王都奪還作戦 結1 堕天兵
「ん~、知性の失われた龍神なんて、なんてナンセンスな生き物なんだ!って私は思ってた、が……どうやら私もナンセンスな生き物のようだ」
一頻り、抱き合った後、背後から声がかかる。
見ればそこにはボロボロになって地に伏している炎龍神と殆ど無傷のヴィルマが居た。
「……そっちも終わったのか」
「勿論さぁ、神を下すために得た力だ、一龍神に勝てぬ謂れはないね」
相変わらずの傲慢。
まだ二度しか話していないが奴がこの世界の驚異なのは理解できた。
「……さて、折角だからこの期にじっくりと語らいたいものだ、が……邪魔が入ったようだ」
『お主!上から来るぞ!避けろ!』
「っ!?」
上を見上げると二筋の光線が見えた、それは何故か基本七属性、全ての色が見えた。
セレスを抱えて一筋の光線の射線上から移動する。
もう一筋はヴィルマが軽々と避けた。
「あっれぇ?おいおい、避けられてんじゃねぇかよぉ」
「仮にも我々の試験運用のための試金石だ。これくらいはして貰わねば困る」
「悔しい癖に強がっちゃってまぁ」
四枚の黒翼が空から舞い降りる。
何故ここに?という疑問はすぐに近くの狂人が解決してくれた。
「クックック、なるほど。ついに私を直接狩りに来ましたか」
「おい、あれは俺が指名された獲物だから他を狙えよ」
ヴィルマを指差してその目の前に降り立つ少年のような見た目の堕天使。
「創世神に近づきすぎたものよ、我々堕天兵団が……えぇっと……」
……言うべき言葉を忘れたのか?
「あぁもう!まどろっこしいのは無しだ!コードネーム『死神』貴様を刈り取ってやるぜ!」
「くっくっく、面白い!私を止めてみろっ!!未熟者の堕天使風情が!!」
巨大な鎌を顕現させた堕天使とヴィルマの細身の剣が激突、再び戦いが始まった。
「……で、私は貴様らの相手、と。露払いのためとはいえこんな雑魚のために私が駆り出されるとはな」
「お前がさっきの光線を?」
「如何にも、私が与えられた銘は『天窮』。天上に至る事も出来ない貴様らには勝ち目など無い。惨たらしく死ね」
七属性が彼女の片手に集う、またあの光線が来る。
(七属性同時は流石に厳しいか……だが!)
この状況、やる以外に選択肢は無い。
約束したんだ。セレスと共に生きると。
「…『魔女狩り』!!」
彼女の掌へと放たれた俺の魔力は、
「……?今何かしたか?」
通じなかった。
「逃げろセレス!!」
俺はセレスと堕天使の間に立ち、レーヴァテインを構えて全力で防御の体勢を取った。
「無駄なことを、二人まとめて貫かれてしまえ」
そして光線は放たれた。
それが俺に届く瞬間、何かが割れた音が聞こえた。
しかし、強い衝撃で俺は気を失ったのだった。
◇◇◇
「っ!ユウマさん!」
光線に撃たれたユウマさん。
その衝撃で周囲に爆風が巻き起こる、初撃ではそんな事無かったのに。
煙が立つ中に倒れるユウマさんを見つけ、近寄った。
「良かった……」
奇跡的に無傷だった。
いや、なんで無傷なの?あんな魔力の光線を受けてなんで……
そして気付く、彼の胸元にナイフのような物があることを、そしてそれはもう修復不可能なほど粉々になっていた。
「……もしかして!」
シェリダンの攻撃を何度も受けても傷一つ付かなかったあの防御膜、その起点はこれだったのかもしれない。
そして思い出す。
(……次に受けたら間違いなく、ユウマさんは死んでしまう)
どうして?どうして私達はこんなに過酷な生き方をしなければいけないの?
(ねぇ、シェリダン。聞こえてる?)
『……何よ』
拗ねたような口調、だが答えてくれた。
(ユウマさん死んじゃうよ?)
『……そうね。まぁ頑張った方じゃないかしら。ワタシには勝てたわけだし』
(諦めろって言うの!?)
『ワタシは契約を壊されたから力が出せないの、人が天使を越えた報酬の代わりにワタシが報いを受けてる状態なのよ、今は』
(……じゃあ力が戻れば、シェリダンも出てこれるんだね?)
『それは……そうだけど。でもセレスはワタシなんか居ない方が良いでしょう?』
(今さら何を言ってるの)
『え?』
迷惑なんて散々被った、嫌ってほどに。
『嫌なんでしょう?じゃあ、』
(でも全部私を守るため、違う?)
『っ!』
(ユウマさんも言ってたけど、シェリダンはちょっと不器用すぎるんだよ)
『……うるさいわね』
(だから、もう少しお互い話し合おう?)
『……セレスが良いなら別に……』
ゴニョゴニョと後半戦は何を言っているのか分からなかった、けれどももう一度外に出てくる気はあるみたい。
なら大丈夫。
もう私達は負けない。
◇◇◇
「ユウマさん、シェリダンにも力を貸してあげて?」
「分かった。セレスがそう望むなら」
三十秒ほど意識が飛んでいた。
目を覚ませばセレスが傍にいて、彼女は自分に巣食う堕天使にも力を貸すことを望んだ。
なら俺は……
彼女も俺の仲間だと認めるまで!
「『天与の栄光』!」
「お願い、起きて。もう一人の私!!」
セレスの周囲に赤が湧き上がる。
しかし、彼女自身に殆ど変化はない、銀髪の中に一筋、赤のラインが増えただけだ。
「『フフフフ♪漲ってきたわぁ~!これがワタシを倒した力、ワタシを越えた力!これさえあればワタシは、果てを壊せる!!』」
変化を望まなかった彼女は変化を強く望んだ。
自らが愛した人間の忘れ形見が愛するものを得た。
ワタシが守らなければ、と。
封じられた無窮にヒビが入る。
(抉じ開けるのは、俺の役目だ!!)
セレスの手を取る。
驚いたようにこちらを見るセレス、いや、これはシェリダンか?
「一人の時間はもう終わりだ。お前も一緒に来い、シェリダン!」
「『……良いわね、それ。すごく良い。セレスの幸せを一緒に感じて、一緒に逝ける。それなら……』」
そしてヒビは広がり、完全に割れる。
「『ワタシはもう、一人じゃない!!』」
無窮は解き放たれた。
「……?なんだこの魔力は」
「『初めまして後輩ちゃん。ワタシは無窮の堕天使シェリダン』」
宙に浮かぶは赤、黄、緑、茶、白……そう
無窮は復活したのだ。
「『サヨウナラ、ワタシのセレスに仇なす愚か者!』」
全てが天窮に降り注いだ。
◇◇◇
「やぁ、お義兄ちゃん、元気?」
「っ!?バ、バカな!何処から来た!?」
「何処からって……床から?」
オーリンは城の間取りを全て覚えていた真下に立ち、『世界』のカードで転移して王の元へと辿り着いたのだった。
「騙されてくれてありがとう。お陰でお義兄ちゃんの護衛である龍神はいない」
「……甘い、甘いぞ!クソガキィ!!召喚!」
すると謁見の間に所狭しと龍が召喚された。
「ふぅん?正直驚いたよ、でも見かけ倒しも良い所じゃあないかな?本体の力も削りそうだし良いの?」
「貴様ごときが龍に勝てる筈がない!殺れ!」
僕は思わずため息をついた。
「これほど愚者って言葉が似合うやつはお義兄ちゃん以外いないよね」
『愚者』のカードを手にし、運命の王は龍と対峙した。