきたのが意図的に感じた。
(……もしかして)
最悪の想像をした、が的外れの想像だと即座に否定した、否定したかった。
「お前の事だ、もう勘づいてるだろ」
「……俺の勘違いなことを願っている」
「残念ながらそうじゃねぇんだ、これが」
アインが否定しなかったことで自分の想像が的外れでは無いことが分かってしまった。
目の前には白い扉、『重傷病者用診療所』と刻まれたプレートが貼り付けられてる。
扉が開かれる、そこには……
横たわった三人とその傍で涙で目元を腫らしている子供がいた。
二人には顔に布が掛けられていたが背格好で誰なのかは分かる。
メル・シルヴァ
ウィリアム・クロノ・フユンフ
そして、顔が見えているのは俺の友人の一人、たった三人しかいないチームの一人。
まだ息があるようだがあまり時間が残されていないように見える。
アルバート・クロノ・ゼクス
「結果から語ろう。俺達はあの男……ヴィルマ・アルファリアに敗北したんだ」
シオンは語りだした。
この一ヶ月、中央大陸で何があったのかを。
◇◇◇
場所はトラス南東、ラミティ山の頂上にあるカルデラ地帯。
通称『聖魔の古戦場』
そこからトラス中央部を見下ろす男がいた。
中央部は現在、黒い球体のようなものに包まれている……ちょうどギルド本部があった場所だ。
「……契約の時は近い」
『忘れてないと良いけどねぇ、千年前にした約束だし』
「お前は千年で俺の事を忘れたか?」
『いやぁ、無理でしょ。君みたいな面白い契約者』
「つまりはそういうことだ。奴は必ず現れる」
男は『千年後、再びここで会うこと』を条件にとある堕天使と契約した。
その堕天使は契約の履行が困難であればあるほど完遂した時に叶える願いの幅が広がるという特殊な堕天使だった。
「もうすぐだ。もうすぐ、奴に一泡吹かせられる……フローライト、お前の子孫も一緒に戦っているぞ」
「そこに私は混ぜてはくれないのか?」
男の背後に立つのは男と同じく、千年前を生きた聖騎士王、その隣には一人の青年が並び立つ。
「悪いが、俺はこの契約を履行した後にまたソウジに戻る。昔話には付き合っていられない、混ざりたければ勝手に混ざれ」
「そうか……それは残念だ、だがまた会えて嬉しいよ、我が戦友、ガルドよ」
「旧友同士で挨拶してるところ悪いが話がある」
青年が突如、その二人の会話に土足で踏み込み、ガルドの胸ぐらに掴みかかる。
「……なんだ?」
「お前が千年前の魔人王だろうとソウジ・クロスヴェルドだろうと関係ない。だが、俺はお前の言うとおりに動いてやった、一ヶ月で出来る限りの事はした……して、俺の弟は、ユウマは何処にいる?」
「……ユウマ・エクスベルクなら今頃ギル・フレイヤにたどり着いている頃だろう、慌てずともすぐ会える」
それを聞くなり乱暴に手を離し、山を飛び降りた。
「待て、リュート!……済まないな」
「いや、構わない。俺も彼には少々手荒い仕打ちをしてしまったからな。……だが、悪魔と契約させたのは少しやり過ぎじゃあないのか?」
「……もう私と出会った頃には本来の寿命の半分以上を使いきっていた、ならば私が知る最大限をもって彼が望む生き方が出来る力を渡すまでの事だ」
悪魔との契約には十年単位の寿命が代償になる、彼にはもうあまり寿命が残っていない。
「私は彼に付いていく、君の策が成就したときが開戦の時だ」
「あぁ。あと三日だ、千年待ったんだ。これくらいは待てるだろう?」
「当然。玉座にふんぞり返る創世神の鼻を明かしてやろう」
互いの拳を軽く打ち付け、聖騎士王は青年を追いかけるべく下山する。
開戦まで残り七十時間を切った。
五章完結しました
今後の予定としてはこの一ヶ月間のシオンサイドの話、ノーザネス編(リュート視点)、決戦編、といった感じで予定しています。
決戦編は長々と書くので残り二、三章予定といったところですがまだ半分、と思ってます。
何度もいいますが終わりは決まってます、もっといえばバッドエンドもグッドエンドもハッピーエンドもあります。
どの終わり方になるかは私次第、まぁ感想とか要望があればそのルートの可能性もありますがね。
って感じで!ここからは簡単なギリスロンド編主人公&新登場かつこれからも活躍予定の人物紹介
ユウマ君
最強主人公!ってのが気にくわなくて作り出した主人公なのですが手札があまりにも少な過ぎて……彼の力だけで勝つ方法が分からなくなってしまったんですよね……、なので魔力眼設定を利用、某無職さまの『乱魔』モドキと最初から予定してた天翼魔法をここで追加しました、強くはなりましたが相変わらず最強には遠いです。
セレスちゃん
そういえば主人公のヒロインいないじゃん、どうせなら好きなキャラをベースに作ろう!と意気込んだもののずっと出すタイミングを見計らってた少女。モデルはMih○y○様のゲーム『崩○シリーズ』のゼー○ちゃん。
ラブコメは好きだけど世界観的に合わないのと書ける気がしないジャンルなのでサラッとくっつけてしまったのは許してください……
シェリダンorシェリル
堕天三柱の二!
既に登場済みの同期が時魔術使いとかいう反則なのでこちらも反則を導入。
想像力と魔力さえあればなんでもござれ、感情によるブーストも可能!時魔術以外は使えるしついでに武器も創れるよ!というチート、無窮魔法。
残りのノアも今後登場の予定なのでご安心を。
赤銅色の髪の男
赤い雷でピンと来る人もいるでしょう。
彼は次の章からがメインなのでここでは多くは語りません
オーリン・ヴァルフレイ
転生者?、運命魔法のタロット使い、王様、ショタ?、という特徴詰め詰めの少年?
五章はセレスとユウマメインだった筈なのに彼に結構ひっかき回された印象。
あ、小アルカナが剣と杖しかないのは許してください、あと二つ増えるとか考えるのが大変すぎるんです……
結局一番設定に時間使ったのもオーリンになっちゃったし……
黒い面がチラチラ出てきてますがそれがどう動くかは私の指次第……せいぜい面白くなりそうな方に転がるのだよ。
以上!
六章は少し書き溜めてから再開する予定なので暫しお待ちを。
五章に満足いただけたなら評価、ブクマお願いします~