堕天使シェリダン
「お待たせ、調べた結果が出たよ」
「結局三時間もかけるとは……随分と楽しんでいたみたいだな?」
「ハハッそれはごめんごめん。でも待ち時間に見合う情報を約束するよ」
いつもの調子で軽い笑みを浮かべながらそう言うオーリン。
「まず始めに、この世界で有名な堕天使が三柱いる。それは知ってるかな?」
「現存する中では最古にして最強の三柱なら聞いたことはある」
昔話にもなるくらいだ、名前くらいは知ってる。
「ゼログウィン、シェリル、……あとは、ノアだったか」
「正解、でもどれも現在は消息不明なんだ。ただ、今回出会ったシェリダン、それがこの三柱の一柱の可能性が極めて高い」
「シェリルか?だが名前が近い以外の根拠は」
「用意していないと思うかい?僕はね、結構理詰めが好きなんだよ」
それからオーリンは語り始めた。
シェリダンがシェリルだという理由を。
「まずシェリルが堕ちてからはまず地上の民と子を作ったとされている。一部では慈愛の堕天使とも言い伝えられてるそうだ。……ところで、話がちょっと変わるけど、君は吸血鬼に出会ったことはあるかい?」
「無い。だが全く知らないわけではない」
吸血鬼。
彼らは人間の血を糧に生きる、人に極めて近いが人を逸脱した生物。
驚異的な身体能力、魔力を持ったが弱点も増えてしまった……所謂欠陥だらけの進化をしてしまった人間だ。
「吸血鬼ってね、時に自分や敵の血に魔力を流し込んで攻撃するらしいよ。赤ーい血液の鉄分を利用して剣を作ったり……なんか似たようなもの、見たことない?」
確かにシェリダンの魔術は全て赤い物質で出来ていた。
だが、
「あれは血じゃない」
「うん。全っ然鉄臭かったりしなかったからね。そこでこれさ」
オーリンが一冊の本を取り出す。
タイトルは……
「『吸血鬼の真祖』?」
「そう、この本で僕は確信を得た」
それからオーリンはとあるページを開き、ユウマに見えるようにテーブルの上に広げる。
『真祖の力は誰にも受け継がれなかった。しかし、彼らは新人類として新たな一歩を踏み出したのだ。真祖と全く同じ能力ではない、しかし、自らの血を糧にそれを模倣することを可能とした。変幻自在、千変万化、あらゆる物に変貌する真祖シェリダンの魔法、その魔法に果てはない、名を無窮魔法と言う』
「……無窮魔法か」
「そ、奴の魔法は僕の魔法全てに完璧に対応してきた。光を放てば反射し、雷は恐らくは絶縁体…雷を通さない性質に変化させて受けたんだろうね。どう?怖じ気づいた?」
「そんなわけねぇだろ」
正直、この状況じゃなければ絶対に戦いを避けるレベルの相手だ。
だが今は……
「変幻自在?千変万化?知らねえよ。どんな相手だろうと俺はセレスを救ってみせる」
「いいねえ、ちょっと泥臭いし、過酷が過ぎるけど……これも青春かねぇ」
「青春?」
「いや、なんでもないよ。君は気にする必要はない」
オーリンは拳を突き出してくる、何をして欲しいのかは分かっている。
「勝とう、僕達で」
「あぁ、次はセレスも共に」
ユウマはその拳に自分のものを突き出して合わせる。
王都奪還作戦の決行が迫る。
◇◇◇
「『以上、報告は終了です~』」
「フン、そうか、死んだかあのガキは」
シェリダンは自らを呼び出した王の元へと戻った。
彼のはレオス・フォン・ギリスロンド。王位継承権一位、だった正真正銘の王族だ。
金箔をそのまま貼り付けたかのような光沢のある金髪に赤を基調とした派手な装飾が施された衣服、その胸にはギリスロンドの王族の証である赤き龍神が描かれたメダルが付けられている。
「……時に堕天使よ。容れ物の持ち主はどうした?俺と話すのはいつも奴だろう」
「『あー、彼女の意識はもう消えました♪』」
嘘だ。
彼女の想い人との約束を曲げるほど堕ちていない。
欠片ほどだがまだ彼女は残っている。
「それならそれでいい。これで俺の王座は揺るがない」
「『それがそうとも限らないかと』」
「ン?何故だ。ガキは死んだのだろう?」
「『ワタシに啖呵を切った青年が居ましてね、その青年が、或いは』」
概要をかいつまんで話した。
彼曰く容れ物……セレスが愛した青年であること。
セレスを取り戻すために必ず王都に現れるだろうということ。
「は?なんだその無謀なガキは、バカなのか?バカなんだろうなぁ?何せ俺の最強の片割れ、無窮のシェリダンに挑もうだなんて事バカにしかできない!」
「『という訳で近い内に黒髪の青年が城を襲撃すると思うので来たらワタシに一報を、必ずやワタシが彼の相手をするので』」
「良かろう。下がれ」
報告は終了、ワタシは直ぐ様謁見の間から立ち去った。
「フン、万が一がある……俺も出る予定で行くか」
腰にある剣の柄をトントンと叩きながら王は言う。
「獅子は兎を狩るのにも全力を尽くす、だったか?あのクソガキが言ってたのは。良い言葉だ、俺も全力で最後の兎をひねり潰してやろう」
◇◇◇
「『……はぁ……。ッ!!』」
早足で謁見の間から離れる。
誰もいないだろう、場所まで来てからワタシは大きくため息をつき、イラつきを沈めようと魔力を一瞬だけ解放した。
どうせこんなの認識出来る人間はここにいない。
(このワタシが!セレスが愛した人間をああもバカにされて黙っている薄情者だと思われてるとは……っ!!)
確かに、ワタシは堕天使の中でも最強の一角、この国の戦力の中ではトップの龍神と同格だと自負できる。
だが勝負に絶対はない。
(ワタシ自身、彼の力で明かしきれてない点がある)
そもそも『拒絶の氷爆』を見てから相殺するなんて真似を出来る人間は世界で二桁行くか行かないかレベルの人数しかいない。
少なくとも今までワタシが戦った中では五人に満たない。
そしてあの防御膜だ。
あれはなんなの?ワタシが何度も斬っても割れる気配が無く、限界点が見えない。
単純な力での勝負はワタシに部がある。しかし、ワタシも攻め手に欠ける状況なら勝ちの目はどちらにあるか分からない。
(……先に最後の一手を得た方が勝ちね)
久々に戦いの前に思った。
面白い、と。
でも……それでも……
永遠の生を求めた
そして不変を得た
永遠の愛を求めた
そしてそんなものは無いと知った
必ず愛には終わりが来る、ワタシはそれを知ってしまった。
そしてセレスも、愛を知ってしまった。
セレスがこれ以上の絶望を知る前に、ワタシの不変を揺るがないものにするために。
「『彼はここで終わらせる。必ず』」
明日より、王都奪還編、この章のメインエピソードに突入します
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