王都奪還作戦 起1 作戦決行
さぁ、開幕だ
頑張れ私、ちゃんと書ききれよ?
「……デッケェ城だなぁ。ギル・フレイヤとはまた違った感じだ」
王城は白を基調とした色合いで横に広く、高さはそれほどでもない。
ギル・フレイヤの城は城というより塔だった。
ここは王都、それも王城の目の前。
たった一人でユウマはここにいる。
こうなった訳は数時間前に遡る。
◇◇◇
「まず王城に最初に突撃するのは君だけだ」
最初から衝撃の事実。
だが続きを聞けば納得の理由だった。
「恐らく、シェリダンが用心深くなければ、具体的には僕達が全滅した、と後々確認もせずに適当に報告してれば僕や兵士達は死んだもの、となっている筈。そう思ってる奴らの意表を突く。一人で突っ込む君にはこのカードを預けよう」
そう言われて渡されたのは全身を灰色のローブで包まれ、巨大な鎌をを持った生物が描かれたカードと杖の10。
「死神と杖の10。既に二回は使える程度に運命魔法を籠めておいたから雑魚を一掃したい時に使うと良い、その二枚で格上以外を刈り取るくらいは出来る筈だから」
……なんだかとんでもないカードを渡された気がする。
こんなのを渡して大丈夫なのか?と微妙な表情を浮かべてたのに気づいたのかオーリンが付け加える。
「多分君の方に死神が向かうと思う、僕の占いでは太陽…つまり君ともう一人、死神が助けになると出ていた。願掛けみたいな意味もあるのさ」
「それならむしろ手放さない方が」
「あと単純に僕はそのカードが嫌いだ。不気味だしね」
好き嫌いの問題かよ。
我慢しろよ、そのくらい。
◇◇◇
そんなわけで再び現在に戻り、王城前。
既に俺を警戒してか兵が増えてきた。
それもその筈、俺は既にレーヴァテインを抜刀している。
まだ炎を纏っていないとはいえ、抜き身の剣を持った男が城の前にいれば警戒するのは当然の帰結。
「……じゃあ派手にいこうか。陽動兼、開戦の狼煙だ……レーヴァテイン」
既に抜刀済みの魔剣に魔力を通し、炎を纏わせる。
「まだだ、まだ始まらないぞ……」
それを纏わせる程度に見せながらどんどん魔力を注いでいく。
押さえつけるのに想像力を無駄に割いているため、汗が滲み出るもそれはすぐに蒸発する。
押さえつけているだけで既に近くには影響を与えているのだ。
そして注ぐこと二十秒。
痺れを切らした兵士達が俺を一気に取り囲んだ。
「……それは愚策だよ。優秀な兵士の皆々様」
その分正面が若干手薄になった。
それだけで十分。
「噴炎加速……炎剣解放!」
現象は想像するだけで発動する……だが、口に出した方が効率が良い。
所詮は早く出すため、それと現象を隠蔽する手段の一つに過ぎない。
ハッキリと発言した俺の言葉通り、溜め込まれた魔力を一気に解放したレーヴァテインの爆炎で正面の兵士を無理矢理突破、そのまま王城の正門、跳ね橋が架かる筈の堀を飛び越え、橋を上げる綱を焼き斬る。
まだ勢いは途切れない。
次は正門の扉。
五メートルは下らない巨大な扉、重たそうな金属で出来た扉。
(関係ねぇ。この剣を防ぎたけりゃ)
構わず振り下ろす。
「オリハルコンの扉でも持ってこいっ!!」
頑強な筈の正門扉がバターのように軽々と斜めに斬り裂かれた。
ズンッと重たい音を立てて上半分が城内へと落ちる。
「……まぁそうだろうな」
扉に押し潰された兵の叫びを聞いて中にも大量の兵が居ることを確認。
レーヴァテインの勢いは扉を斬り裂く事で止まってしまった。
次の一手、ユウマはオーリンに渡された二枚のカードを取り出す。
「えっと……『死神・杖の10』こんな感じだったかっ!?」
オーリンの見よう見まねでの詠唱で魔術は発動、二枚のカードから黒い影が飛び出した。
下半分だけが残った扉の先から『ぎゃあああ!!』『死にたくなっ!?』『たずげっ!』と様々な言葉で悲惨な最期を遂げた兵士達の断末魔が聞こえた。
(……一体何が飛び出したんだか)
二枚のカードを苦笑いを顔に貼り付けながら見つめる。
一瞬鎌が光ったように見えたのは気のせいだろう、絶対に。
「……これは酷い」
爆炎の勢いで扉を飛び越えると百に達するかどうかくらいの数の兵士達が外傷無く転がる様を目撃する。
ただ、誰も動く気配が無いところを見ると死んでいるのだろう。
「『一階の大広間で待ってる』」
「っ!」
耳元に突然ノイズがかかった声、シェリダンの声が聞こえた。
すぐに振り向いたがそこに彼女はいない。
森でしたように身体を液状化して移動したのだろう。
(……教えてくれるならそこに真っ直ぐ突き進むまで!)
とりあえず正面に続く長い廊下を駆け出した。
筈だった。
突如としてドロリとした墨のように黒い何かが眼を覆った。
思わず眼を一瞬閉じ、次に開いた時には場所が長い廊下から倉庫のような物が散乱した部屋に変わっていた。
「っ!?なんだ!……ここは何処だ?俺は確かに廊下を」
「こんにちは!一人で国を相手にする勇敢な男の子!」
周囲を見渡すと再び不快な感覚と共に暗闇が一瞬眼を塞ぎ、晴れたときには正面の本の山に燃え盛る炎のような赤い長髪をゴムで後ろにまとめた女性が現れた。
衣服はパンツルックにコート、どれも黒一色でまるで何処かの最強の男のような風貌。
「君みたいな元気で強い子、私はキライじゃないよ?でもね、ちょぉっとタイミング悪いかな」
彼女は空間収納から自分の背丈とほぼ同等の長さの刀……太刀と呼ぶべき武器を取り出した。
「大丈夫、少しの間拘束するだけですぐに解放してあげるから」
三度視界が歪む、気づけば彼女は既に目の前、振り下ろされる直前の太刀が……峰打ちで迫っていた。
狭い部屋の中で金属が激しく衝突した音が響いた。
ユウマは迫る峰を間一髪、剣速を上げることだけを考えた爆炎纏う剣で対応した。
「あれ!?防がれた!?」
「……時が跳んだように見えた」
いや、間違いない。あの見たことがない黒いドロドロとした魔力の正体。
目の前の彼女は時魔術の使い手だ。
(とりあえず吹き飛ばすっ!『エクスプロム』!)
「うわっ!なにぃ?これ」
思考と同時に彼女にギリギリ当たる範囲で衝撃波を放ち、吹き飛ばす。
「ひゃあ~、初見で私の動きに対応できる人っているんだねぇ……ん?君……何処かで見覚え、というか聞き覚えがある見た目だなぁ……ちょっと待って!数秒だけでいいから!」
ん?様子が変だ。
太刀を地面に突き立てて腰の辺りにあるポケットをゴソゴソと探っている。
「あったあった。えぇっと……黒の短髪、炎の魔剣を持った青年……ピッタリだ……」
メモ用の小さい紙、だろうか。
それと俺を交互に見て眼を見開いた。
「君、名前は?」
「……ユウマ・エクスベルク」
「やっぱり!やったぁ~!!これでソウ君に誉めて貰える~!!」
彼女は俺の名を聞くと跳び跳ねて大喜び、何故……と思ったが『ソウ君』という名に一人だけ心当たりがあった。
「まさかソウジの知り合いか?」
「知り合いも何も、私とソウ君は将来を誓った婚約者だよ?」
……あぁ、この人がソウジを追いかけて冒険者になった人か。
「クロエ・イマジナリアだよ!よろしくね」
海を越えた異国の地で、俺は最強の婚約者に出会った。