セレスティアの魔術
「セレスティア!そっちに行ったぞ!」
「っ!『来ないで』!!」
場所は森の中、セレスティアとユウマは一頭の猪を相手取っていた。
少しずつユウマが傷を付けて弱らせ、セレスティアが氷魔術で足を奪う。
そんな即興の拙い戦術で追い詰めていたのだが事態は急展。
逆上した猪が牙で無理矢理ユウマを退かし、セレスティアへと突進を仕掛けたのだった。
するとその時、瞬時に青と黒の魔力が彼女の身体を守り、猪を吹き飛ばした。
(青と黒って事は氷魔術……?でもあの想像速度は……っと、その前に!)
考える前にユウマは動き、猪の背部から首へと剣を振るった。
炎を推進力として使った一撃はその首をあっさりと落とした。
「すまない、セレスティア。さっさと仕留めれば良かった」
「う、ううん、セレスは大丈夫です」
相変わらず会話が不馴れなのか、それとも俺が嫌われてるのか、最後の言葉が消え入りかけている口調だ。
「てっきり全滅してたかと思ったが……普通にいるな」
「みたいですね……。さ、空間収納にしまって帰りましょうか!」
さっさと会話を切り上げ、帰ろうとするセレスティア。
猪の死体を回収しようと手を伸ばしていたがその前にユウマがそれを回収した。
「俺が持って帰る、空間収納を使うにも魔力は必要だろう?セレスティアは他のことに魔力を使ってくれ」
「は、はい。わかり…ましたです」
(……ちょっと不自然だったか?今のは)
実はユウマにはオーリンから伝えられた密命があった。
◇◇◇
「一応なんだけど、食料になりそうな動物を殺したら君が持ち帰ってくれると助かるなぁ」
「セレスティアには持たせるな、ということか?」
「そうそう」
理由は簡単な話だった、先日の血の匂いの方向に大量の死体があったからだ。
それも狩られてから時間が経っていたため、虫も集っていたとのこと、とても食べれる状態じゃない。
「まぁ今のところ表立って敵対の意思は無さげだけど一応ね、食糧を押さえられると一気にキツくなるからねぇ~こちらに時間がまだ必要な持久戦みたいな形だと特にね」
オーリンの話では策は粗方組み終わってるらしい。
あとは俺の『魔術師殺し』の完成待ちに近いと。
「俺のせいで悪いな」
「君が気にする必要はない。むしろ僕の策の関係上君に準備のリソースを割くのは当然の帰結だよ」
……その時になれば俺は全力を尽くそう、と感謝と共にここで心に誓った。
◇◇◇
時間は現在に戻る。
苦笑いを浮かべたセレスティアがそれに応じたところだ。
「そ、それもそうですね!よく考えたら魔術師タイプの私が魔力使用の圧迫をする空間収納を使いすぎるのはよくありませんです」
横並びに歩き、オーリンのいる拠点へと帰る途中。
ユウマはずっと気になっていたことを話し始めた。
「なんでそんなに『です』って付けるんだ?」
彼女は、セレスティアは必要以上に『です』と語尾に付けるのだ。
普通に使う分には問題ないだろうが彼女は過剰で変な違和感を感じた。
(何となく距離を感じる話し方というか……過剰な敬語?)
もしかしたら無意識の内に彼女に敵視されていて、仲良くなったりしないように常に距離がある話し方を心掛けているのかもしれない。
オーリンには『不用意に刺激するな』とも言われたが『絶対に離すな』とも言われた。
これくらい確信に迫っている……かもしれない問いは不用意の範囲から外れるだろう。
「……これは皆が私の傍にあまり近づきすぎないために自然に身に付いた話し方…です」
(乗ってきた!)
出来ることならここで彼女の確信に迫っておきたい。
帰るまでの二人っきりの時間が勝負だ、彼女は兵士達がいる前では普段以上に会話に応じない。
『ふふ……なかなか面白いカンジになってきてるわね?』