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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
五章 運命の紡ぎ手と太陽の覚醒
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王都奪還作戦 転2 太陽の覚醒

 

 目の前の動きが全てスローになる。


 俺が振るう剣が、彼女の首に向かって進む。


 もう止まらない、彼女は俺の手で……死ぬ。


(……ンな事っ、認められるかっ!!?)

 何か出来ることはないか。


 炎を逆噴射して止める?

 一秒で到達する速度の剣に対抗できるだけの勢いはまだ瞬時に出せない!


 咄嗟に魔剣をネックレスに戻す?

 そんな事がすぐに出来るなら戦いの前に事前に出しておいたりしねぇよ!


(諦めるなっ!こんな終わり方、許さねぇ!絶対にセレスを、シェリダンもまとめて救う方法が!)

 力を求めても強欲は囁かない、彼は今傍にいない。


「ふっ、やっと目覚めるときが来たみたいじゃなぁ」

 炎が揺らぎ、時が止まる。


 ……スルト?

「久方ぶりじゃのう、継承者よ。今日はおぬしに祝いと共に継承者の条件を教えようと思ってのう。時の女神達に時間を貰ったのじゃ、お主は身体が動かせない状況じゃが考えてることは私にも伝わるから問題はないな」

 なんでこんなときに……という疑問を無視して彼女は自由気ままに語り出す。


「私の継承条件じゃが、実は火魔術系統に適正がある、以外にも条件があってのう」

 初耳だ。


「当然じゃ、言ってないからのう。というかレーヴァテインは世界を滅ぼせる剣じゃ、それだけで使わせるわけなかろうに」

 ……確かに、というか早くしてくれ、じゃないとセレスがっ!


「慌てるでない。お主の望みも叶うことを伝えに来たのじゃ。むしろ外は気にせず私の言葉にのみ集中せい」

 理不尽だ


「知らなかったのか?私はかなりワガママじゃぞ?……ゴホンッ、スクルドにさっさとしろと怒られたので本題に入るぞ?」

 どうやらそれなりに切羽詰まった状況らしい、俺も小言を挟まずに聞くことにする。


「うむ、助かる。して、お主が授かる力じゃが……母親譲りの力のようじゃ。名を天翼魔法という」

 天翼……魔法?


「それはかつて神々の黄昏(ラグナロク)の時に現れたとある戦乙女(ヴァルキリー)が所有していた、運命に抗うための魔法……結局世界は燃えてしまったがな。一人では大したことは出来ない、だが仲間となら、過去に偉業を成し遂げた英霊となら、お主に出来ないことなどない」

 ……だが、今は頼りにすべき仲間も……それに英霊なんて何処に


「おい、お主の前にいるのは誰じゃ?……確かに私は世界を燃やした大罪人じゃ。じゃが、私の小柄ながらもキチンと宿っている巨人族としての膂力とレーヴァテインの真なる持ち主としての力、使わない手はないじゃろう?」

 そういえば忘れていたな。


「……まぁその不敬な発言は水に流してやろう。して、どうする、使うか?」

 勿論だ、よろしく頼む。


「うむ、では時間もないし。この言葉を心中で叫ぶのじゃ」

 ……あぁ、分かった。


 英雄再臨(エインヘリアル)!!


 時間が再び進み出す。

 今度は時は普通に進んでいた。

 だがセレスティアの首に吸い込まれていく刃は……


 ……彼女の首を落とさず、すり抜けた。


『フッ、『レーヴァテイン』は剣であって剣に非ず。その実は炎そのものじゃ。未熟者じゃったお主には金属質な刀身を与えたがな!』

 レーヴァテインを見れば金属系統だった柄も、刀身も全て炎と化していた。

 だが、全く熱くない。

 握っている感触も確かにある。


『お主に真なる銘を教えよう。それは『ラグナ・レーヴァテイン』。かつて世界を燃やし尽くした魔剣そのものじゃ!』

「これが……神代を終わらせた魔剣……」

 重さは殆ど無い、然れどこの剣を振るう事の重みは増した。


 今までは制限がかかっていたのだろう、しかしその制限が撤廃された以上、感情に任せてこれを振るえば……


 世界は終わるかもしれない。


『安心するといい、お主は私が選んだんじゃ。次は『天翼魔法』の使い手にこれを預けたいと私は願ったのじゃ』

「だがこれは世界を滅ぼせる魔剣なのだろう?」

『うむ、だが何のために私が『天翼魔法』の使い手を望んだと思う?』

 分からない。

 そもそも俺にそんな大層な魔法があるなんて気づきもしなかった。


『天翼魔法は英霊と繋がれる、仲間とも繋がれる。つまりお主はこれから先、一人じゃない』

「……」

『私は一人で抱え込んだ。現在、過去、未来、全て抱え込んで爆発した。今思えば友人に全てを打ち明ければ、あの結末は無かったのかもしれない。じゃが、お主は違う、友も、仲間も、反面教師である私もいる』

 ……心強いな。


『さぁ、その力でお主の想い人を目覚めさせてやれ。その言葉はこうじゃ』

 耳元で囁かれる、そこに存在しているわけではないのにこそばゆい感覚があった。


「『え?……なんでワタシ、絶対に斬られるタイミングだったのに、なんで……なんでなんで、なんでよっ!!?』」

 目を閉じていたシェリダンが我に返り、八つ当たりのように赤の槍と氷の礫が幾つも産み出され、ユウマに殺到する。


『むぅ、無粋な奴じゃのう。私がくい止めるとしようかの』

 レーヴァテインが変化し、氷塊を溶かし、槍を受け止める。


「『何それ何ソレ……!ズルよ!なんでこんな、こんなタイミングで魔剣が進化するなんて例外が来るのよっ!!?』」

『理解の範疇外をあり得ないと称すのは簡単じゃ。じゃが、この世界を理解するなど誰にも出来る筈がない、今まで創世神以外の誰も、世界を創る事は出来なかったからのう……あり得ない、なんて事もあり得ないことなのじゃ』

 スルトの声はシェリダンに聞こえていない、だが彼女は窘めるように語る。

 レーヴァテインが鞭のようにしなり、全ての赤を弾きながら。


「……セレス」

 スルト曰く、完全にセレスの意思が消えているなら今から使う魔法は失敗する。


「『天与の栄光(インペリアル)!!』」

 これは俺が仲間と認識する相手に一時的に大きな力を与える魔法。

 かつての戦乙女はこれで仲間達を強化し、自身は数々の魔剣の英霊を伴って黄昏に抗ったらしい。


(これが通じなければ……いや、必ずセレスは生きてる)

 短い間だった、しかしシェリダンは約束をたがえるような奴ではない。

 邪魔者が入れば嫌な顔をし、俺の言葉も攻撃とみなしたのか正々堂々乗ってきた。


 必ず、セレスは答えてくれる。


「『何よ……っ!??、は?なんで?あの子……完全にワタシが掌握した筈なのに!?』」

 赤い髪に銀髪が混じり始める。


(やっぱり、まだ生きてたか……)

 内心、不安はあった。

 緊張のせいか、いつの間にか呼吸を忘れていた肺を急いで動かし、酸素を取り込む。


「……ユウ、マさんっ…!」

「セレス!戻ってこい!!」

「うっ……『させないっ!愛なんてもの、セレスには、これ以上っ!!』消えたく、ない!セレスは、ユウマさんと!」

 二つの意思が彼女らの小さい身体の中で戦いをする、周囲に浮かぶ赤がバタバタと地面を這い回って暴れたり周囲に手当たり次第に当たり散らしたりと制御を失ってることから決してシェリダン優位の状況ではないことが分かる。


 ならもう一度……!

『ならんぞ!天与の栄光は重ねられぬ!被術者の身体が壊れるぞ!?』

「っ!?」

 スルトの言葉で踏みとどまる。


『あとは恋人自身の力を信じるのじゃ!……まぁ魔術以外での手助けなら問題はないじゃろうな』

 そう言い残すとスルトは身体ごとを彼女達から目を外す、何故かチラチラと俺の方向を見ながら。


(……まさか俺にこの戦場の真っ只中でやれと?)

『ギルドの仲間とはいえ初対面の相手にお熱い言葉をぶつけたりする胆力があるお主なら出来るじゃろうと思ったのじゃが……?やらぬのか?甲斐性無しめ』

 ……落ち着け。

 こんなところですべきではないことだと脳内では理解している、しているが心の何処かで『やれ』と囁く奴がいる。

 煽りに乗るな。


「……っ、ユウマさん……!」

 顔を苦し気に歪ませているセレスを見て何かが切れた。

 瞬間、俺は彼女の元へと全速力で走った。

 赤がそれに気づき、邪魔をしようとするも炎に阻まれる。


 柄にもなく魔術を使わない生身での全力だが距離はそう遠くない、すぐに彼女の目の前に辿り着いた。

 そして彼女を、セレスを力一杯抱き締めた。


「俺も……セレスの事が好きだ」

「……ぁ」

「先に言わせて悪かった。本当は、俺が先に言うべきだったのに……気づくべきだったのに」

 周囲の赤が溶ける、見開かれた血のような赤い瞳孔が銀色に染まる。


「ここで誓う。俺は絶対に、セレスより先には死なない。置いて逝ったりなんてしない、だから……」

「……ちょっと締めすぎですよ?ユウマさん」

 肩をポンポンと叩かれてそう言われる、慌てて力を緩めた。


「!……わ、悪い!ん……!?」

 力を緩めた瞬間、腕を振りほどかれ、驚く暇もなく彼女の顔が目と鼻の先、いや、口で完全に繋がった。


 お互いの歯がぶつかり、鈍い痛みが『冷静になれ』と問いかけてる気がするが脳は重なった唇の感触、未経験の事態に混乱し続けている。歯の鈍痛など見向きもせずに。

 実際には数秒だった出来事が何時間にも思えた、その時間が唇が離れると同時に終わる。


「……想いは伝えたから、もう終わりでも良いと思ってた」

「……あぁ」

「ユウマさんの命の方が大事だって、私みたいな不幸な女と一緒になったって幸せになれないって、そう思って諦めた……でも、」

 セレスの紅潮した顔に涙が滲む。


「諦められなかった…!まだ一緒にいたいって、ユウマさんにもっと愛されたいって……愛したいって…!高望みしてしまった……!」

 涙を隠すように俺の胸に顔をうずめる。

 これは彼女の懺悔、なのだろうか。


 仕方がなかった、逆らえなかった、それでも彼女は多くの人間を惨殺した、それなのに自分は幸せになって良いのか……報いを受けなくて良いのか……と。


「……私はこの戦争で、誰よりも人を殺しました、こんな私でも、愛してくれますか?あなたを、ユウマさんを愛しても良いですか?」

 拒絶されたくない、愛されたい、でも罰も受けるべきだ、そういった感情を彼女の中で不安げに蠢く魔力が教えてくれる。


「じゃあ俺とお揃いだな」

「……え?」

 懐から『死神』のカードを取り出す。


「俺もこの城に入るとき、何人も兵士を殺した、このカードでな」

「でもそれって運命の王様の力じゃ……」

 あぁ、もう!細かいことは良いんだよ!?


「俺も一緒に背負ってやる。一人で抱え込むんじゃない、その重たい荷物を少しは俺にも抱えさせろ」

「でも……」

「うるさい、ちょっと黙れよ」

 言い訳ばかりのセレスの口を塞ぐように頭を胸に抱え込む。

 声は聞こえるように耳の隙間は開けてある。


「難しいことは俺が全部やってやる、だからセレスは俺の傍にいて欲しい、もし俺が間違えたら全力で止めて欲しい。……お互いを補いながら、二人で生きよう」

 魔力の揺らぎがピタッと止まる。

 代わりに小さな嗚咽混じりで身体が震え出した。


「寂しかった」

「あぁ」

「もうずっと一人なんだって、ユウマさんとも会えないんだって、この先生きていけるか不安だった」

「……あぁ」

「もう我慢しなくて良いんですよね?」

「あぁ、必要ない、セレスが望むなら、俺はどんなことであろうと助けになる」

 セレスが顔をあげて俺をじっと見つめる。

 目が充血し、折角の整った顔が涙でくしゃくしゃだった。


「私は、あなたの事が好きです、大好きです。愛してます……ずっと、この先ずっーと、一緒にいてくれますか?」

「勿論だ。俺達が離れることは、もう無い」

 その言葉を聞いて、セレスの顔は喜びに満ちた笑顔になる。


 背後で何かが割れる音がしたが関係ない。


 もう一度俺達はお互いを抱き締め合ったのだった。


 

この章の目的達成!

さぁ起承転と来たら……と察しの通り、そろそろギリスロンド編も終わりが見えてきました。

気が向いたら評価、ブクマお願いします

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