支配者との対話
「やぁ、ユウマ青年。時間を取ってくれてありがとう」
「……オーリンにも一度話しておくといい、と言われたしな」
ここは王城の客間。
豪勢な装飾が施された扉を開くと柔らかそうなソファに脚を組んで座っていたヴィルマに軽い会釈をされたのでこちらも軽く手を上げて応じる。
王都奪還作戦が終わり、オーリンに王権が渡った後にも色々なことがあった。
だがそれは後々語ろう、今は目の前の男に集中すべきだ。
「……ふむ、やはりギルド本部で会ったときより魔力が上がってる……それに、あの戦場で使っていた魔術、固有魔術だね?」
「そうだ」
どうせバレているのだろう、正直に白状する。
「うん、最初に言っておこう!現時点で君を殺す予定はない。未来の事は誰にも分からないがとりあえずこの場は安心して欲しい……私もこの場は落ち着いた対話の時間としたいからね」
「相変わらずの遥か上から目線だな」
「当然だろう?私がこの世の支配者になる器なのだから」
睨み合いになる、が先に折れたのはヴィルマの方だった。
「ふぅん、埒が空かない。座りたまえよ、ユウマ青年」
「……あぁ」
促され、ヴィルマの正面へと座る。
支配者との対話が始まった。
◇◇◇
「さて、とりあえず君と私が見たあの未来についてだが……君はどう思う?」
「どう、か……」
ユウマ個人の話だが、死んだときにみたもう一人の俺はあの時死んだユウマだと勝手に断定している。
となると、あの出来事は実際に起こった出来事だろうと推測できる、が、ヴィルマは俺の死後を知らない。
「ただの幻覚だ、と吐き捨てるには鮮明すぎる。ってところだろう」
断定はしない、だが実際に起こったかもしれないくらいの扱いで返すのが正しいとユウマは判断した。
「うん、まぁ概ね私と同じだ。未来に起こりうる出来事ではあるが確定ではない。さて、私はまぁ現状?支配者の道を確実に歩んでいるのだろう、で結末があの状況だとしよう、しかし最期は?あの状況ならまだ私の敵は残っていた、最強の人間が」
そう、あの場には今と少し雰囲気は違えど最強の存在、ソウジ・クロスヴェルドが残っていた。
「結論を言おう、恐らくは私はあの世界線ではあの男に敗北した、と推測した。なんの因果か君と見れたのがあそこまでだったが大した魔力も纏わずに私は突貫していた、君に庇われた彼は確実に私を殺した筈だ、何せ隙だらけなんだからね」
そのまま自分の推論を話続けるヴィルマ。
遮る意味もないのでそのまま続けさせる。
「つまり、だ。今のままだと多分私は支配者になっても負ける。人間達の意思の結集が支配者を越える結末が待ってるんだ……クックック、これはこれで面白いフィナーレだ……だがしかし!!」
正面のテーブルに拳を打ち付け、真っ二つに破壊する。
『おっと失礼』と瞬時に彼は直したが納得がいっていない表情は変わらない。
「何故支配者が負ける?私は完璧な筈なのに、何故人類は抗う?絶対的な巨悪の前に人間は更なる力を発揮する、確かに道理だ。だが私はそれには該当しない、何せ人類の利益になることを成そうとしているのだからな」
「……お前の目的は一体なんなんだ?」
狂っている、と吐き捨てるのは簡単だ。
だがとりわけ奴は『神』という存在に過剰なまでに反応していた気がする。
何かそこに目的があるのか?
「何かを得るためには何かを犠牲にする覚悟が必要だ。君は私に何か与えることは出来るのか?」
「……」
「クックック、冗談だ。今は気分がすこぶる良い、君に私の正義を語るくらい造作もないことだ」
答えに窮して黙る俺に親しげに語るヴィルマ。
仲間ならまだしもこの男にされても不気味なだけだ、或いはそんな懐疑的な感情をぶつけられるのに優越感を抱いているのか?
「私の目的はこの世界の支配者になること。そして人間がこそが世界の頂点……そんな世界を創りたいんだ。君は歪だと思ったことはないか?こんな神だらけの世界に違和感を覚えたことはないと思わないか?」
……それが当然だったから違和感を抱いたことはなかった。
「私が創世神の力を手に入れたらまずは神格種と呼ばれる存在を殲滅しよう。永遠に近い生命を持つ七龍神も創世神の力ならば消滅させられる筈だ」
だがなんだろう。
「神になってしまった私を人間達が邪魔だというならば、討たれる覚悟もしようじゃないか」
直感的なものか。
「全ては君達今を生きる人間達のため、未来のためなんだ。神のシナリオ通りの未来なんていらない、失った人間達のためだけの未来を取り戻したいんだよ。私は」
こいつの言う通りに世界を動かしてはダメだと心の底で何かが騒いでいる。
「神を失うことを誰が望んだ?」
「私が望んだ、他にも神に家族を殺された人々、神を天災だと思い、邪魔だと感じる人々、数多の人々の総意でもある。これこそが正義だ」
「……元人間だろうと殺すのか?」
「あぁ、君のギルドにも君の友達の友達にも神はいるね。彼女等は元々優秀な人間だった……でもその域を逸脱してしまえば私の正義の対象だ、例外はない」
ギルドにいるのは……ミスティアかアリシア、ソウジ辺りだろう。
友達の友達なんて立場にあるのはドロシーくらいしか思い付かない。
「その点ソウジ・クロスヴェルド。彼は素晴らしいね、人類最強にして神にも一切劣らない。恐ろしい人間だ、彼が人間という生物の究極……最高傑作、といっても過言ではないだろうね」
ソウジは神ではなかった。
なら残りの二人か、そのどちらか。
「さて、ここまで私が語ったが、君に良い話がある」
「とてもそうは思えないな」
そして、今までヴィルマがユウマに対して穏やかに接していて理由が判明する。
「ユウマ青年。私の側に、支配する側に付こう」