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失くした未来のその先へ  作者: 夜霧
五章 運命の紡ぎ手と太陽の覚醒
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さようなら

 

「っ!なん!?」

 突如として聞こえた爆音でユウマは飛び起きた。

 すぐにテントから出ると既に周囲の兵士は音源の元へと向かっていた。


「この方向は……オーリンの場所か!?」

 オーリンのテントは一番大きく、実は一番端にある。

『自分のプライベートな空間は欲しいよね~』と前から語っていたがそれが仇になった。

 大多数の兵士が辿り着くまで真ん中にあるよりも暇がかかる。


「急がないと……待ってろ、オーリン……!」

 全速力で音源までユウマは駆け抜けた。




 ◇◇◇




「……どういう事だ、これは」

 結論から語るとするならば、ユウマは間に合わなかった。

 大多数の兵士が横たわる、そこを悠然と通る銀髪の少女。

 少し奥には今となっては見慣れた小さな王が血の池の中に突っ伏していた。


「……来ちゃいましたか、ユウマさん」

 少女は困ったような顔で不器用に笑う。

 相変わらず魔力は優しく、凪いでいる。

 この状況でなければその魔力を見て落ち着けただろう。


「説明してくれよ、セレス……どうしてこうなったんだ……?」

 今すぐにオーリンの元へと向かいそうな足を叩いて押さえつけ、セレスに問う。


「今まで楽しかった。家族以外と過ごす時間でこんなに暖かく感じたのは初めてだったよ」

 しかし、問いに答えないセレス。

 銀髪の前髪に赤い線が入る。


「私の呪いを、否定してくれて、家族から貰った守護の祝福だ、なんて言ってくれてありがとう。少しだけ気が楽になったよ」

「なんで今そんなこと言うんだよ、俺の質問に答えてくれよ!」

「来ないで!」

 駆け寄ろうとするも拒絶される。


「セレスは呪われてるのです。近寄ったらセレスの中にいるもう一人のセレスに殺されちゃいます」

 頼むから近づかないでくれ、と訴えるセレス。

 周囲を漂う大鎌が獲物を求めて風を斬っている。

 それに対してユウマは……


「知らねぇよ!!」

「っ!ダメ!!」

 構わず駆け寄る、彼女の体内に青、黒の魔力。


(何度もやった事だ、今出来なければ意味がない!!)

 瞬時に、光、火を合成。


「……え?なん……で?」

 相殺は成功、ユウマはセレスの手を取ることが出来た。


「いいか?それが呪いだっていうなら……俺が全部打ち消してやる、セレスが傷つける前に俺が全部止めてやる。お前に他人を傷付けさせやしない」

「……嘘、なんで……そんなことできるわけ」

「ならいくらでも俺を拒絶してみろ、否定してみろ。それを全部否定してやる。その上で俺はお前を、セレス自身を肯定してやる」

 彼女の瞳から涙が溢れ出す。


「で…、……の」

「?なんだ、ハッキリ言ってくれ」

 涙混じりで小さい声なのもあるが周囲の呻き声の影響もあってハッキリと聞こえない。


「でも、もう……遅いの」

「遅い……?っ!?」

 それで気づいた、彼女の銀髪の大半が既に赤く染まっていることに。


「『はぁい、ここからはお姉さんが説明してア・ゲ・ル♪』」

「っ!」

 突如として鎌がノイズがかかったような濁った声で喋り出す。

 俺の驚愕の表情に喜んだのか鎌がグネグネと気持ち悪い動きをする。


「『その反応面白ぉい!さて、セレスはね。君が見つけてきちゃった黒い羽根が原因でこうなっちゃったんだよね、実は』」

「……そうなのか?」

 セレスは無言で頷く。


「『彼女にとってあの羽根は凶兆の証、あぁ!可哀想なセレス。任務を完遂したらワタシにカラダをあげる約束を、契約をしちゃったセレス、君はその黒い羽根を運命の王さまに渡すべきではなかった!』」

 俺が……彼女を追い詰めたのか……?


「『もう少し、もう少し、って健気に延長していたのに……あーあ、ワタシもセレスが本当に幸せになれそうだったから、じっとしてたのになぁ』」

「……ぇ、待って、」

「『ん~?どうしたの?セレス』」

「あの羽根って貴女が出したやつじゃ、ないの……?」

「『えぇ、違うわよ?でも結局王さまにセレスの正体はバレてた。そんな中堕天使の羽根があったら戦闘の意思あり、と疑われるのは当然よね~。……って、あれ?』」

 赤く染まりきる前に変色が止まった、既に片眼も赤くなっていたがもう片眼は銀のままだった。


「負け、ない……!貴女にこの身体は渡さないっ!!」

「『契約の強制力に抗った……こんなの初めて……!面白いわぁ~♪』」

 鎌が歓喜に震えるようにくねくねと身をよじる。


「『でも、ダァメ』」

 鎌が棒へと変貌、セレスの首元に衝撃を与える。


「あ……」

「『遅かったのよセレス。何もかもね』」

「ユウマさん……逃げ、て……」

「セレス!!」

 セレスが崩れ落ちるのを抱き止める。


「『逃げた方が良いんじゃない?セレスの願いよ?』」

「逃げるわけねぇだろうが」

「『そ、じゃあ最後にセレスからの伝言をしてあげよう』」

 セレスの腕に力が入り、お互いを抱き締めるような形になる。


「ユウマさんは悪くないです。悪かったのは諦めたセレス……責任は全てセレスにあるのです」

 違う、そんな事ない。


「この一週間セレスは幸せでした。ユウマさんと会えて本当に良かった」

 まるでもう終わりみたいな事を言うなよ……!

 無意識の内にセレスを抱く力が強くなる。


「一緒に中央大陸に行って旅したかったなぁ……、ユウマさんの友達とも会ってみたかった」

 あぁ、会えるさ。ぶっきらぼうだが根は優しい奴も、根っからの善人の勇者も、最強の人間も、色々な奴がいる。

 だからっ!


「さようなら。私が家族以外で唯一愛せた人。私の分まで幸せになってね?」

 セレスの腕の力が消え、だらりと垂れ下がった。


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