三週間後
王都奪還から時は過ぎて三週間後
俺達はギリスロンド王家の炎龍神の紋章が刻まれた巨大な船で中央大陸西端、ギル・フレイヤへと向かっていた。
メンバーは俺ことユウマ、セレスティア、そしてオーリンとその他数十名の兵士や船頭、料理人、商人等々。
オーリン曰く、『王が変わったのだから挨拶はしに行かないとね』とのこと。
だが執務室にギル・フレイヤの観光名所が書かれた本があったのを俺は忘れない、絶対にこの王は挨拶ついでに観光、ではなく観光ついでに挨拶だ。
ただ、何だかんだで俺も楽しみにしている。
約一ヶ月ぶりにソウジやシオン、アルバートと会えるのだ。
ただ不安点もある、それはこの場にいないSランク冒険者達に関係がある。
聞くところによると、通信石が使えなくなってしまったらしい。
ギリスロンドの内乱が終わったことも俺を見つけたことも報告できずじまいのようだ。
『ごめんね~!ちょっと向こうが心配だから先に戻る!』
クロエはそう言い残し、残りの四人と共に内乱が終わってすぐに王都を去っていった。
通信石は俺も当然持っている、しかし空間収納に放り込んだまますっかり存在を忘れていた。
思い出していてもギリスロンドから通信石が使えると思わず放置したかもしれない、いや、恐らく放置した。
それくらい『魔女狩り』の会得には苦労した、今回の戦いで課題も見つけた。
二属性までならば瞬時に発動可能になるまで鍛え上げたが三属性以上になると全く出来ない、もしくは発動が遅すぎて対抗しきれない。
七属性同時は何度挑戦しても一度も成功しなかった。
シェリダン曰く『全属性全く適正が無い訳じゃないからいつか出来るんじゃな~い?百年後くらいに』と軽い口調で言われたが普通の人間は百年も生きない。
諦めるつもりはないが出来ないと思った方が楽なのかもしれない。
ともかく、これから先は三属性以上の瞬間発動を目標に鍛えていくことにした。
「国王様ぁ!!ギル・フレイヤの帝都が見えてきましたぜ!」
「おー、ホントに塔が立ってるんだ。よくあんな作るの面倒そうなの建てたなあ」
前に聞いた話ではあれの基礎は錬成魔法によるもの。
人智を越えた力が基礎にある。
でなければあんなバランスの悪い巨塔建てられる筈がない。
と言った感じにオーリンに伝えると
「ふーん、なるほどね?あれも魔法の賜物なんだ。まぁそれなら納得の出来だね。……じゃああの結界っぽいのも錬成魔法の賜物?」
ん?結界?
「何処だ?」
「ほら、街が出来始めてる辺りから膜張ってるでしょ?あれあれ」
そう言われて目を凝らして見ると確かに、以前には無かった筈の膜が。
それに気づくとほぼ同時に、帝都から赤い光がこちらへ向けて飛来する。
「オーリン!」
「…『節制・杖の11』!!」
「『天与の栄光』!!」
オーリンはすぐさま防御用の光魔術を船本体をピッチリと覆うように発動、ユウマがその力を増幅させる。
赤い光……稲光は船へと降り立った。
「さぁて、わざわざ迂回して海からお越しの所悪いが沈んでもら……なんで貫通してねぇんだ?」
赤銅色の髪で赤目の青年が稲光の中から現れた。
本人は貫くつもりだったのだろうがそうはいかない。
「やぁ、僕達はギリスロンドから来航したんだけど……随分と手荒い歓迎だね」
「あ?ギリスロンド……?じゃあ奴らじゃ無い……か……?おい皇帝!違ったぞ!?」
『ありゃ?ごめんごめん、じゃあ俺の勘違いだったかぁ……』
男は小さい箱に向かって文句を垂れ流す。
というか今の声……それに皇帝って。
「アイン皇帝?」
『おや?もしかしてその声はソウジの秘蔵っ子のユウマ君かな?』
「あ?皇帝の知り合いかよ、ほらよ」
男から箱を投げつけられる。
中々の勢いだったので危うく取り落とすところだった。
「危ねっ!……はい、ユウマ・エクスベルクです」
『おかえり、っていうかまたその暴れん坊は通信端末投げたのか、落として壊れたらどうすんだよ、ったく……』
「うっせ!そんな簡単に壊れる方が悪い!」
『精密機器は大事にしろ!お前だけ一々足で報告に来させるようにすんぞ!?』
アインと男での喧嘩が勃発、だがすぐにアインは本題へと移った。
『はぁ……まぁその暴力って言葉が服を着て歩いてるような奴はほっといて……、ギリスロンドに居たって話はクロエちゃん達から聞いてたけど無事で何よりだ。でだ、もしかしてそっちにギリスロンドの王様も居るのか?』
「初めまして、ギル・フレイヤ皇帝。僕がギリスロンド王、オーリン・ヴァルフレイだ。今後はお互い攻め入ること無く仲良くしようって事を伝えに来たんだけど……結界作ってる感じなんか物騒な気配がするね?」
それを聞いて箱の中から大きなため息が聞こえた。
『お察しの通りだ。貿易、戦争云々を考えてる暇はないしそっちにも無関係な話じゃあない。世界が終わるかもしれないんだからな』
世界が……終わる?
『おい暴れん坊』
「なんだと?皇帝」
「二人をすぐにお連れしろ、船上で端末越しに話すのが面倒だ」
「あっと、皇帝陛下!三人でも良いですか?」
『そいつに聞け、それと前から言ってるがアインで構わん、一応未だに冒険者の一人なんだからな』
「おい、どいつを連れてくんだ」
「『ワタシよ~♪』」
船上から赤が湧き、男の目の前に突然現れたシェリダン。
男は片目を吊り上げるがそれ以上の反応はなかった。
「……まぁ女一人増えたところでたかが知れてる。実力的にも申し分なさそうだな」
すると男は空間収納からロープを取り出し、オーリンに渡す。
「これを女と男の何処かに巻き付けろ。そして絶対に全員掴んでおけ」
「ってわけで、はい、ユウマくん」
「『お願いね~♪』」
「……何故俺に渡す?」
「「『だって一番慣れてそう(だし)だから』」」
確かに二人ともこういう普通の事が出来なそうだが……。
やろうとする努力くらいはして欲しい。
なんて嘆くのも大して意味はない、すぐに二人をしっかりとロープで繋ぎ、最後に自分の手首にしっかりと結ぶ。
「しっかり掴まってろよ、落ちたら死ぬぞ?」
は?と言う前に移動は始まる。
まさに光の速度、赤い稲光に包まれてほんの数秒で四人は帝都へと辿り着いた。
「お疲れー、酔わなかったか?」
「いやぁ。雷の速度で動くなんて中々経験できないから楽しかったよ」
「『ワタシは自分でも出来なくはないけど、何も苦労せずにあの速度で移動できるのは楽ね』」
能天気な二人、だがユウマは若干ふらついていた。
「おい暴れん坊、全部終わったら送迎雷車ってのやらね?多分稼げるぜ」
「その男のような状態になるのが大半だと思うがな」
「ありゃ、大丈夫かー?帰還早々悪かったなぁ。とりあえずもうすぐシオンが来るは」
ず、と続く筈だった言葉が目の前の塔の扉が力ずくで開かれるバンッというような音で遮られる。
その音の原因は、シオンだった。
「シオン!久し振りだな」
「て、めぇは!」
「長々と何処ほっつき歩いてた!!?」
再会の挨拶は襟を掴まれての怒声だった。