運命の王の憂鬱
「はぁ……マージでどうしよ」
そう一人用のテント内で唸るのは王国派代表、運命魔術に選ばれた王、オーリン。
実は彼自体に仕事は割り当てられてはいない、王たるもの民のために働かなければならないがその民が今は帝国派に掌握されているのだ。
その代わりに彼の双肩にのし掛かるのは王国派を復権させる責任だ。
少なくない兵士が彼に付き従い、国を離反した。
伝統を守るためとはいえただの子どもにしか見えない見た目をした少年を選んだのだ、それに報いる責任がある。
(今は『魔術師殺し』の完成に専念するとして……彼女がいつ動くのかも問題だ)
占いに導かれた太陽はほぼ絶対の防御を約束する加護と力こそ落ちているが神代の魔剣、それに加えて魔力眼の応用による魔術においての絶対のアドバンテージを得るための修行を詰め込んでいる。
あともう一歩、何かが目覚めれば『死神』無しで行っても問題はない……とオーリンは予見している。
正確には『死神』はあとからやってくると視ている。
オーリンの最大の悩みは今内部に抱え込んでいる爆弾だ。
兵士達に調べさせた結果、ユウマが嗅ぎ付けた血の匂いの原因はその先すぐにあった。
魔物も動物も大小様々な傷跡のもので斬り裂かれ、絶命していたのだ。
その数は数十を越える、十メートルは積み重なっていたらしく、森が無ければもっと目立っていただろう。
そしてその原因はセレスティア・デュオフィールだ。
武器を持たない彼女がどうやったのか、全ては帝国派の研究の先にある。
(『至天計画』、まさかあんな形で完成しているとは思わなかった)
帝国派は運命魔術の使い手が産まれない状況を嘆いていた。
このままではいつまで経っても中央大陸に進出どころかギリスロンドを平定することすら不可能だ、と。
そこで手を出したのが神や天使の力だ。
(僕が転生してきた頃には神の方は完成していた、が、恐らく彼らは天使の方も完成してから帝国主義に、実力主義に動いたのだろうなぁ)
至天計画完成体、セレスティア・デュオフィール。
市井から選ばれた彼女、彼女の家系は何故かとある堕天使に縁があった。
なんでも、彼女の先祖がまだ地上にいたその堕天使と懇意にしていたらしい。
堕天使が堕ちたのもそれが理由なのだろうか。
彼女の意思は関係ない、無理矢理に近い形で堕天使憑きに変えられ、帝国の兵器と化した。
(ユウマくんが彼女を、というか堕天使を味方に引き入れられるなら僕は受け入れよう、だが彼女が敵になるなら、彼に責任を取って相手をしてもらう……あーあ、これ僕の相手が神って展開だねぇ!?)
元々オーリンは皇帝、つまり義兄のみを相手にする予定だった。しかし神は義兄の近くにある。
(上手く誘導してセレスティアと神をユウマくんと『死神』に処理してもらう方向で……ってのが理想ムーブだな)
オーリンは予防策の上に予防策を重ねる。
全て自分が死ぬ運命を避けるために動くのだ。
ここ最近は少し目的が変わりつつあるが……
「ともかく、だ。君が重要な立ち位置にいることに変わりはない、理想の運命を掴んでくれることを願うよ」
始め、ユウマくんを視たときに思った。
なんて因果の絡みようなんだ……と
死の因果が首に巻き付いてるのに何者かが生の因果を無理矢理擦り付けているような……なんというか赤い糸と白い糸にがんじがらめにされているのだ。
その原因が過去にあるのか、前世にあるのか、はたまた来世にあるのか、それは僕でも視えなかった。
ただ、彼は運命に憎まれ、愛されているのだ。
何を言ってるのかわからない?正直僕もわからない。
ただ……
彼が世界を統べる様を見てみるのも面白いかもしれない、と思ったんだ。
「……そうか、僕はやっぱり王になりたいんじゃなくて王の傍で伝説の、神話の誕生を見たいんだ……」
解は出た。
この戦いが終わったら僕は……